王女の悪巧み
「ねえ、ナターシャ。……私たちって、魔導具を作る国のために『魔導石』を探して、あの【死の谷】までナターシャのドラゴンで出発したじゃない?
それで、ゼインが巨大な魔力を感じとって、その魔導石の場所をずっと空から追って行ってたら……あの更地で、吊るされていたトニーたちとバッタリ出くわしたでしょ?」
「は……、はい」
「それって、どういうことだと思う? あの魔獣化したアリコーンの体内に、その魔導石が埋め込まれているってことかしら?」
「アリコーンの体内にはないと思います………。
あんな物が体内にあったら、私たちの魔力は弾き返され、操ることは出来ないので。
……じゃあ、あの場にいた一族の人間が、魔導石を直接保有しているってこと……ですか?」
私は、怯えたままのナターシャの瞳を真っ直ぐ見つめながら、浮かべた笑顔を一切崩さずに、至近距離で静かに話しかける。
「そう。……カルミラが、その魔導石を持っている可能性はあるかしら?」
「……どうでしょう。持っているかもしれませんが、でも……」
「……でも、何?」
「それを使って、自身の魔力をさらに増大させるような真似は、あのお方は絶対にしないと思います」
「あら、なんでそんな風に言い切れるの?」
「私たちは……あのガルシアが言った通り、道具なんかに頼らず、自らの肉体だけで魔力や獣を操ることができる誇り高き一族です。
だからこそ、道具を使う他国の者は『出来損ない』だと見下されるのです。私たち一族は、他国の人間よりも遥かにプライドが高い。
……私たちにとって、魔導石のような道具を使って力を増大させるということは……そうですね。
いい大人が、衆人環視の中で乳母車に乗せられ、おしゃぶりを咥えさせられるのと同義――それほどの、耐え難い屈辱なのです」
「――それは、最高に良いことを聞いたわ!!」
私はナターシャの手をギュッと握り、その瞳の奥を覗き込んだ。
「それなら、あの傲慢なカルミラやガルシアは、目の前に魔導石があっても絶対に魔力を増大させないってことよね!
プライドが邪魔をして使えないのなら……じゃあ、私たちがそれを奪って、使ってしまえばいいってことじゃない!」
「そ、そうですね……。理屈の上では、そうなります、けど……」
「いい? ナターシャ、私が教えてあげるから、よーく覚えておいて」
私は、これからの大逆転のすべてをその瞳に宿しながら、最高に不敵で、最高に輝かしい笑顔をナターシャへと突きつけた。
「トニーを始め、私たちはね……。大切な仲間を救うため、勝つためなら――乳母車に乗っておしゃぶりを咥えさせられることなんか、大笑いしながら喜んでやれるのよ!!」
私は、あまりの衝撃的な私のセリフに完全に呆気にとられて固まっているナターシャを尻目に、淡々とこれからの計画を口にし続けた。
橙色の炎に照らされたナターシャの背後の壁には、彼女の歪んだ黒い影がゆらゆらと不自然に大きく揺れていた。
その影の激しい動きこそが、今まさに彼女の心の中で巻き起こっている凄まじい動揺と恐怖を、何よりも雄弁に表しているように私の目には見えた。
「いい? これからの私の目的は……大きく分けて2つ。まずはひとつ目。
リオールのいる魔導具の国へ持ち帰るため、あの【死の谷】でゼインが感知した『魔導石』を、何が何でも手に入れること」
私は、ナターシャの目の前で、人差し指をすっと一本立てて見せた。
「そしてふたつ目。トニーやカイトが言っていた、人間に戻れなくなったアーサーの国のみんなを救うため。……それから、あのアリコーンの角を材料にして、この国で野獣に変えられてしまった罪のない子どもたちを全員元に戻すために、あのアリコーンの『角』を確実に手に入れること。
――必要なのは、このふたつだけなの」
今度は中指を足して二本の指を作り、分かりやすく丁寧に、けれど絶対に退かない強固な意志を込めて説明する。
そして私は、床の藁をミシリと踏みしめると、橙色の灯火を越えて、震えているナターシャの目の前へとぐいと顔を至近距離まで近づけた。
目の前にある彼女の瞳を真っ直ぐに見据え、私は最高に美しく、最高に不敵な微笑みを浮かべる。
「――ねえ、ナターシャ。あなた、もちろん私に協力してくれるわよね?」
ナターシャは、まだどこか怯えるような、けれど同時に呆れ果てたような何とも言えない目付きで、至近距離にある私の笑顔をじっと見返してきた。
「あの……メアリーさんって、普段から周りの人たちに……もの凄く『欲張り』だって言われません……か?」
シリアスな空気の真ん中で飛び出した、ナターシャのあまりにも唐突で素直すぎる一言に、私は一瞬だけ目を丸くし、それから思わずフッと声を立てて笑みを溢してしまった。
「ふふっ……そうね。それは、私への最高の『褒め言葉』としてありがたく受け取っておくわ」
私は床の藁を優しく叩き、もう一度、彼女の瞳を真っ直ぐに、けれど今度は本物の優しい姉のような眼差しで見つめ直した。
「――それでね、ナターシャ。ここからが具体的な『作戦』の中身なんだけど……」




