3-2奪われた声
※R15 やや強めの暴力描写があります。閲覧時はご注意ください。
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部屋に入るや否や、座る間も惜しいというようにオスカーが口火を切る。
「なぜ石が発光したか、心当たりはあるのか?」
「いえ……私はカンタレア王国でもスキルがないといわれていたので……」
「なぜスキルなしと判定されたんだ?」
「私が歌っても判定道具がなんの反応も示さなかったのです。このようなことが起きたのは今回が初めてです……」
オスカーは眉をひそめ、一呼吸置く。その沈黙は、部屋に重く垂れこめる。やがて低く響いた言葉は、リリアナの胸を凍らせた。
「今後は……歌うな」
聞き間違いかと思ったリリアナは声を失う。返事をすることができない。
「聞こえたか。自室でも、歌は一切禁止とする」
「なぜです……」
なぜ歌を奪われなければいけないのか――
理不尽に到底納得できない。
それなのに、オスカーはこの問いに回答をくれなかった。
「これは命令だ」
答えずにいると、いきなり鈍い音が響いた。
リリアナの背が壁に打ちつけられ、息が詰まる。
オスカーの腕が顔の横に突き立てられ、退路を完全に塞ぐ。
見下ろす瞳には、鋭利な刃のような鋭さがある。出会った時の冷酷な王そのものだった。
逆らえばどうなるか——
(だけど……歌は、私の命の一部だった。父に愛されなくても、母が亡くなっても、小さな声でも歌うことで、私は生きてこられた)
リリアナは、ごくっとつばを飲み込む。
「……嫌です」
毅然と言い返したつもりだったのに、声は弱々しく震えている。
自分がオスカーを恐れているのだと、その時気づいた。
「……分かっていないな。魔鉱石の魔力によって、力が呼び起こされてしまった。もうお前の歌は……ただの歌ではない。」
視線が、喉元に落ちる。
まるで――そこに刃を当てる位置を測るように。
「命令を聞けないと言うなら、従わせるまでだ」
その一言で、背筋が震える。
――『オスカー様は人を容易く傷つけることができるんです』と言ったユリウスの言葉が、警告となってよみがえる。
「最後にもう一度言う。命令だ」
リリアナは唇を噛んで、首を左右に振った。
どちらも一歩も引かずに睨み合う。
一瞬、オスカーの瞳が迷うように揺れ、優しい顔に戻った気がした。
それも束の間、グレーの瞳は血のような真紅に変わり、オスカーの指が、リリアナの細い喉仏に触れる。
その冷たさに全身が硬直した。
「っう……!」
突然、見えない力が喉を締めつけたかのように息が絡みつき、手足が震える。リリアナは苦しさからオスカーにすがりつく。
――だが、彼は抱きとめてはくれなかった。
床に崩れ落ち、喉を押さえて肩を上下させるリリアナを、オスカーは赤い瞳のまま見下ろした。
「歌わなければ、痛みはない――」
薄れゆく意識の中で、リリアナはオスカーを見た。
その顔は――
「オ、ス……カ……」
自分の名を呼びかけて倒れた彼女を、オスカーはそっと抱きかかえた。
声を奪われた王妃を見るその瞳は、リリアナが大好きなスチールグレーに戻っていた。
◇
「ん……」
リリアナはゆっくりまぶたを開ける。
見慣れた天蓋が見える。
自分の部屋に一人、ベッドに寝かされていた。
感覚を確かめるように、そっと喉に触れる。
命令に逆らい、オスカーに魔力で制されていたことを思い出す。
「いっ……」
声は出せるのに、歌おうとするとあの時の痛みと恐怖がよぎり、呼吸がうまく出来なくなる。
「私は、オスカー様のなんなの……?」
距離が近づいたように感じていた。
噂とは違う、氷の仮面の下の顔を見たのは自分だけだ――そう信じていたのに、それは間違いだったのだろうか。
「オスカー様……」
名前を呼ぶだけで、涙が次々と枕を濡らしていき、身体を震わせる度に胸が締め付けられる。
彼にとったら、自分は無価値で、簡単に傷つけてもいい存在だったのだろうか。
倒れる直前に見たオスカーの顔――
(苦しそうだった……)
簡単に人を傷つけるような人じゃない。
「与えられることばかりでなく、自分から動かないといけないわ……」
身体は重かったが、横になっていることが耐えられなかった。
リリアナは起き上がり、ベッドに腰掛けた。
オスカーは何かを隠している。
それは、自分がこの国に来てから感じている違和感と、きっと関係している。
エルジオ国の、音楽への異常なまでの忌避の謎を紐解ければ、オスカーの苦しみも、自分の力の正体も――分かるはずだ。
「よし」
こうしてはいられないと、ベッドの縁に手をかけた。そのとき。
トントン―一




