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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その10『将軍からの手紙』

国境の砦から王都に戻って、数週間が過ぎた。


ある日、ベルのもとに手紙が届いた。


差出人は―――?


エルンハルト将軍!!


トクンッ


心が躍り、一瞬であの頃に引き戻された。


一緒に夜明けまで執務室で過ごした。


ディアナ王女に渡す軍事機密を偽造するために。


砦から落ちた私を


魔法で助けてくれた。


騙そうとした私を


責めるどころか受け入れてくれた。


大きな手のひらで頭を撫でてくれた。


あのときの温もりを思い出す。


温かくて、安心できて。


そばにいると、張り詰めていた心がほどけていく。


あの人のそばには、私がいてもいいと思える場所があった。


ウキウキしながら便箋を開いた。


『ベルへ。


正直、母親以外の女性に手紙を書くのは初めてだ。


見苦しいところがあれば、許してほしい。


さっそくだが例の情報は役に立ったか?


問題があれば知らせてくれ。


さて、大した要件じゃないんだが、君の忘れ物についてだ。


君が部屋に忘れて行った手袋や髪留めの処遇だが、一時的に俺が預かっている。


王都に帰るときに持っていく。


それで問題があるなら知らせてくれ。


報告は以上だ。


王都では不自由なく過ごしているか?


王女の命令がひどすぎるなら、何か理由をつけて砦に逃げてこい。


いつでも歓迎する。


エルンハルト』


短い手紙。


でも嬉しい。


手袋や髪留めの忘れ物?


そんなのどうでもいいのに!


生真面目ね!


将軍の堅苦しい顔が思い浮かぶ。


ベルは何度も読み返した。


彼は将軍なのだから、わざわざ私を気遣う必要なんてない。


ちっぽけな侍女の私を。


返事を書かなくちゃ!


ベルはペンを取り紙にサラサラと書いた。


『ご心配には及びません』


だけ?


う~~~~ん。


これじゃ、あまりにも素っ気ないわよね。


せっかく手紙をくださったのに。


私は少し考えてから、続きを書き足した。


『砦では助けてくれてありがとうございました。』


そしてまた悩んだ。


う~~~~ん。


他には?


そしてベルは『砦で食べた料理がおいしかったこと』や、『兵士たちが親切だったこと』や『砂漠を初めて見て感動したこと』を書いた。


でもこれは将軍には興味のないことよね?


自分の感想を押し付けるなんて


ウザい女って思われるかも?


それとも距離が近いって呆れられるかも?


心配になって手紙を破り捨てた。


う~~~ん。


また最初から書き直した。


『王女様の命令で王室専属顧問魔術師専用書庫に初めて入りました。』


禁書の窃盗未遂までは書かない。


そして悩む。


やっぱり私の近況なんて将軍は興味ないかも!


破る。


また書き直す。


何度目かで結局、あたりさわりのない短い返事に落ち着いた。


投函する直前にベルは一文を付け加えた。


『将軍も、どうかお体を大切になさってください』


書き終えるとベルは赤面した。


何をしてるの?私ったら?


王女に命じられ、情報を集めるために将軍に近づいただけなのに。


私的なやり取りなんて必要ないのに。


でも、返事……すぐに来るといいな。


その日以降、ベルは仕事中でも気になって仕方がなかった。


一日中ソワソワしてた。


数日後、再びエルンハルトから手紙が届いた。


『料理長に伝えておこう。

あれでも、褒められれば喜ぶ男だ。』


他にも砦の兵士たちの近況や、ベルが戦闘に巻き込まれた際、彼女を心配していた兵士もいるという話。


そして最後に


『今度砦に来ることがあれば、砂漠に咲く一面の花を見せてあげたい』


と書かれていた。


ベルは思わず微笑んだ。


砦にいたころは、彼を騙すことへの罪悪感ばかりだった。


「また砦に行けたらいいな」


ベルは何気なく呟いて、ハッとした。


もう将軍に会う必要ないのに。


任務なんてないのに。


ベルはもう一度、将軍に会いたかった。


ただ、無性に、会いたかった。


◇


その夜、ベルは届いた手紙を、大切なものを入れる『宝物入れ』にしまおうとした。


無意識に。


木箱の蓋を開ける手を止めた。


将軍は私をどう思ってるんだろう?


王女の命令とはいえ、未遂でも悪事を重ねてきた。


将軍を騙そうとした。


それでも彼は、こうして手紙を送ってくれた。


『婚約詐欺師、淫売、窃盗犯、国境送り』


王都での私の、そんな噂を聞いたらどう思う?


嫌いになる?


それとも私を信じてくれる?


分からない。


ただ、ベルは手紙を捨てるなんて考えられなかった。


ベルは眠りについた。


枕元に


手紙を置いて。


夢の中だけでも――


エルンハルト将軍に――


会えますように―――。

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