その9『魔力ゼロの王女』
ハリーは振り返り、いたずらっぽく微笑んだ。
「いいや。全然。
なぜだか知らないが、君の傍にいると体の中から力が沸き上がって全身にみなぎるんだ。」
「……?」
「君といると楽しい。
だから君は悪い人じゃない、と思う。
完全な偏見だけど。
僕は好きだよ。」
ハリーは弾んだ声で答えた。
ドクンと胸が鳴った。
ベルは思った。
なんて堂々と
『好き』って言えるの?
羨ましい!―――
この人は―――
自分に自信があるのね?
9割の魔法使いが私を嫌ってても
好き、と言ってくれる。
私なんて―――
自信が持てなくて
周りに流されてばかり―――
ディアナ王女にも逆らえないし……
やっぱり上級魔導士だから?
最高レベルの魔力ってことよね?
憧れる―――
目を細め、まぶしそうにハリーを見つめる。
ハリーはベルの視線に気づき、照れたようにはにかんだ。
そしてベルを王女の部屋まで送ってくれた。
王女の部屋の控えの間まで来ると居間で男女の話声が聞こえた。
ハリーはベルと向かい合った。
貴人にするような大げさな仕草でお辞儀をして
「それではベルお嬢様。
無事、お部屋まで送り届けることができましたことをお喜び申し上げます。
わたくしは王室専属顧問魔術師にして最上級魔導士、ハリー・ハルマンと申します。
以後お見知りおきを。
御用の際は魔術学校へ。
そこで教授の任についております。」
急にかしこまって丁寧な挨拶をするので
「ヤダ……冗談でしょ、私はただの侍女よ」
ベルはおかしくなってクスクス笑った。
そのとき居間からディアナ王女が姿を現した。
続いて立派な身なりの三十半ばの男性が姿を現した。
王女がハリーを見て不機嫌そうな冷ややかな目で
「あら?ハリーさん。
あまりその子に近づかないほうが身のためよ。
悪事ばかり働く厄介者の侍女だから。」
ハリーは眉を上げお調子者のように肩をすくめ
「これはこれはディアナ王女殿下、ご機嫌麗しゅうございます。
ですが僕の私的な人間関係にお気遣いは無用です。」
王女は眉をひそめた。
「王女である私に逆らうつもり?」
ハリーは一瞬で真剣な表情になり
「王女殿下こそ。
我々魔法使いの警護が無ければ困るんじゃないですか?」
「どういう意味?」
「あなたは魔法をお使いになれないんだから。
いざというとき僕らが頼りでしょう?
じゃ、ベルまたね!」
ハリーは背を向け、ヒラヒラと手を振り立ち去った。
はぁ~~~~~。
ベルはため息をついた。
カッコイイーーーーっっ!!
王女さまに言い返したっ!!
憧れる~~~っっ!!
デキる人って自信満々でいいよね~~~~!!
立ち去る背中をウットリと眺める。
ん?
王女は魔法を使えないの?
でも王族って確か魔法使いの一族よね?
魔力のない王族っていないはずでは?
ディアナの顔を見ると、唇を噛んでいる。
ハリーの背中を睨みつけ、拳を震わせている。
後ろに控えていた男性がディアナに並んだ。
「王女殿下。
まだ話の途中です。」
ディアナが怒りのこもった目でベルを睨みつけ
「調子に乗るんじゃないわよっ!
ハリーと仲良くなったからって何よっ!」
思い出したベルが雑誌を差し出す。
「あの、これ……」
王女は荒々しく雑誌を掴むと、表紙も見ずに後ろに投げ捨てた。
「もう下がっていいわ!
たまった仕事を片付けなさい!」
そう告げると男性と居間へ入っていった。
◇
居間のソファに座り男性はディアナに話しかけた。
「殿下、まだ疑われるのですか?」
ディアナはイライラと歩きまわった。
「あなたの言うことが正しいという証拠は?
イルマー宰相。
就任したばかりのあなたを信用できない。」
イルマー宰相はゆったりと頬にしわを寄せてほほ笑んだ。
外交官として実績を積み、弱みを握って人を操ることで知られる男。
その噂の男にディアナは警戒していた。
イルマー宰相の目は笑ってない。
口元だけに笑みを浮かべ
「心当たりがおありでしょう?
あなたに魔力が皆無であること。
よそよそしい両親。
4歳までの記憶がないこと。
これだけ証拠がそろっているというのに、まだ疑うんですか?」
ディアナは信じたくなかった。
悪夢だと思いたかった。
すべて辻褄は合う。
だけど―――
それは
私が
『運命の子』だからだと
王族の中でも
選ばれた存在だからだと
思っていた。――――




