戦火を求めて
セーラ小隊長は、マーク中隊長と並走する師団長の姿を見て、部下による暗殺の失敗を知る。心の中で舌打ちをしたセーラ小隊長は、マーク中隊長にナーブール村の現状及び周辺の調査結果を報告する。
その様子を師団長は眉をひそめなが見ていた。女が戦場にいるべきではないと考える師団長は、その年齢に驚く。「家で待つ娘と同じくらいの年齢ではないか!」と。
マーク中隊長からの報告の前に、セーラ小隊長の配属に対して次から次へと質問が嵐のように飛び交った。
「ボクサー師団長。司令本部として使っている建屋がございますので、一度、そちらに…」
一見するとセーラ小隊長は、マーク中隊長を助けた形に見えるが、ここで前線から飛ばされたのでは、魂を宝玉に詰め込むことが出来ないではないかと珍しく焦っていた。
マーク中隊長の心境は揺れていた。確かにセーラ小隊長を排除する良い機会だ。しかし、ここまでの戦果は間違いなくセーラ小隊長がもたらしたものであり、たかが女一人のために取り乱すようなボクサー師団長が、この先勝利を呼び込むことが出来るのかと。だか結論は決まっていた。ボクサー師団長の好きなようにさせるしか無いのだ。
用意された司令室の中でボクサー師団長は、セーラ小隊長の異常性に気が付く。師団長を前にしても全くぶれない胆力。会話へ参加するタイミングや内容。歩く姿をみただけでわかる理想的な重心移動や背後からいつ何処から襲われても対応できる軸の意識。それだけで騎士の手本にも暗殺者の手本にもなれるだろう。女、子供だからだろうか? 何とも惹きつけられる魅力がある。母性に包まれるような絶対なる安心感。
マーク中隊長は、ボクサー師団長が、急速にセーラ小隊長に取り込まれているのを感じていた。まずい…このままでは。しかし、ボクサー師団長の言葉はその予想と違っていた。
「セーラ小隊長。ナーブール村に常駐する1個師団の撃破およびその後の対応。それからこのレポートに書かれている戦果と実績。素晴らしいを通り越し、恐ろしい。だが…。年端もいかぬ少女が何故戦場にいるのだ? まぁ…それは聞かぬとしよう。師団長の権限により…」
何ということだ。師団長の権限により、後方支援部隊どころか、情報収集部隊伝令士官として本国の司令室に転属が決定した。
「セーラ小隊長ならば、情報収集も手に入れた情報から最善を導き出すことも容易に出来るであろう。しかし、その情報を元に決定するのは上であり、必ずしもセーラ小隊長の意見が通るとは限らぬ。歯痒いであろうが、これも長い戦いの中で自然と形作られたのだ」
流石のセーラもここでボクサー師団長を暗殺すれば、疑いの目から逃れられぬことぐらいは煮えたぎる怒りの中でも理解っていた…。
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戦場を離れたセーラは、自由都市ソリスアラムにいた。この都市へ着た目的は、1ヶ月ほど前までいた戦場とは全く関係のない国なのだが、新たなる戦火の中心になると踏んでいたためだ。
要するに内乱が勃発する可能性が高いのだ。その内乱の中心となるのは都市学園の生徒たち。何を考えているのか、革命という甘美な響きに魅了され、心の腐った貴族たちに操られていた。正確には違うな。学園の内部で指揮する生徒は、元々貴族なのだから、自分で疑い考えることの出来ない愚かな生徒たちが悪いのだ。
都市学園の門をくぐる。この学園のシラバスは、商業、農業、工業、冒険業などの基本を1年生で学び、本人の意志と適正により専攻を選択し、応用を2年で学ぶのだ。
黒のワンピースに黒の外套を羽織る私は、明るい色合いを好む自由都市ソリスアラムの住民たちからは、異色の存在として浮かび上がっていた。
掲示板に張り出されたクラス一覧でクラスを確認し、指定された教室の窓際で座っていると、ある女子のグループから話しかけられた。




