井戸と少女
それから戻る途中にネアさんが用意してくれたお弁当(塩辛い干し肉とすっぱい果実)を食べて休憩をしながら、魔物に襲われることもなく無事に村の近くまで帰ってこれた。
「そろそろ村に着きそうだから、アマルンとフェニをクリスタルに戻すね」
「なんで戻しちゃうの!」
「だって、このまま村に連れて行っちゃうと、村の人達が怖がるでしょ?最初のミミ達みたいにね」
「最初は怖ったけど……それに、アルマンちゃんもフェニちゃんも、1人はかわいそうかなって」
「ミミの気持ちは嬉しいけど、この子達が村に入って村人達に怖がられる方が可哀想だと思うよ」
「まいお姉ちゃんの言う通りだよね。アルマンちゃんもフェニちゃんもまた遊ぼうね」
「キュピッ!」「ピュイピュ!」
「夜に出してあげるからね」
そう言ってアルマンとフェニをクリスタルに戻した。
「そんな悲しい顔しないで、また明日遊んであげよう」
「うん。明日起きたらすぐに行くね」
ミミの顔に少し笑顔が戻る。
「それじゃあ村長さんの家に戻ろうか」
それから村に到着するとダルガも一緒なので門番に止められる事もなく村の中に入れてくれる。
夕方になって人が増えたので色々と観察していると、会いたくない人に出会ってしまった。
「厄災を振りまく疫病神め。まだ村にいたのか」
「村を守るって約束したからね」
「ふんっ!気の狂った奴らの戯言で調子に乗りくさって!」
「別に調子になんて」
「その小娘を生け贄にすれば済む話をややこしくしやがったのはお前だろうが!」
「ログスその辺にしておけ。最終的に決めたのは村長なんだから、文句があるなら村長に言え」
「チッ!いつか後悔することになるからな!」
ガマガエルは、わたし達を睨みつけると去っていった。
「わたしこの前より嫌われない?」
「はぁ、あいつはあいつなりに村を守ることを考えてのことなんだ。悪い奴ではないんだが、悪いな嬢ちゃん許してやってくれ」
「わたしも分かってるから、ダルガが謝る必要はないよ」
ガマガエルの反応が当たり前で、村長さんやダルガの反応が、おかしいのである。
「俺も今日はそのまま家に帰るわ。村長にはよろしく言っといてくれ」
「わかったよ。ダルガ今日は本当にありがとね。また明日」
「守ってくれてありがとうございました」
「おう!2人共また明日村長家でな」
ダルガと別れて、わたし達は村長さんの家に帰ると院長先生がミミを待っていてくれた。
「無事に帰って来れて良かったのじゃ。ちと遅いから心配したのじゃぞ」
「遅くなってごめんなさい。採取するのに時間かかっちゃってね。院長先生もミミをこんな時間まで連れ回してごめんね」
「謝らないで下さい。まいさんもダルガさんも一緒ですので心配は致しておりません。私達は、あまり村の外に出ることが出来ませんから、まいさんには感謝しております」
話をしていると、ミミが眠たそうにしていたので、明日も会うことを約束して、ミミと院長先生は帰って行った。
それからネアさんの用意してくれた料理を3人で食べて、部屋に戻る。
わたしは部屋に戻るとアルマンとフェニを呼び出して遊んで時間が経つのを待った。
「そろそろ行きますか」
アルマンとフェニをクリスタルに戻し、村長さん達に気づかれないように忍び足で家を出る。
家を出ると光ひとつない真っ暗な闇と静寂が広がっていた。
「いきなり役に立つね。いっぱい取ってきて良かった」
アイテムボックスからフラッシュフラワーを取り出すと懐中電灯ぐらいの明かりが灯る。
「これなら大丈夫そうだね」
フラッシュフラワーを片手に誰にも気づかれないようにマップを見ながら目的の場所まで静かに移動していく。
「確かこの辺りだったと……あった!」
足元に気おつけながら階段を降りると、目の前に昔井戸があったと言われてる跡がある。
「パパっとやっちゃおう。ドローパット」
フラッシュフラワーを足元に置いてドローパットを操作していく。
今度は素材もレベルも足りているので、井戸のマークが青く表示されている。
井戸のマークをタップすると立体映像で創り出せる井戸が薄い赤色で目の前に現れて、わたしが移動すると立体映像もその動きに合わせて移動する。
わたしは井戸のあった場所に立体映像を合わせると立体映像が青色に変わった。
「ポイン」
そう言った瞬間、立体映像だった井戸が現実の物に創作された。
「良かった成功した」
目の前には滑車付きで村全体で使えるであろう大きな井戸が出来上がっていた。
「い……いきなり井戸が現れました!」
「えっ!」
素早く振り返ると、階段の上に貴族のお嬢様と執事が立ってこちらを見ていた。
「ちなみに、いつからそこにいたのかな?」
質問すると2人が階段から降りてくる。
「最初からですわ」
「うぅ……じゃあ全部見られたってかな?」
「はい!神ごとき所業の一部始終見させていただきました」
「素晴らしいき光景だったと存じ上げます」
「ひぃっ!そんなものじゃないから!お願いだから今の事は誰にも言わないで黙っててほしいの!」
「そんな!このことを村人達に知っていただければ、貴方様がいかに素晴らしい人、いえ天使様のような……そういえばあの本に描かれていた天使様に似てい」
「ああー!それはもういいから!わたしはみんなにバレたくないの!面倒なのは嫌なのよ」
パリッシュさんが本を冒険者から無理矢理買い取ったって言ってたけど、この人達だったみたい。
「このような神ごとき所業を知った村人達は涙を流し膝を土で汚すことになるでしょう」
「そういうのが嫌だって言ってんの!本当にお願いだから2人だけの秘密にしてください!お願いします」
このことがバレたら少女のように考えてしまう村人が現れるかもしれない。第2の変態を作っていけないと本能が叫んでる。
バレなように夜中まで待ってたのに、爪が甘かった。
「お嬢様。これも天使様が考えがあっての事かもしれません。指示には従うべきかと」
「その呼び方は止めて!」
執事の言葉に、わたしは頭を抱える。
「こんな素晴らしい行いを秘密にするなんて残念ですわ。それでは秘密にする代わりに、お……お姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
お嬢様が少し恥ずかしげに、恥ずかしいことをお願いしてくる。
「それで2人が秘密にしてくれるなら……いいよ」
呼び方ぐらいで変態が量産されないのなら、お安い御用だよ。
「お姉様ありがとうございます。それでは私のことは、ミカエラとお呼びくださいませ」
「よろしくミカエラ。それと」
「フランシスと申します」
「わたしは、まい。よろしくねフランシスさん」
ミカエラが天使っぽい名前をしてることに、ツッコミはしないでおいた。
「それにしても、こんな夜遅くに2人はなにしてたのよ」
「神のイタズラなのか、私は寝ているとトイレに行きたく目が覚めたのです。ふと部屋の窓から外を見ると真っ暗な闇の中にポツンとひとつの光が動いていました。少し気になったのでフランシスを起こし、すぐに追いかけました」
真っ暗な空間に、フラッシュフラワーの光は目立ったみたいだ。
それにしても、それで追いかけようと思うミカエラのバイタリティに驚いたし、ミカエラに振り回されるフランシスさんに同情した。
「その光を追って行くと、なにかをなされている、お姉様が見えたので隠れて様子を見ていたのです」
「なるほどね。わたしは色々と疲れたからもう帰るけど。このことはくれぐれも秘密でお願いね」
「はい。私もフランシスも秘密を守る事をお約束いたします」
「うん。2人共よろしくね。あっ、これあげるから気をつけて帰って。それじゃあね」
ミカエラにフラッシュフラワーを1本あげて、わたしは村長さんの家に向かって走った。
村長さんの家に着くと出ていった時と同様に忍び足で部屋に向かう。
「まいさん?」
「っ!ネアさん!こんな時間にどうしたの」
「少し喉が乾いて目が覚めたので」
「そ、そうなんだ。わたしはトイレにちょっとね」
「そうですか。ではここで、おやすみなさい」
「お、おやすみ」
別に悪いことをしてた訳じゃないんだから普通にしとけばいいのに焦ってしまった。まだ心臓がバクバクしている。
今度は誰に会うこともなく部屋に入れた。
「疲れた……」
それから、アルマンとフェニをもう一度召喚して一緒に布団に入る。
アルマンを抱き枕にしていると疲れが溜まっていたのだろう、すぐに睡魔がやってきて眠りに落ちていった。
まい「これで水は確保できたし、後はお風呂を作るだけだね」




