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3-1マノラ工場見学


 その日、支度を終えたリリアナが部屋を出ようとすると、ユリウスが迎えに来た。


「さぁ、マノラ工場へ参りましょう」



――マノラ(Manora)はエルジオ国の造語で、魔力のマナ(Mana)と気の流れを意味するオーラ(Aura)を組み合わせている。


「エルジオ国の、主となるエネルギーを作っているところですよね?」


「そうです。正確に言うと、発掘した天然資源に魔力を付与する工場ですかね」



「現場を見ることができて嬉しいです。本だけでは限界がありますもの」


 二人で馬車に乗り込む。

 工場長に話があると、オスカーは先に向かっていた。

 急接近した夜から互いに忙しく、彼と顔を合わせていなかったが、リリアナは寂しくもあり、どこかほっとしてもいた。




 馬車でしばらく行くと、中世ヨーロッパのお城のような建物が見えてきた。


「ここが、マノラ工房……」


 何本か煙突がついており、そこから虹色の煙がリズム良く吐き出されている。


 中に入るといくつかの作業場に分かれているが、中央に見上げるほど巨大な装置がある。

 その装置からは、青白い光がぐるぐると螺旋を描き、天井に浮く魔法陣に吸い込まれていた。


 

「この装置で魔力を増幅させて、エルジオでしか採れないガスや鉱石などの天然資源に、力を与えるんです」


 ユリウスの説明に、リリアナは目を丸くしていた。本で知識はあったが、実際に見ると思ったよりも非現実的だった。



「ユリウス、エルジオの方は皆さん、魔力を持っているんですよね?」


「はい。エルジオ人に限らず……実は、人はみんな秘めた力を持っているんです。

エルジオでは、分かりやすく魔力や、属性という言葉を使いますが……」



(人はみんな秘めた力を……)


 カンタレア国で『スキルなし』と言われたリリアナには、きっとなんの力もないのだろう。そう思うと、普段眠っている劣等感が再び頭をもたげた。



 顔色が悪くなったリリアナを、ユリウスが心配そうに覗き込む。

「どうされました?」



「あっ、ごめんなさい。その、エルジオでも魔力のない方っていらっしゃるのかなって……」


「もちろん、いますよ」


 ユリウスは目を細めて光の渦を見る。


「魔力のあるなしはただの個性ですからね。魔力がない者には他に優れたところがありますし……。神様は、上手く配分しておられますよ」



(そう……なのかな……)

 自分も、ユリウスのように考えられたらどんなにいいだろう。

 差別されたくないと思いながら、スキルを持たないことを、誰より恥じているのはリリアナ自身かもしれない。




 彼は魔鉱石を手に取った。


「魔力と言っても、()()()、本来の力を引き出すだけです。死人を生き返らせたりすることはできません」



 片手に乗るくらいの魔鉱石は、黒くつやつやしている。何も言われなければ普通の石に見えた。



「ユリウスもできるのですか?」


 「はい」と言い、彼は右手を石にかざした。


 淡い光がでたと思うと、石は七色に艶めく。明らかに先ほどまでとは違う様子に、リリアナは息を飲む。



「あはは、そんなに驚いてもらえると嬉しいです。僕は光の属性なんです。

これで普通の鉱石よりも、発光エネルギーが強くなります」



「小さい頃映画で見た魔法使いみたい!

……あ、ごめんなさい! 子供みたいな言い方を……」


 顔を赤くすると、ユリウスはにこっと笑い"そのままの口調で良い"と言ってくれた。


 心許せる友だちができた気分だ。光の属性というのはユリウスにぴったりに思える。



「僕なんか、全然大したことないですよ。オスカー様はこの国の全ての属性を持っています。

奇跡も起こせる……そのレベルの力が宿っているんです」



 ユリウスは、少し寂しそうに笑う。



「だからこそオスカー様は、人を傷つけることも容易くできてしまうんです。

力を持つことが、そのまま幸せなこととは限りません」



 誰にも理解されない強大な力。それをたった一人で背負う孤独を思うと、リリアナは胸が苦しかった。

  


 ユリウスは見つめていた魔鉱石を差し出す。

「触ってみますか? 光を与えましたが、ケガするようなことはありませんよ」


 そっと受け取り手のひらに乗せてみると、なんだかほんのりあたたかい。


「ふふ、なんだか私も魔法使いになった気分」


 そう言い、映画の魔法使いが歌っていた曲を口ずさむ――

 


「リリアナ――!!」


 戻ったオスカーの声が届くより早く、鉱石は鋭い光を放った。



「きゃっ……」


 持っていられないくらい熱いのに、石は手に吸い付くように離れない。


 走り寄ったオスカーは、勢い良く石を振り払った。


 音を立てて床に落ちた石は、元の魔鉱石に戻っていた。


(なに……今のは……)


 ユリウスも石を見つめたまま言葉を失っている。


「大丈夫か、見せてみろ」

 怪我がないことがわかると、オスカーは静かに尋ねた。


「……歌ったのか?」


「はい……」


 オスカーは腕を組み黙り込んでしまった。


(どうして……? 私は――スキルなしと判定されたはずなのに……)



 ◇


 城に帰ると、話があるとオスカーの書斎に呼び出された。




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