カイトの役目、思わぬ出逢い
カイトはぶつぶつと文句を言いながらも、結ばれている縄を手際よく引っ張り、一人ずつ身体を引き上げては縄をスパッと切っていった。
トニーは枝の上にどっかりと腰を下ろし、きつく結ばれていた手首をそっとさすった。そこには痛々しい縄の痕が赤く、くっきりと残っている。
自分の手首に目をやったまま、トニーがぼそっと小さな声でこぼした。
「……まぁ、助かったよ」
「あ?」
カイトの地を這うような苛立った声が突き刺さる。それに、フランが焦りながらすぐさま反応した。
「か、カイト!! 本当に良いところに来てくれたよ! 助けてくれてありがとう!!」
フランはトニーを横目でキッと睨みつけながら、太い木の幹に掴まって立ち上がった。 カイトは不機嫌な表情を浮かべたまま、二人とは少し離れた別の枝にふわりと飛び移り、尋ねてくる。
「で? なんであんたたち、こんな無様に吊るされてたわけ?」
トニーとフランは、これまでの経緯――モグラ竜との激しい戦い、そして負傷したモグラ竜が逃げるために掘っていった深い穴を通り抜け、この国へと辿り着いたことを伝えた。
「……で、穴から出た瞬間にさ、目の前に兵士が何十人も現れて。俺たちはただ、子どもたちのための解毒薬が欲しいだけだって言ったのに、なんにも話を聞いてくれなくて。結局、力づくでこうだ」
トニーは、ため息をつきながら苦々しく答える。
「あんたたち、この国の情報、本当になんにも知らないで突っ込んできたんだな」
カイトが心底呆れたような顔を二人へ向けた。
「情報? 『魔力を使って薬を作る国』ってこと以外にか?」
フランが険しい顔でカイトへと目を向ける。
「っていうかお前、なんで俺たちに敬語じゃねえんだよ。フランよりも年下だろ……?」
トニーは、言いたいことをカイトがブチ切れないであろう、ギリギリの攻めた言い方で伝えてみた。
「あ? だってメアリーが『カイトは友達だから敬語なんて使うな』って言ったんだよ。お前らはメアリーの家来。なら、自然と俺の言葉もこうなる」
納得のいかないトニーは、軽く舌打ちをしてそっぽを向いた。
「そ、それで? この国の情報って、一体何のこと?」
フランが軌道修正するように尋ねる。カイトは、少し二人に身体を近づけ、声を落として話し出した。
「この国の民は、色んな薬を作るだろ? それには当然、強力な魔物から採れる材料がいるんだよ。
……その材料をおびき寄せるための『餌』にされたんだよ、あんたたちは」
「それって、何……? ドラゴンとか……?」
フランはゴクリと、乾いた唾を呑み込んだ。
「まあ……惜しいけど、正解ではないな」
「じゃあ、よく分かんねえけど、こんなところさっさと逃げようぜ!!
こんな危ねえ枝の上にいたら、そいつに食われちまうだろ!?」
トニーが、その木から地上へ降りようと足を下へと伸ばした。
「いや……! ちょっとそれは待った方が……」
「は? なんでだよ」
トニーは訝しんだ顔でカイトを見る。そして、そこでふと、決定的な違和感に気がついた。
「あれ? お前、そう言えばなんでここにいるんだ……?
アーサーの国へ、アーサーやドレイクたちと一緒に旅立ったはずだろ?」
「……え? えっと……いや、そうなんだけど……さ」
カイトの口から、さっきまでの傲慢な勢いが嘘のように綺麗に消え去った。
彼は急に気まずそうに目を激しく泳がせ、用もないのに周囲の葉っぱを気にし始める。
「おい。お前、絶対に何か隠してんな?」
トニーが逃がさないとばかりに、鋭い眼光をカイトへと光らせた。
――と、その時だった。
グルルル……グルル……。
野獣が獲物をじっと狙っているとき独特の、低く重苦しい唸り声が足元から響いてきた。
トニーとフランは反射的に、吊るされていた木の下へと目をやる。
そこにいたのは、輝くシルバーの瞳を持った、巨大で美しい純白の大人のライオンだった。
それは木の根元に低く身を伏せ、獰猛な殺気を放ちながら、今にもトニーたちめがけて跳びかかろうと狙いを定めていた。
「は!? 何だあいつ!? あれが例の魔物かっ!?」
トニーが慌てて腰の剣へと手を伸ばす。だが、その動きを、フランが素早い手つきでガシッと制止した。
「待ってください、トニーさん!! あれ、アーサーですよっ!!」
「……はぁ!? じゃあ、何であいつ、あんなに凶暴になって俺たちを睨んでんだよ!!
あいつ、普通に人間の姿に変身できただろ!?」
トニーの叫び声を聞きながら、フランはゆっくりと、最高に不気味な笑顔を隣の枝のカイトへと向けた。
「さあ……。たっぷりとお話を訊かせてもらおうか、カイト君?」
フランの背後に黒いオーラが見えるような笑顔に、カイトは引きつった顔でじりりと後ずさりした。




