その31『ハリーの自動発動魔法』
ハリーが楽しそうに手をもみ合わせた。
「では説明しましょう。
まず僕が発明したのは『時限発火魔法』です。
この『時限発火魔法』の痕跡が本当に王女のドレスに残ってるかどうかを調べるためです。
ここで必要なのが『トリガー魔法』。これは、あらかじめ条件が満たされたとき、別の魔法を作動させる仕組みです。
今回は、『時刻魔法』が時間を刻み、設定した時刻になると『トリガー魔法』が『発火魔法』を作動させるようにした。
ここまでは簡単でした。数時間ってところかな。」
レオンが目を見開いた。
心の中で驚きの声を発する。
「オレが三日かけても発明できなかった『トリガー魔法』をたった数時間で作った、だと?」
ハリーが弾んだ声で続ける。
「で、次に僕は『時限記録魔法』を作ろうと思った。
時間がくれば自動的に水晶が映像を記録する魔法。
ここで難しかったところは『記録魔法』は『発火魔法』より大量の魔力が必要だが、その大量の魔力をどう蓄えるかという問題だ。
『時刻魔法』というのはそもそも、時計という『物』にある程度の魔力を蓄え、その魔力を消費して針が動き、時を刻む。
ここまでは大丈夫?ついてこれてる?」
魔術師たちはうなずく。
ハリーは続ける。
「僕が発明したのは、物に蓄えられる魔力を増やす魔法だ。
ヒントは別の水晶を使う、とだけ言っておこう。
そして貯蔵量を増やした魔力によって『記録魔法』が動く仕組みを考えた。
さっきの『時限発火魔法』の要領で『トリガー魔法』と組み合わせたんだ。」
ベルは小さく息を吐いた。
まさか、あの思いつきがこんな大発明になるなんて。
自分では魔法を使えないからこそ考えたことだったのに、魔術師たちには思いつきもしなかったらしい。
魔術師が感心したように叫んだ。
「スゴイです!それで『時限記録魔法』ができたんですね!」
別の魔術師も
「もちろん論文にしてくれるんですよね?」
「私も今すぐ試したいです!」
ハリーは肩をすくめ
「だが、ここまでではまだ完成じゃない。
そもそも僕が作りたかったのは、人が入室したきっかけで『記録魔法』が作動する仕組みだ。
だから次に、人が入ってきたことを感知する『熱感知魔法』と『時限記録魔法』を組み合わせ、熱を感知したのをきっかけに『トリガー魔法』が『記録魔法』に魔力を流す仕組みを発明した。
これで人が入室したのをきっかけに水晶が映像を記録するようになった。
詳しく話すと長くなるから、聞きたいことがある人は、あとで個人的に聞きにきてくれ。」
出席者は顔を見合わせ感嘆と驚嘆の声で騒めき合った。
「つまり…人が触れてなくても水晶で記録できるってことか?」
「便利だけど、他に何に使うんだ?」
「だから、記録係の人が要らないってことだよ!全員がそろって水晶に映れる!」
「自動発動魔法?なら『記録魔法』や『発火魔法』じゃなくても使えるんじゃないのか?」
「夜間の見張りにも使えるんじゃないか? 誰かが近づいたら、自動で警報魔法を鳴らすとか」
ハリーは頬を緩めてるけど、賞賛され過ぎて退屈し始めたのか机をコツコツ指で叩いている。
顔面蒼白なレオンは、心の中で『ここまで差があるとは……信じられん』とガックリと肩を落とし、頭を抱えた。
ベルには、彼の肩が小刻みに震えているように見えた。
ハリーがレオンを指さした。
「あぁそうだ、忘れるところだった。
ドレスに時刻魔法と発火魔法をかけて『時限発火魔法』擬きの証拠を捏造したのは、君がディアナ王女に火をつけた犯人だからだね?」
レオンは両手で頭を掻きむしった。
「……そうだっ!オレが火をつけた!あんなやつっ!無能力者の、王女でも何でもないっ!ただの傲慢クソ女だっ!」
エルンハルトが落ち着いた低い声で
「レオン・ローラン、君を放火および傷害罪、王族侮辱罪、王族保護義務違反、危険魔力濫用罪で逮捕する。
今後の処分については、王宮の正式な審理に委ねる。」
そう告げるとレオンの肩をがっちりと掴んだ。
◇
エルンハルトがレオンを連行し、会議室からも人々が立ち去り、ハリーとベルが二人だけで残された。
ハリーが
「作戦は見事にハマったね!
犯人を逮捕できたのはベルのおかげだよ。」
ベルは首を横に振った。
「いいえ。
ハリーさんが自動発動魔法を新しく開発してくれなければ絶対に無理だった。
魔力を蓄えるとかすごい発想!
やっぱりあなたが一番偉いのよ。」
ハリーは頭を掻いた。
「でも、時限式で魔法を発動させるなんてアイデア、魔力がないベルでなければ思いつかなかっただろうから、やっぱりベルの手柄だよ。
君がアイデアを出して、僕が形にする。
僕たち二人って、気が合うし、好いコンビだと思わないか?」
そう言うと、ベルの肩をトントンと叩いた。
ハリーの親しみのこもった仕草に、ベルは胸が温かくなった。
人々に賞賛され尊敬される天才魔術師のハリーに発想を褒められ、親友だと認められた。
ベルは頬を赤らめた。
むず痒いような気がした。
照れ笑いして頬をポリポリ掻きながら、ベルは大きくうなずき、
「そうね。
あなたたち魔法使いは、欲しいものがあれば魔法で手に入れることができるでしょう?
魔力ゼロの私みたいにいつかその時が来るのを『待つ』しかない人間とは違うもの。」
笑みを浮かべて皮肉っぽく言う。
ハリーの表情から、さっきまでの笑みが消えた。
「魔法使いは『待つ』ことができないとでも?」
ベルはうなずき
「実際そうでしょ?手に入れられなくて困ったことないでしょ?」
ハリーは口をつぐみ、真剣な眼差しで見つめた。
ベルはいつになく真剣なハリーの様子に息を呑んだ。
身じろぎもせずベルを見つめる。
ベルは笑わせようと明るい声で
「そうよね、魔法使いだってトイレが混んでるときは『待つ』わよね!」
「……」
「怒ってるの?」
ベルが上目遣いでハリーを覗き込むと、ハリーはためらうように唇を動かした。
硬い表情のハリーにベルの鼓動が速く打ち始めた。
どうしたの?黙ったままで。
変なハリー。
ベルが目を逸らしてうつむくと、ハリーが叫んだ。
「ベルっ!僕は待てるよ。」
ベルの胸がドキンッと脈打った。
「何を……待てるの?」
「君が僕を好きになってくれるのを。」
「……え?」
キョトンとしてベルは顔を上げた。
「いつまでも待たせてもいい。だから、いつか僕を、好きになってくれ」
顔を真っ赤にして、早口で、ハリーがそう告げた。
ベルは、ボンヤリしていた。
何と言えばいいのかわからなかった。
どうでもいいことばかりが、頭に思い浮かんだ。
ハリーの頬が赤い…
なぜ?
そうか、窓から差し込む真っ赤な夕日が映ったのね。
え?
ハリー、今何と言ったの?
私が好きになるのを、待つ、って……どういう意味?
胸が激しく脈打っている。
どうしてだろう。
いつものハリーなのに、今は目を合わせられない。
嬉しいのか、困っているのか、自分でもよくわからなかった。




