その8『書庫入室の資格』
ゆっくりと歩を進める銀色のローブを着た老人の姿が見えた。
学校長は手を後ろに組みゆっくりとベルに近づいた。
目の前で立ち止まると
「名前は?」
しわがれ声で尋ねる。
ベルはビクッと身を震わせ
「ベル・ヴァルナ―です」
すると群衆から
「ベル・ヴァルナ―ってあの?」
「アルバ侯爵と婚約破棄の?」
「そうそう!あのアバズレ・ベル!」
「王女に国境に飛ばされた侍女ってそうじゃない?」
「帰ってきたんでしょ?すぐに盗みに入った?」
「えーーーっ?信じられない!」
「どういう神経してるのっ?」
「でも、低魔力の民間人でしょ?」
「そうだ。おかしいな。どうやって魔法セキュリティを破った?」
学校長はベルに親しみを込めてほほ笑んだ。
陰口が聞こえないかのように。
そして指で書棚を指すと、チョイッと動かした。
一冊の雑誌がズルッと本棚から引き出された。
その雑誌がフワフワと空中を漂い学校長の手元まで飛んできた。
学校長がそれを掴む。
ベルに差し出し
「これを持っていきなさい。
君の主人にはこれで十分だ。」
ベルはその雑誌『アクセサリー用宝石合成入門 vol.1』を受け取った。
ん?
疑問がわく。
なぜ王女に命じられたと知ってるの?
魔術学校長って魔力で何でもお見通しなの?
怖っっ!!
悪事はバレバレなのね?
心臓バクバクは止まらない。
周囲の群衆に向かって
「君たち。
今日のことは黙っておくように。
口外したものは厳しく罰する。
王室専属顧問魔術師の誇りにかけて秘密を守りたまえよ。」
厳かな口調で命じると集まった人々は
「はい!」
「かしこまりました!」
「誓います!」
さっきまでの野次馬っぽい陰口はすっかりひっこんだ。
最上級魔導士ハリーに向かって学校長が
「ハリー君、彼女を送ってあげなさい。」
「はい!」
元気よく答えたハリーの後ろについて、ベルは王宮に帰ることになった。
隣の敷地にある王宮へ歩きながらハリーが
「君、魔法使いの9割から嫌われてしまったね。
7番書庫まで入った挙句、禁書を盗もうとしたから。」
言葉の中身と真逆の弾んだ声。
ムッ!と怒り3割、凹み7割のベルが
「嫌われても仕方ないわ。
悪いことをしたんだから。
でもなぜ書庫に入っただけで大騒ぎになるんですか?」
ハリーが立ち止まった。
驚いたように眉を上げベルを見つめた。
「本当に民間人なんだね?
知らないのか?
あの書庫の魔法セキュリティは奥に行くほど厳しくなっている。
1番は魔力★5でも入れるが、2番は魔力★6、3番は魔力★7、とだんだん入るためには高い魔力が必要なんだ。
7番は王室専属顧問魔術師の中でも入れるのは数人だ。
僕と学校長とあと二人だったかな?」
えぇっっ??!!
息を呑む。
胸に手を当てる。
呼吸するのを忘れてた。
我に返りゆっくりと息を吐いた。
なぜ?
が止まらない。
魔力ゼロの私が?
なぜ入れたの?
『運命の子』候補であることに何か関係ある?
俯いて黙り込んだ。
それを確かめるためにディアナは命じた?
それとも単なる嫌がらせ?
彼女は何がしたいの?
私をいじめたいだけだと思ったのに…
ハリーが歩き始め
「特にさきほど君が手にした本は門外不出だからね。
魔法使いにとって魔力が高いというだけで嫉妬の対象だし、『噂』のベル・ヴァルナ―ならもっと陰口をたたきたくなる。」
はぁ~~~
ため息。
婚約破棄、結婚詐欺、財産目当てのあばずれ、国境送り、禁書泥棒、……
これ以上どうやって悪名を増やせと?
あの陰口。
魔法使い全員に蔑まれている。
もう誰も私を恋人になんてしてくれない。
エルンハルト将軍……?
ベルの心に大きな手のひらの温もりが蘇った。
全身が優しい気持ちに包まれた。
悪い噂が彼の耳に届きませんように。
彼にまで蔑まれたりしたら……
どうしよう!?―――
もしアルバ侯爵のことを知ったら?―――
きっと―――
彼も私を―――
嫌いになる……!!!
足取りも口調も重いベルがハリーに
「あなたも私を嫌いになったでしょう?」




