55 サマンサと食事することにしてみた
定期船は順調にセラフ法王国に向けて航海をしている。
俺は自分に与えられた貴族室から甲板に出てみた。
「うわあ! どこを見ても海しかないや」
船の甲板から見る大海原の景色に俺は感動する。
湖に浮かぶ小さな船ならジルヴァニカ帝国で乗ったことはあるがこんな大きな船は初めて乗った。
「すごいなあ。海は湖より波が激しいから人によっては船酔いすると聞いてたけど全然大丈夫だな」
昔、俺に海の知識を教えてくれた者の言葉を思い出しながら俺は呟く。
知識は一度教えてもらえば俺は全て覚えたが知識はあくまで知識。
経験はなによりも大事なことだ。
ローゼン将軍にも「何事も経験です」といろんなことを教わった。
「そういえばローゼン将軍はまだヒルデで俺のこと探しているのかな」
ヒルデでローゼン将軍のことを見た時は焦ったけど見つからなくて良かったな。
まさかローゼン将軍は俺が今セラフ法王国行きの定期船に乗ってるなんて思わないだろうし。
もしもローゼン将軍に俺が西大陸に渡ったことがバレることがあってもそんなにすぐには追いついて来れないだろう。
ローゼン将軍に見つかったら最悪連れ戻されてまた皇帝をしなくちゃならなくなるかもしれない。
絶対、皇帝には戻るつもりはない。
俺は女とヤリまくりたいんだから。
拳を握り締めた時に同じ貴族室のある甲板に一人の女がやって来た。
黒髪に青い瞳の綺麗な女性。
年齢は20代半ばくらいだろうか。
服装は綺麗な服を着ているし貴族室のある甲板にいるのだからアイデ帝国の貴族の女かもしれない。
「こんにちは」
俺はその女に声をかけてみた。
その女は俺に声をかけられて少し驚いたようだったが笑顔で俺を見る。
「こんにちは。私はサマンサ・リーゼルトと申します。失礼ですがどちらかでお会いしましたでしょうか? 貴方のような素敵な殿方がアイデ帝国の社交界におられたら忘れることはないのですが」
サマンサは俺をアイデ帝国の貴族だと思ったようだ。
そういえば、ドルデン皇帝が言ってたけど貴族室を使うのはアイデ帝国の貴族や皇族だもんね。
「たぶん初めてお会いすると思いますよ。俺はアイデ帝国の貴族ではなく知り合いの貴族の方の紹介でこの船の貴族室を使わせてもらってるだけですから」
ドルデン皇帝からの紹介なんて言ったら俺の身分を疑われそうだから貴族からの紹介って言っておいた方がいいよね。
「まあ、そうでしたの」
「はい。俺はハリーという旅人です。サマンサさんはアイデ帝国の貴族の方ですか?」
「ええ、まあ。元リーゼルト伯爵夫人でしたわ」
「もと?」
「実は夫はアイデ帝国のリーゼルト伯爵でしたが二年前に病気で他界しまして。今はリーゼルト伯爵位は夫の弟が継ぎました。だから私は「元」伯爵夫人なのです」
サマンサは少し寂し気な表情になる。
う~ん、サマンサはどう見てもまだ20代半ばだよね。
それなのに旦那さんを亡くして未亡人ってことか。
「まだサマンサさんは若いのに大変でしたね」
「夫が亡くなった時は大変でしたけど夫の弟がとても親切な方で未亡人になった私の面倒もちゃんと見てくれていますの。だから今は自分のやりたいことをしてますわ」
「そうなんですか」
ジルヴァニカ帝国も爵位は基本的に男性が受け継ぐことになっているから子供のいないうちに爵位を持つ夫が亡くなると妻は苦労することが多い。
でもサマンサは義弟さんがいい人で良かったね。
「ハリーさんはセラフ法王国へは何をしに行かれるんですか?」
「えっと…セラフ法王国に行くのは初めてでどこに行くとか決めてないですけど俺も自分のやりたいことをしようと思ってます」
「そうですか。自分のやりたいことをできるって素敵ですよね」
「そうですね。自由気ままにやりたいことがやれるって楽しいですよね」
サマンサは俺に近付いて来た。
「ハリーさん。良かったら私の部屋で食事でもしながらセラフ法王国のことを教えてあげましょうか? 私は何度もセラフ法王国に言ってるのであの国のことは詳しいんですよ」
サマンサはその青い瞳で俺を誘うように見つめてくる。
俺はそのサマンサから視線を逸らさず見つめ返した。
「そうですね。セラフ法王国について困らないように教えてくれますか?」
「ええ、いいですわよ。ではどうぞ私の部屋へ」
俺はサマンサの客室に向かった。
俺がサマンサに誘われていた頃。
「うぷっ!」
ローゼン将軍は定期船の大部屋に乗っていたが酷い船酔いに襲われていた。
「大丈夫かい? あんた」
同じ部屋の者が心配気にローゼン将軍に声をかけてくれる。
「だ、大丈夫です……これしき軍の訓練に比べれば……うぷ! おええ!」
「おい! だ、誰か! この人を医務室まで運ぶの手伝ってくれ!」
酷い船酔いになったローゼン将軍は数人がかりで医務室へと運ばれて行った。




