新たな国からの歓迎
「……おい、なんでこうなったんだよ」
トニーが怒りを抑えつつ、低い声でフランへ語りかける。
「さあ……。まあ、強いて言えばトニーさんが油断したからじゃないですか?」
フランは小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、横目でトニーに目をやった。
「あぁっ!?」
トニーは怒りに任せて腕を動かそうとするが、びくとも動けない。
なぜなら今、この二人は不覚にも捕らえられ、腕を後ろに回して縄で厳重に縛り上げられ、挙句の果てに巨大な木の枝に吊るされているのだ。
トニーが暴れるたびに、ギシギシと枝が不穏な音を立てて大きく揺れる。
「あーもう!! 動かないでくださいってば!! 枝が折れたら大怪我するじゃないですか!!」
フランは険しい顔をしてトニーを牽制する。トニーはムッとした顔を見せたが、忌々しげに舌打ちをすると、しばし大人しくなった。
見下ろす地面までは、大人の背丈の倍以上はあった。 死ぬほどの高さではない。
けれど、後ろ手に縛られて受け身すら取れないこの状態のまま真っ逆さまに落ちれば、確実に骨の一本や二本は砕け散る。大怪我をするには十分すぎる、絶妙に嫌な高さだった。
「あー嫌だ……。木にぶつかるたびに、僕のお気に入りの服が汚れていく……」
フランは美しい顔を不快そうにしかめ、肩までカールした金色の髪をふわふわと揺らした。
「見た目なんてどうでもいいだろ、こんな時になってまで……!」
トニーは苛立ちを隠すことなくフランへとぶつける。トニーの長い金の髪が顔にかかって視界を邪魔し、それがさらに彼の苛立ちを増幅させていた。
「何やってんの」
ふと、頭上からはっきりと声が響いた。驚いてそちらを見上げる。
黒い髪。そして、闇をそのまま切り取ったかのような黒く大きな羽根を持つ男が、二人が吊るされている枝の上に、静かに立っていた。
「カイト!!」
「カイトッ!!」
一気に押し出した二人の声が、ピタリと重なる。
カイト――ゼインの腹違いの弟である彼は、鳥人と人間との間に生まれたハーフだった。若くしてその圧倒的な剣術の腕を買われ、現在は鳥人の国の騎士団長を務めている。
通常の鳥人は腕と羽根が一体化しており、足も鳥のそれそのものである。だがカイトは、人間の姿にそのまま美しい黒羽が生えただけの、異質な外見をしていた。
「っていうかお前、その枝に乗るなよ!! 折れるだろうが!!」
トニーが慌てて声を上げる。
カイトが乗ったせいで、太いはずの木の枝がミシミシと不穏な音を立て始めたのだ。
「へぇ~、そうなんだぁ。それは大変だねぇ」
カイトは不敵な笑みを浮かべながら、その場でわざと身体を前後に揺らしてみせた。そのたびに、枝の軋む音がどんどん大きくなっていく。
「お前……! マジで何しに来たんだよ!! 助けに来たんじゃないのか!?」
フランも耐えきれず、吊るされたまま大声を上げた。
「え? 助けてほしいの? そんなこと一言も言わないから分かんなかった」
カイトは相変わらず不敵な笑みを浮かべたまま、二人を冷徹な目で見下ろしてくる。
「チッ……これだから、脳みその小さい鳥は……」「ちょっ……トニーさん!? それは言い過ぎ……っ!」
トニーがまばたきを一つした、まさにその瞬間だった。
音もなく、カイトの細長い剣がトニーの首元へとピタリと這わされていた。
「――ひっ……!?」
カイトはトニーの金髪をぐいと乱暴に引っ張り、無理やり自分の方へと顔を向けさせる。
そして、彼の耳元へと、氷のように冷たい声を差し入れた。
「え? どっちだっけ? 俺に斬ってほしいのは。……縄? それとも、首?」
カイトはぞっとするような笑顔のまま、至近距離でトニーの瞳を見つめる。
兄のゼインによく似たその薄赤の瞳は、底冷えするような怒りで激しく燃え上がっているように見えた。
「俺、馬鹿だからさぁ。縄って言われても、間違って首を斬っちゃうかもぉ。
……だって『鳥』だもんねぇ。仕方ないよねぇ?」
「悪かった!! 俺が悪かったって!! 助けてくださいカイト様、お願いします!!!」
トニーは首元の刃の冷たさに青ざめ、身体をジタバタと必死に動かしながら謝罪の言葉を叫び散らした。




