105 ハルシンに向けて出発してみた
「はあ、その女の方はジーフさんのお母様ですか」
「そうなんです。モーガンさん。彼女もハルシンまで一緒に連れて行ってもらえませんか?」
次の朝、俺はリネットやジーフ王子たちの正体を明かさず迷った母親をジーフ王子たちが探していて偶然俺がリネットを見つけた話をモーガンにしていた。
「それはジーフさんたちも大変でしたね。それならその方も一緒にハルシンまで行きましょう」
「ありがとうございます。モーガンさん」
なんだか同行者が次々に増えてモーガンさんにはちょっと悪い気がするなあ。
別に俺のせいじゃないんだけど。
リネットの方を見るとリネットはフード付きの上着を着てフードを深く被って顔を隠している。
一応、モーガンがリネットの顔を見て王妃だと気付かないようにするためだ。
昨夜はリネットにも夢のお告げが当たったことが証明されたんだから後宮に帰るようにと説得してリネットも承諾してみんなでテントで寝た。
「じゃあ、そろそろ出発しますからハリーさんたちも準備をしてくださいね」
「分かりました」
モーガンが離れたので俺はリネットに訊いてみる。
「リネットは移動はどうするの? 俺の馬に乗る?」
「そうね。そうするわ」
「その方がいい。ハリー殿、母上が途中で逃げないように見張っててくれ」
う~ん、俺はあくまでモーガンさんの護衛でこの隊商にいるんだけどなあ。
でも、また王妃のリネットがいなくなったりしたら大変だろうからリネットをハルシンに送り届けるぐらいかまわないか。
準備が整った隊商はハルシンに向けて出発した。
その頃、ジルヴァニカ帝国の皇宮では。
「ラッセンド宰相。今度は兄上からセラフ大教会のお守りと手紙が来ました」
「陛下からの手紙にはどんなことが書かれているのですか?セルシオ殿下」
「え~と。近々セラフ法王国の法王から交易に関する親書が届くのでその交易の話を承諾するようにと書いてあります」
「なんと!?セラフ法王国から交易に関する親書が送られてくるのですか?では陛下はセラフ法王国の法王と交易の話をしたということでしょうか」
「きっとそうですね。さすがは「賢帝」と言われる兄上です。もう西大陸の国々と話し合いを始めたようですね。兄上の指示通りに法王からの親書がきたら交易の話し合いをしましょう。中継地になるアイデ帝国とも連絡を取らないとですし私たちも忙しくなりますよ、ラッセンド宰相」
「わ、分かりました。ジルヴァニカ帝国としても交易を結ぶのにいろいろ準備をしないとですからな。あと、お守りが入っていたと言っていましたがそれはどういう意味でしょうか?」
「このお守りは『仕事運上昇』のお守りのようです。きっと兄上は自分の留守の間、私たちに留守中の仕事を頼むということなのでしょう。なので私たちは兄上が帰るまで頑張らないといけません」
「そ、そうですか。では私はさっそく交易の条件をまとめる準備を始めます」
「よろしくお願いしますね、ラッセンド宰相」
ラッセンド宰相が部屋を出て行くとセルシオはお守りを眺めながら呟いた。
「兄上。私も微力ながら兄上のお手伝いをしますので兄上は留守中のことは心配しないで兄上のやりたいようにやってくださいね。でもなるべく早く帰って来てください。兄上の御身が一番大事なんですから」
すると執務室の扉がノックされた。
「どうぞ」
入室許可を出すと入って来たのはジュリエッタだった。
「セルシオ殿下。政務お疲れ様です。新しい陛下の情報は入りましたか?」
「これはジュリエッタ殿。今、セラートにいる兄上から手紙が届きました。兄上は西大陸の国々と交易の話し合いをしているようです」
「まあ、西大陸の国々とですか?では陛下はセラフ法王国以外の国にも行く可能性があるんですか?」
「おそらくそう思います。ローゼン将軍もセラートにいると連絡があったのでうまく兄上を捕まえてジルヴァニカに帰るように説得できればいいのですが。兄上の交易を結びたい気持ちは分かりますがやはり兄上の身が心配ですので」
「…そうですわね。陛下がおひとりでは危ないですものね。セルシオ殿下は陛下の代わりに帝位に就くお気持ちはないのですか?」
「兄上以上に素晴らしい皇帝はおりません。私が今、政務を行っているのはあくまで兄上の留守を守るための代理です。私が兄上が健在中に帝位に就くことなどありません。ジュリエッタ殿だって兄上の素晴らしさをご存じでしょう?」
「え、ええ、もちろんですわ。それでは私はセルシオ殿下のお邪魔になってもいけないのでこれで失礼します」
ジュリエッタは執務室を退室して呟く。
「やはりハリードルフを亡き者にしないとセルシオ様は皇帝にはならないわ。必ずハリードルフはローゼン将軍と共に仕留めてやるわ。皇妃もセルシオ様も諦めないわよ!」
野望の炎を瞳に宿しジュリエッタは皇宮を後にした。




