3-3軟禁
見覚えのない若い侍女が、銀盆を片手に入ってきた。どこか周囲をうかがうようにしている。
「王妃様、お薬をお持ちいたしました」
「ありがとう。少し外の空気を吸いたいのだけれど……」
「……お医者様の許可があるまで、お部屋は出られません」
リリアナは嫌な予感がした。
「もう良くなったわ……」
「その……陛下の許可があるまでは、お部屋を出ることは叶いません」
わずかに開いたドアの外では、衛兵なのか、人の気配がする。
リリアナは身体から力が抜けた。
(監視されている……)
侍女が差し出したお茶から、湯気が漂う。
リリアナは侍女を下がらせた。
ふと、部屋が寒々しいことに気づく。
いつも、途絶えることのなかった火が消えている。魔鉱石は、リリアナに触れさせないためか、すべて取り払われていた。
冷えた手を温めようとティーカップを両手でつつむ。
(あたたかい……)
音楽が忌避された事実を調べるには、王家の隠し書庫にアクセスするか、町での聞き込みをしたい。
だけど、この状況でどうしたら外に出られるだろうか。
(私の味方になってくれそうな人……)
リリアナは、首を軽く振った。
ユリウスは、オスカーに仕えている年月のほうが圧倒的に長い。相談したら密告される可能性も考えねばならない。
侍女のソフィはどうだろうか。
協力してくれたとして、それがバレたら迷惑をかける。
「自分で、どうにかやるしかないわ……」
◇
その日から、リリアナは注意深く時間と人を見るようにした。
いつ、どの侍女が来るのか。廊下の見張りが薄くなる時間帯はいつなのか。
侍女には素知らぬ顔をしてオスカーや、彼の亡き母親について探りを入れた。
侍女たちはリリアナに同情的だった。
どうやらリリアナは、"王の怒りをかって、閉じ込められた悲劇の王妃"ということになっているらしい。
それを逆手に取り、リリアナは涙ながらに反省してみせた。
二週間ほどが経過した。
若い侍女が持ってくる薬――きちんと飲んでいるはずなのに、どこか胸が苦しく身体が重かった。
オスカーは、一切部屋に姿を見せない。
リリアナが抜け出さないとわかると、皆気が緩んできたのか、以前より見張りの精度が落ちている。
(罠かもしれない……けど、今しかない……)
今日からオスカーは、遠方の貴族に会いに泊まりがけで城を出ていた。
部屋に侍女のソフィが朝食を持ってきたタイミングで、リリアナはしおらしく言った。
「なんだか今日は身体が重くて……お昼はいらないわ……」
「まぁ……お医者様をお呼びしましょうか?」
リリアナは静かに首を振る。
「いいえ、一人になりたいの……私に許されるのはそれくらいでしょう……?」
我ながら下手な芝居だなと思ったが、優しいソフィは目に涙をためている。
「お可哀想な王妃様……夕方までゆっくりお休みください」
そう言うと、部屋を出て行った。
彼女を騙すのは気が引けたが、「今は前に進むしかない」とリリアナは自分に言い聞かせ、ベッドから飛び起きた。
「古いドレスが役に立つなんてね……」
リリアナはメアリーのお古の中でも、ことさら貧相なものに身を包み、ブロンドの髪をぴっちりまとめ、帽子を目深にかぶった。
暖炉に残っていた すす をドレスや顔になすりつけると、王妃には見えなかった。
窓を開けて、下を覗き込んだ。
やはりこの時間には兵はいなかった。
「いざとなると高いわね……」
リリアナは、あらかじめ古いドレスを裂いて作っておいた布ロープを、窓脇の飾り金具に固く結びつけた。
結び目を二度、三度確かめる。
窓枠に手をかけ、そっと身を外へ滑らせる。身体が宙に浮いた瞬間、思わず身を縮めた。
下を見ないよう石壁に足を引っ掛け、一段ずつ身体を下ろしていく。
やがて足先に草の感触が触れた。リリアナは静かに身を離し、音もなく地面に降り立つ。
見上げれば、はるか頭上に自室の窓。胸は早鐘のように鳴っていた。
捕まれば、もう二度と自由はない――その予感が背筋を冷やす。
(――出られた)
久しぶりの外の空気を胸いっぱいに吸い込み、リリアナは城の裏門へと歩き出した。
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あとがき
こんにちは雪城 冴です。
いつもありがとうございます!
ついに終わりが見えまして、本作品は4章で完結予定です♪
あと14話です☺
引き続きお楽しみいただけたら幸いです✨️




