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異世界転生した看護師の規格外な冒険物語 ※なお、スキルに頼れたのは最初だけ(悲)〜冒険編〜  作者: VANRI


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餌にされた者たち

 カイトはついに観念したように、ぽつりぽつりと話し出した。


 彼にはさっきまでの傲慢な勢いはどこにもなく、まるで酷く怒られた子どものようにシュンとした表情で行儀よく枝の上に縮こまっている。


「……みんなと別れてからさ、ちゃんと無事に着いたんだよ、アーサーの国へ。

 そしたら、なんだか様子が変で。国に入った途端に何か異変を感じたみたいで、アーサーが突然、俺たちを置いてどこかへ走り去ったんだ」


 アーサーをはじめとするその国の人間は、自らの意思で「動物」と「人間」の姿をどちらにも自由に変身することができる。


 少し前、アーサーの父親である先代の国王が亡くなり、本来ならその跡を第一王子が継承するはずだった。だが、その第一王子は悪に染まり、国を他国へ売り渡そうとしたのだ。それを命がけで阻止したのがアーサーだった。


 よって、実質的な王位継承権こそないものの、現在はアーサーが国を治める若きリーダーという立場になっていた。


「変って……一体、何が起きていたんだ?」


 フランが不穏な空気を感じ取り、恐る恐る口を開いた。


「……国民全員が、人間の姿に戻れなくなってたんだよ。

 しかも、今までは動物の姿のときでも普通に人間の言葉を話せたのに、それすら話せなくなってた。

 それどころか、本能の部分を完全に支配されてるみたいでさ。みんな、ああやって理性を失った本物の野生の獣になっちゃってたんだ」


 カイトはそう言いながら、顎で木の下のアーサーを指差した。

 白き獣となったアーサーは、足元で恐ろしい唸り声を上げながら、木の上へ登ろうと獰猛な爪を幹に立ててガリガリと凄まじい音を響かせている。

 けれど、爪が滑ってズルズルと落ち、それでも諦めずにまた木に登って落とされるのを必死に繰り返していた。


 やがて、アーサーはその巨大な身体を一旦木から離すと、数メートル後方から勢いよく助走をつけ、頭からドォンッ!!と太い幹に体当たりをかましてきた。


 ぐらりと木全体が激しく揺れ、トニーとフランは悲鳴を上げそうになりながら、必死に目の前の枝にしがみつく。

 だが、カイトだけは揺れる枝の上で平然とした顔のまま、淡々と解説を続けた。


「それでさぁ、アーサーがその事態をなんとか食い止めてくれるのかなって期待して待ってたら、本人まであんな風になっちゃってさ。

 どうしよっかな~と思って見てたら、今度は俺のことを見つけて追いかけてくるわけよ。『美味そうな肉が飛んでる、食おう』と思ってさ。だから俺、必死に空を飛んで、逃げて逃げてここまで来たんだよ」


 あまりにも長い距離をアーサーに捕食されそうになりながら逃げ続けてきたせいで、嫌でも慣れてしまったのだろう。

 木の下でアーサーがどんなに狂暴に跳びかかろうとしてきても、カイトはもう大して気にも留めていないようだった。


 カイトがふと何かに気づいたように、トニーとフランの身体を、頭の先から爪先まで舐めるようにじっくりと確認し始めた。


「なるほど……そっか。そういうことなら、話が繋がるな」


「なんだよ、ジロジロ見やがって……」


 値踏みされるような不気味な視線に、トニーが不機嫌そうに顔を上げた。


「あ、そうそう。あんたたち、さっき『餌』にされたって言ったろ?

 その餌を目がけて、これからとんでもない魔物がここに来ると思うんだよね」


 カイトは木が揺れていることなど意にも介さず、涼しい顔で話を続ける。


「はぁ!? 何、他人事みたいに当たり前に言ってんだよっ!! っていうか、お前が理性を失ったアーサーをここに連れてきたせいで、ただでさえ戦う相手が無駄に一匹増えてんじゃねえか!?」


「あ、確かに。悪ぃ悪ぃ」


 まったく反省の色のこもっていない軽い謝罪を、カイトはひらひらと手を振って打ち返す。


「でさ、ここに来る予定の魔物ってのが『アリコーン』なんだわ」


「アリコーン……? ユニコーンみたいなもの?」

 フランがすかさず疑問を投げかける。


 カイトは大きく頷きながら、それに答えた。


「似てるけど、ユニコーンは馬に角がある生き物。ペガサスは馬に羽根が生えた生き物だろ?

 その両方の特徴を併せ持っているのが、幻獣『アリコーン』だ。

 ……アリコーンの持つ角には、あらゆる悪意や毒を消し去る強大な『浄化作用』があると言われている。

 それが、この国の兵士たちの目的だよ。あんたたちを餌に使って、おびき寄せて捕らえようとしてるわけ」


 グルルルル……ガシッ!!


 カイトの話の最中にも、下では白いライオンのアーサーが狂ったように木を引っ掻き、凄まじい質量で幹に体当たりを繰り返している。

 その衝撃がギシギシと枝に伝わり、トニーとフランは冷や汗を流しながら、カイトの話に必死に耳を傾けた。


「それからさ……あんたたち、武器を奪われてないだろ?」


 カイトの薄赤の瞳が、トニーの腰の剣へと向けられる。


「……! あ、本当だ。捕まったのに、なんで剣を持たされたままなんだ?」


「つまりさ、アリコーンを捕獲する時にあんたたちが抵抗して、万が一その幻獣を負傷させたり、あるいは殺してしまったりしても、角の『浄化の効果』は失われないってことだよ。

 あんたたちにあえて武器を持たせたまま吊るしたのは、アリコーンを殺されても一向に構わないからだ。

 むしろ、危険な幻獣を代わりに殺してくれたら、奴らにとっては好都合なんじゃない?」


 トニーとフランは、敵のあまりにも冷酷な陰謀に、ごくりと息を呑んで深く頷いた。


「それでさ、俺はそのアリコーンの『角』が欲しいんだ。それがあれば、理性を失ったアーサーの国のみんなを浄化して元に戻せる。

 ……だが、角を手に入れるだけじゃダメなんだ。この国にいる、その角を使って正しく解毒薬を作れる人間を拉致するか、交渉して協力させないと意味がない」


 カイトはそこで不敵にニヤリと笑い、二人の顔を見つめる。


「ああ、それとさ、あんたたちが追ってる『野獣にされた子どもたちの解毒薬』も、そのアリコーンの角を材料にすれば、確実に作れると思うんだよね。

 ……だからさ、ここは俺たち協力して、これから来るアリコーンをぶっ倒して、その角をこの国の奴らとの『交渉材料』にしてやろうぜ」


 



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