136 ビビにお礼を言ってみた
「はぁ、寒い…」
夜の砂漠の寒さが俺を襲う。
宿に帰るつもりだったから俺の服装は防寒が完璧とは言えない。
それに赤馬も疲れてきたのか足取りが重くなっていた。
このまま俺はここで死ぬのかな。
三大陸の女とヤリまくる野望が叶わないのは悲しいけど。
冷え切った身体が自分の限界が近いことを伝えてくる。
赤馬に乗っているのも段々辛くなってきた。
このお馬さんだけなら生き延びられるかな。
本で動物には帰巣本能があると読んだことがある。
赤馬に帰巣本能があるかは分からないがこのまま俺が乗っていたらこの赤馬も死んでしまうかもしれない。
せめてこのお馬さんだけでも助かって欲しいや。
俺は意を決して赤馬を降りた。
周囲はまだ夜の砂漠が広がるだけ。
本来ならこの赤馬を逃がしてしまえば俺にあるのは「死」だけだろう。
でも俺は『皇帝を辞める』と置き手紙を残した時からいつかどこかで誰にも知られず自分が死ぬことも覚悟していた。
だから「死」は怖くない。
「お馬さん。自由にしてあげるから自分でお家に帰りな」
そう言って俺は赤馬のお尻を叩いた。
赤馬は「ヒヒ~ン」と一鳴きして走り出す。
俺はその場に仰向けに横になった。
夜空には綺麗な星が輝いている。
「もっと、女とヤりたかったなぁ…」
呟く俺の身体が冷えていくのが自分でも分かった。水分も取ってないから喉の渇きも感じる。
段々と意識も薄れてきた。
すると「バササッ」と上から音が聞こえたような気がした。
眠くなってくる瞳で空を眺めると大きな鳥が飛んでいる。
鳥…? でも夜は鳥は目が見えないから飛ばないはず。
これは夢か?
疑問に思いながらも俺はどんどんと眠気に襲われていく。
自分の「死」が迫ってくるのを感じた。
俺は目を閉じる。
ザッ、ザッ
近付いてくる足音が聞こえた気がした。
気力を振り絞って俺は目を開ける。
そこには俺を見下ろすフードを深く被ったマントのようなモノを着た誰かがいた。
顔は分からなかったが唯一確認できたのはその人間の赤い瞳。
あの時の追手に追いつかれたのか…?
でももう戦う力がでないや……
俺の意識はそこで途絶えた。
俺の口に何か冷たいモノが流し込まれる。
喉が渇いていた俺はそれを飲み込んだ。
「う、う~ん、もっと…」
一口飲んだだけでは俺の喉の渇きは収まらない。
そして口の中に再び感じる冷たい感触。俺はそれを飲み込む。
これは……水…?
沈んでいた俺の意識が浮上して俺は目を開いた。
すると俺の目の前に赤い瞳に黒髪の20代半ばくらいの女の顔がある。
「わああ!」
驚いた俺は思わず叫んで身体を起こす。
女は身軽に俺の身体から離れた。
「どうやら気が付いたようね」
「え?」
女は笑みを湛えて俺から離れる。
ここはどこ? 確か俺は夜の砂漠で死んだはず…
自分の手足に力を入れて確認するがちゃんと身体は動く。
辺りを見渡すと小さなテントの中のようだ。
そして俺は温かい毛布にくるまれて寝かされていたらしい。
冷え切ったと思った身体は温かくなっている。
俺は改めて目の前の女を見た。
女は俺を襲撃した男と同じ赤い瞳だが俺の身を案じてくれるなら俺の敵ではないだろう。
「あの…俺はハリーって言いますけど、もしかして砂漠で倒れてた俺を助けてくれたんですか?」
「私はラティファよ。そうねぇ、私が助けたというより『ビビ』が助けたことになるかしら」
「ビビ?」
すると「バササッ」と音が聞こえたと思ったら俺に向かって黒い塊が飛んできてぶつかった。
「わああ!」
俺が再び叫ぶとその黒い塊は俺の胸にぶつかった後に足元に着地する。
よく見るととても大きな鳥だった。
しかも顔も丸く瞳も丸い。
こんな鳥は初めて見た。
鳥と俺の目が合う。
その瞬間、グルンッと鳥の首が180度回転して後ろを向いた。
「わああ! 何だこれ!?」
「フフ、貴方はフクロウを知らないの?」
「フクロウ?」
「そうよ。この鳥はフクロウと言って夜行性の鳥でね。名前は「ビビ」よ。私の所に空馬になった赤馬が走ってきたからおかしいなと思ってビビに周辺を飛ばせて様子を見させたらビビが貴方を見つけて私に知らせてくれたの」
俺は自分が砂漠で見た大きな鳥の影を思い出す。
あれが「ビビ」だったのか。夜行性の鳥もいるんだね。
でもそのおかげで俺が助かったならビビにお礼を言わないと。
「ビビ。俺を助けてくれてありがとう」
すると再びビビの首が180度回転してビビは俺の顔を見て「ホオォー」と鳴いた。
首が回転するフクロウってちょっと怖いけど面白いな。
でも命が助かって良かった。だってまだまだ知らない国の女たちもたくさんいるのにその女たちとヤレないなんて死んでも死にきれないもんね。
ビビ、本当にありがとう!




