44 デイルの日記を読んでみた
時間は深夜近くになり俺は自分の身なりを整えた。
さすがにそろそろビレーデの旦那さんも帰宅するだろう。
ビレーデから言い出したお願いだったけど俺は旦那さんには会わない方がいいもんね。
そう思って俺はこの屋敷を今のうちに出ることにした。
ベッドで眠るビレーデにチュッと最後に口づけをして俺は密かに屋敷を出た。
「ビレーデが旦那さんと幸せになれるといいな。でも俺が再び「皇帝」に戻るとは思わなかったけど」
俺は深夜でも明るいヒルデの街を歩きながらそう思っていた。
既に深夜だが街の中はまだ出歩いている人が多い。
でもその多くは酒場で飲んだ人間らしく陽気な歌を歌って歩いていたりふらふらとしながら歩いている者が大半だ。
俺も酒場で朝まで時間を潰そうかな。
そう思った俺の前方にある人影を見てハッとして俺は近くの建物の陰に素早く身を隠した。
そしてそっと建物の陰から顔を出してもう一度その人物を確認する。
「だから! 黒髪に黒い瞳の若い男を見なかったかと聞いてるんだ!」
「ハハハ、そんな奴はたくさんいるよぉ。それより旦那ぁ。酒を奢ってくれよおぉ~」
「くそ! 話にならん!」
酔っ払い相手に声を荒げていたのはローゼン将軍だ。
やっぱりローゼン将軍が俺を追って来たのか。
見つかったらやばいな。
ローゼン将軍が追ってくることは予想できたがここで鉢合わせするとは思っていなかった。
どうしようかと考えた俺の目の前に小さな酒場が目に入る。
とりあえずここに入ってローゼン将軍をやり過ごそう。
俺はその小さな酒場に逃げ込んだ。
酒場に入るとカウンターに女の人が上半身を折るような感じで頭をカウンターに乗せて顔を伏せて座っていた。
長い黒の髪をしていてそれが顔の部分にかかっているので女が起きてるのか寝てるのか分からない。
だが女の側にはお酒の入ったグラスが置いてある。
そして他には店の主人らしき人物もお客もいない。
この女がこの酒場の主人なのかな?
「あの……」
俺が声をかけてみるとその女がのそりと顔を上げた。
そしてダルそうな声で俺に言う。
「もう、店はお終いよ。他のお店に行ってちょうだい」
女は俺の方は見なかったが女の横顔は見えた。
年齢は30代前半くらい。
黒い長い髪はウェーブがかかっていて背中の真ん中くらいまである。
たぶんこの酒場の主人なのだろう。
本来ならお店が終わりなら他の店に行くところだが今外に出たらローゼン将軍と鉢合わせする可能性が高い。
少しだけでもここに居させてもらえないかな。
俺はそう思って女主人にお願いしようと声をかけた。
「すみません。少しだけでいいんでここに居させてもらえませんか?」
「なによぉ、もう店は終わったって言ったで……!?」
女主人は俺の方を見て驚愕した表情になる。
なんだろう? どうかしたのかな?
「あ、あの……」
「デイル!!」
「え? わあ!?」
女主人はカウンターの席から俺の方に駆け寄って俺に抱きついてきた。
慌てて俺はその女主人を抱きとめた。
「ああ! デイル! あなたが死んだなんて嘘だと信じていたのよ!」
「え? あ、あの……」
俺の胸の中でその女主人は涙を流しながらギュッと俺を抱き締めた。
う~ん、よくは分からないけど俺って人違いされてるのかな。
「あの、俺はデイルじゃなくて……」
「ああ! デイル! あなたが乗った船が遭難したなんてやっぱり夢だったのね。きっと私の元に帰って来てくれると思っていたわ!」
女主人は涙に濡れた瞳をうるうるさせて俺を見る。
どうしよう。人違いだと言いたいけどこの女の人の言ってるデイルって男は船で遭難して死んじゃったっぽいよね。
酔ってるせいで俺がデイルに見えるのかもしれないけど、ここで否定するのもなんか可哀想だし。
俺を見つめる女主人の顔は本当にそのデイルって人のことが好きだったことが分かるぐらいに嬉しそうな顔だ。
今このお店を追いだされてもローゼン将軍と鉢合わせするかもだし。
ちょっと悪い気はするけどそのデイルって男のフリをして少しだけここに居させてもらおう。
「ああ、ごめんね。帰るのが遅くなっちゃって」
「いいのよ、デイル! あなたが帰って来る日のためにあなたの部屋はそのままにしてあるの。さあ、レミお姉ちゃんと一緒に部屋に行きましょう!」
え? レミお姉ちゃん?
レミってこの女のことだよね?
デイルとレミってどういう関係なんだろ。
レミは俺の腕を掴んで二階へと続く階段の方に連れて行く。
俺はレミに手を引かれるまま二階へと上がった。
レミは一つの部屋の扉を開ける。
「さあ、どうぞ。あなたの出発した日と変わりがないはずよ」
その部屋は一目で男の部屋と分かる部屋だ。
壁にかかっている服などから推測すると若い男の部屋のようだ。
ここがデイルの部屋か。
「ちょっと待っててね。デイルの好きだったホットミルクを作ってきてあげるわ。それにお店もちゃんと閉めて来るわね。デイルが帰って来たからいつものように二人で過ごしたいもの」
レミが部屋を出て行ったので俺は荷物を置いてデイルの物であろう机の引き出しを開けた。
泥棒するわけじゃないけどデイルって男がどういう男か分からないとデイルのフリはできないもんね。
そこには小さなノートがあった。
ノートのページをペラペラと捲ってみる。
どうやらこれはデイルの日記のようだ。
『今日はレミお姉ちゃんと一緒に俺の18歳の誕生日を祝った。両親が死んでからレミお姉ちゃんには苦労をかけている。俺はレミお姉ちゃんが好きだ。レミお姉ちゃんも俺を好きだと言ってくれているのになぜこの国では姉弟は結婚できないのだろうか』
え? デイルとレミって実の姉弟なのか?




