106 安売りはしないことにしてみた
夕方近くになり隊商はハルシンに着いた。
ハルシンは砂漠の中にあるがかなり大きな王都だ。
街の中心には王宮だと思える巨大な建物がある。
そして多くの人々が暮らせるように水路が整備されていた。
隊商は宿について一息ついた。
ジーフ王子が俺にこっそり声をかけてくる。
「ハリー殿。とりあえず今日は母上と王宮に戻るので明日になったら王宮を訪ねて来てくれ。ハリー殿の名前と俺の名前を出せば大丈夫のようにしておくから」
「はい。分かりました。ジーフ王子様」
俺が承諾するとジーフ王子とリネットとヤクルは宿から出て行った。
するとモーガンがやって来る。
「お疲れ様でした。ハリーさん。ここまでの護衛の代金です。どうぞ」
モーガンはお金の入った小さな袋をくれる。
俺は袋の中身を確認した。
中には数枚の金貨が入っている。
あれ? 特に何もしてないのに金貨なんて貰っていいのかな。
「あの、モーガンさん。これって少し多くありませんか?」
「護衛商会の特別ランクの方の相場はこれくらいですよ」
「え? そうなんですか?」
「もしかしてハリーさんはまだ護衛商会の仕事をして日が浅いんですか?」
「はい。初めての仕事はもっと少ないお金だったんで…」
「なんと!? それは契約する時にちゃんと注意しないといけませんよ。自分を安売りしてはいけません」
真剣な顔でモーガンは俺に注意してくる。
安売りしたつもりはないけどこれからは契約する時の報酬はちゃんと確認しないとか。
元々、俺は生活費は十分な貯えがあるので護衛でいくら稼げるかは問題ではない。
あくまでこの仕事は立派な平民になるのが目的でやっているのだから。
「分かりました。これからは契約する時に気を付けます。いろいろご迷惑をかけましたがありがとうございました」
「いえいえ、私たちもハリーさんに護衛していただいて無事に何事もなくハルシンに着けましたから」
う~ん、本当は結構いろいろあったんだけどモーガンさんには言えないもんね。
モーガンさんの娘のオリヴィエとかこの国の王妃のリネットとヤッたなんて。
「モーガンさんはこれからハルシンで商売するんですか?」
「ええ。明日は私の第二隊の隊商もハルシンに着くでしょうからそしたら私は商売を始めます。ハリーさんもお元気で旅を続けてください」
「はい。お世話になりました」
俺は荷物を持って自分の宿を見つけに王都を歩き始める。
夕暮れ時だがまだまだ外を歩いている人間は多い。
砂漠の中の都でも水路が完備されているせいかそれなりにみんな生活しやすそうだな。
少なくとも王都の民を見ているとこの国が民に対して圧政しているようには感じられない。
「ねえ、そこのお兄さん」
「え?」
不意に声をかけられて俺は声がした方をみた。
そこには黒いローブを纏った女がいる。
年齢は20代半ばの黒髪に黒い瞳の女だ。
「何ですか?」
「あなた、どこかの王族なの?」
「え?」
いきなり「王族か?」と訊かれて俺は内心焦る。
王族というより俺は皇帝そのものだ。
何で俺の正体をこの女が知っているか知らないが俺は警戒を強める。
「俺はただの旅人ですよ。なぜ俺が王族なんて思うんですか?」
「あら、私の占いもたまには外れるのかしらねえ」
「占い?」
「私は占い師なのよ。私の占いは当たると評判なの。どう? お兄さんも私の占いやってみない?銀貨一枚でいいわよ」
う~ん、占い師って不思議な能力でいろいろ予言したり運勢や吉凶を判断する人のことだったよね。
不思議な能力で俺のことが分かったのかな。
でも俺が皇帝だって認める訳にはいかないんだよね。
だけどちょっと興味あるかも。
ジルヴァニカ帝国には占い師という商売はない。
人心を惑わすという理由で禁止されているのだ。
「どんな占いでもやってくれるんですか?」
「ええ、金運や仕事運や恋愛運や健康運。なんでもいいわよ」
「それならお願いします。俺はハリーって言いますけどあなたは?」
「私は占い師のキキよ。じゃあ、私の館で占ってあげるからついてきて」
キキが歩き出したので俺はその後をついて行った。
まだキキを完全に信用はしてないが初めての占いに俺は興味津々だった。
俺のことを「王族」だって見抜いたキキなら他の占いも当たりそうだもんね。




