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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その32『思わぬ光栄』

 ある日、ベルはハリーに呼び出され、魔術学校のハリーの研究室を訪れた。


応接室で待っていると、教授室からハリーの声が聞こえた。


「プリシラ、つまり何が言いたいんだ?」


「ですから、ハリー様がベルという悪女と親密だという噂を聞いたんです。」


え?


私の噂話?悪女…って、いつ聞いても凹(へこ)む。


ハリーの声がする。


「それがどうした?」


「あの女の何がそんなに気に入ったんですか?

あの女がどんなに性悪かご承知ですか?

アルバ侯爵を騙して婚約させた挙句、一方的に破棄したんですよ!」


ベルは目を閉じた。


あれは確かに私が悪かった。でも、後悔してるのに。


それ以上言わないで……。


「知ってるよ。でも金目当てじゃなかったんだろ?贈り物は全部返したそうだし。」


「それだけじゃないんですよ!今はエルンハルト将軍をたぶらかしてるんですよ!」


ベルは声を上げたかった。


違う!今はもう、将軍をたぶらかそうなんて思っていない!


たしかに近づいた目的はそうだったけど。最初はディアナの命令で仕方なくだったけど、今は本気で……


ハリーの不機嫌な声が聞こえた。


「たぶらかしてる?そういうんじゃないよ。」


「ディアナ王女のドレス引火事件のときだって、将軍は王女よりあの侍女を助けたんですよ!あれほどの将軍が、あの女に夢中になって判断を誤っている証拠です!」


ベルは思わず否定したくなった。


騙されてなんてない!


将軍はただ優しさで、生来の慈悲心から私を助けてくれただけ。


誰にも顧みられなかった侍女に情けをかけてくれただけ。


将軍は悪い女にたぶらかされるような愚かな人じゃない!


ハリーの気だるげな声。


「それは、将軍だって任務を忘れることもある。

それに別に、二人は付き合ってるわけじゃない。」


プリシラは声を荒げた。


「まぁ!性悪女だって承知の上で親しくしてるんですか?」


ベルは膝の上で手を握る。


「それが何か問題か?彼女が過去に何をしたとしても、僕が今の彼女をどう評価するかは、僕が決めることだよ」


ベルの指先の力が緩んだ。


「もちろん問題ですわ!

あなたは筆頭王室付き魔術師で、魔術学校教授で最上級魔導士ですよ。

王様や王妃様や大臣たちの耳に入ったらどうなるか、魔術学校の生徒たちや保護者たちが知ったらどうなるか、お分かりにならないのですか?」


「あぁ…もう、分かったよ。君の言いたいことは。これ以上聞きたくない。もう出ていってくれ。お客さんが来るんだ!」


教授室の扉が開き、ローブ姿の女性がハリーに押し出されるようにして出てきた。


応接室でソファに座るベルを見ると、その女性が驚いたように目を丸くし、すぐに眉間にしわを寄せた。


目が合うとベルはうつむいた。


その女性に見覚えがあった。


ドレス引火事件の会議で、いつもハリーの隣に座ってる、次席王室付き魔術師のひとりだ。


名前は確か、プリシラさん。


私はいつの間にか、こんなに嫌われてたのね。


もしかして他の人にも?


ベルは胸が重くなった。


そのあとハリーが顔を出し声を弾ませた。


「やぁベル!待たせたね。さ、中に入って」


ベルはおずおずと立ち上がり、教授室に入った。


その間ずっとプリシラの視線が刺さってる気がした。


ハリーと二人きりになっても、ベルはうつむいたままだった。ハリーに過去のことを知られてしまったと思うと、どうしても引け目を感じてしまう。


ハリーはいつもと変わらない陽気な声で


「ねぇ!ベル、これを書き上げたから、真っ先に君に読んで欲しかったんだ!」


書類の束を渡す。


ベルは受け取り、一番上の題名に目を通す。


『時刻魔法の貯蔵魔力量を増大させる複数の手法と、それを応用した自動発動魔法の開発』


その後に、日付と所属とハリーの名前があった。


これは、論文?


その下を読んでベルは目を見開いた。


『共同研究者』の欄に『ベル・ヴァルナー』の文字があったから。


ベルが呆然と文字を見つめていると、ハリーがベルの目を覗き込み


「君の名前を共同研究者に加える許可が欲しいんだけど。いいかな?」


ベルが言葉に詰まっていると、ハリーが


「君のアイデアが無ければ、そもそもこの発明をしようとさえ考えなかった。」


ベルは眉を寄せた。


共同研究者?


そんなの、魔術学校の研究者や魔術師が名を連ねるものではないの?


私は魔力ゼロの上に知識も心もとないのに!


畏れ多すぎて意味が分からない。


「ベル。君は自分が何を思いついたのか、分かっていないんだね」


「え?」


「時刻魔法と記録魔法を組み合わせる。それだけのことに見えるかもしれない。でも、僕たちは長い間、別々の魔法としてしか考えてこなかったんだ」


「そうなんですか?」


「そうだよ。君は魔法を知らないからこそ、僕たちが思いつかなかった組み合わせを考えついたんだ。

だから、君は堂々と共同研究者を名乗っていいと思う。」


ダメよ、私は時刻魔法と記録魔法を組み合わせれば時限記録魔法ができるかもしれないって提案しただけ。


魔法の事なんて全く理解できないのに。


それに、性悪よりもっとひどいあだ名で呼ばれるほどの『悪女』。


私の名前を論文に加えたりしたら、世間の人たちがハリーまで攻撃するかもしれない。


ハリーの信用を落とすわけにはいかない。


「ハリー…さん、お断りします。私の名前を論文に載せないでください。」


キッパリと告げる。


ベルの真剣な表情にハリーが眼鏡を押し上げ、口をへの字にした。


「残念。喜んでくれるかと思ったのに。

気に障ったならごめん。謝るよ。」


ハリーが肩を落としたので、ベルは慌てて


「あの、ハリーさんの気持ちは嬉しいわ!

私を認めて、正式に評価を世間に公表してくれる、なんて初めての経験だから。」


声に出すと、ますます嬉しくなった。


そうよ!私ってあの天才魔術師ハリー・ハルマンに認められたのよ!


凄くない?凄いわよね!うん、凄いっ!!


あのハリーにも思いつかなかったことを思いつくって私って偉いっっ!!天才っ!


胸の中で喜びが兎のように跳ねまわった。


ベルの瞳は輝き、頬が緩んだ。


ハリーもつられて微笑んだ。


「もっと世間の人に、ベルのことを知ってもらいたかったんだ。もちろん、いい意味でね」


ズシンと響いた。


ベルは心に重い石が投げ込まれたような気持ちになった。


世間の人に、私のことを知ってもらう。


そうだ。私は『悪名高きベル』だった。


ハリーが認めてくれても、世間の人たちが認めてくれるとは限らない。


むしろ、ハリーまで悪女に騙されたと言われるかもしれない。


ベルの暗い表情に気づき、ハリーは眉を寄せた。


ベルの肩にポンと手を乗せ


「過去の噂だけで、今の君を決めつける必要はない」


ベルは唇を噛む。


「君は悪女じゃない。僕が保証する。」


ベルは苛立つ。


何を根拠にそんなことを……


「この世界最高の天才魔術師ハリー・ハルマンの言うことが信じられないの?」


ベルの胸がドキンと跳ねた。


慰めてくれてる?!


ハリーは世間の言うことより私を信じてくれてる。


私と一緒に過ごして、実際の私を見たうえで、悪くないって判断してくれてる。


ハリーが呟いた。


「君が君を信じられなくても、僕のことは信じられるでしょ?」


熱いものがこみ上げて目が潤んだ。


ベルがうなずく。


ハリーは慌ててローブの袖を探った。


ハンカチを取り出し、わざとすねたようにハリーが


「あ、それと、これからはハリーさんじゃなくて、ハリーと呼んで欲しいな。」


ベルはハンカチで涙をぬぐいながら、何度もうなずいた。


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