その30『証拠の水晶』
次の日、再び『ディアナ王女ドレス引火事故』調査報告会議が開かれた。
前回とほぼ同じメンバーがそろった。
ハリーがオホンと喉を整え
「え~~、犯人が判明したことを皆さんにお知らせしようとお集まりいただきました。」
集まった人々が顔を見合わせ、安心したようにうなずき合う。
ハリーが水晶を持ち上げ、手のひらにのせて
「犯人は水晶に映ってました」
大臣・魔術師たちは口々に声を上げた。
「えぇっっ!」
「そんな単純な事でしたか…」
「それはよかった。」
「決定的な証拠が出て、安心しましたな。」
オルロック大臣だけは首をかしげた。
レオンは身を硬くして心の中で舌打ちを繰り返した。
チッ!チッ!チッ!
大嘘つきヤローの詐欺師ハルマンめっ!
さては証拠を捏造したな?誰を犯人に仕立て上げたんだっ!
卑怯者めっ!
これだから賤しい庶民出の魔術師は信用ならんっ!
歯ぎしりしつつも成り行きを見守った。
ハリーが会議室の窓のカーテンを引き、室内を真っ暗にした。
それから水晶に魔法をかける。
拡大された映像が白い壁に投影され、出席者全員が見られるようになった。
壁に映る婚約発表会の様子は、レオンが証拠保管室で見たのとまるっきり同じだった。
大臣の背中から始まり、会場と人々の様子が映し出される。
ジョアンナが登場してからは、彼女の姿を追い続けていた。
やがて悲鳴が上がると、映像は炎に包まれたディアナを捉える。
周囲の人々が一斉に杖を取り出し、水や雪の魔法で消火を始めた。
イルマー宰相が大声で指示を出している姿も映っていた。
最終的にレオンが膨大な量の雪魔法で全身を覆い、ディアナの火を消し止めると、そこで映像が終わった。
と同時にザワザワし始める。
「今のは…何だ?」
「どういうことだ?犯行が映っていたのか?」
「わしには見えなかったが」
「結局…誰が犯人なの?」
レオンはハリーを見た。
ハリーは相変わらず陽気なニヤケ顔。
レオンは全身をこわばらせ、壁に映る映像を凝視していた。
捏造された自分の姿が、いつ映し出されるかと気が気ではなかった。
だが、映像が終わっても、そんなものは出てこなかった。
レオンは唖然としてため息をつき、こう思った。
ハルマンは所詮、庶民上がりの無能魔術師。
捏造しても見破られると観念して手を加えなかったんだな。
ではなぜ、犯人を捕らえたなどと主張し人々を招集したんだ?
ざわめきが大きくなり、
「おいっ!ハルマン君!どういうつもりだっ!」
「ハリー様、ご説明ください!犯人はどこに映ってたんですか?」
ある大臣が大声で
「これのどこが犯人の証拠だというんだ!ハルマン君」
「説明しろ!無責任にもほどがあるっ!」
ハリーは両手でみんなをなだめるような身振りをし
「まぁまぁ、皆さん。
先ほどの水晶はオルロック大臣が提出してくれたものでした。
ご覧の通り犯人は映っていませんでした。」
ベルに向かって目で合図する。
ベルは口を開いた。
「ハルマンさんは、この水晶に犯人が映ってるとは仰ってません。」
そう言いながら、ベルは手にしていた別の水晶と、先ほどの映像の水晶を入れ替えた。
ハリーが杖で新しい水晶を指し呪文を唱えた。
「では、こちらをご覧ください。前回の会議から三日後に記録された、証拠保管室の映像です。」
水晶から壁に投影された映像は薄暗い証拠保管室内を映したものだった。
映像の奥に入口の扉があり、手前には証拠品を納めた木箱がある。
扉が開き、ローブ姿の男が入ってきた。
ローブ姿の男は机にゆっくりと近づいてきた。
男の顔がはっきりと見えた。
壁に映し出されたその顔を見て、出席者たちは息をのんだ。
王女専属顧問魔術師、レオン・ローランだった。
レオンが水晶を取り出して覗き込み、映像を確認していた。
やがてドレスに向き直り、杖を向ける。杖の先から魔法の光が走り、ドレスに何かを施している。
出席者たちはざわめき、顔を見合わせた。
机に身を乗り出してレオンを眺める者もいた。
レオンはガタガタッと転がるようにして立ち上がり
「嘘だっ!この記録は捏造だっ!オレはこんなことしてないっ!」
エルンハルトが立ち上がり、レオンに近づいて、両肩を掴んで押さえ込み、椅子に座らせた。
「なぜそう思う?」
レオンは震えを抑えようと両手の拳をギュっと握った。
「それは……あっそうだ!誰が、その水晶は一体、誰が撮ったんだ!?」
誰もいないことを確認したぞ!とレオンは思った。
魔術師たちがヒソヒソと
「それもそうだ。水晶に映像を記録するためには、手か杖で魔力を与え続けないといけない。」
「証拠保管室に一日中隠れて見張っていたのか?」
「あり得ないわね。じゃ捏造なの?」
レオンは勢いづいて
「来るかどうかも分からない犯人を水晶で撮るために、何日間も人が潜んでいたというのかっ!そんなバカな話があるか!」」
ハリーはベルと一緒に、窓のカーテンを開けて回っていた。
ハリーは魔法で、ベルは手作業で。
会議室が明るくなると、ハリーは何食わぬ顔で振り返った。
レオンと目を合わせ
「さぁどうかな。
君のような『平凡な』王女付き魔術師には無理でも、この『当代きっての世界最高の上級魔導士』である僕にはできるよ。」
と言い放つと、ベルに向かってウィンクした。
ベルは呆れたような苦笑いを浮かべる。
ハリーは続けて
「じゃ、ベル、僕が何をしたかを説明してやってくれ!
皆さん、そもそも全て、このベル・ヴァルナーさんのアイデアなんです。」
ハリーは大げさな身振りでベルを紹介する。
エルンハルトは、真っ赤になってうつむくベルを見た。
彼女が考えた作戦で、事件が解決した。
誇らしい。だが、彼女の聡明さを大勢の前で披露されるのは、なぜか面白くない。
自分でも説明のつかない感情に、エルンハルトは眉を寄せた。
ベルはまさか自分の名前が、これほど大勢の前で紹介されるとは思っていなかった。
恥ずかしさで真っ赤になりながらも、少しだけ胸を張って話し始めた。
「実は、ハリー…いえ、ハルマンさんには『自動記録魔法』を開発してもらいました。」
魔術師たちが声を上げる。
「何だそれ?」
「聞いたことないな」
ベルは続ける。
「魔法使いが水晶に触れていなくても、きっかけがあれば『記録魔法』が発動し、水晶に映像を記録する仕組みです。
きっかけは一定時間が過ぎると作動する、でもいいし、何かを感知して作動する、でもいいんです。」
大臣や魔術師たちがざわついた。
「そんなものがあれば確かに証拠保管室でレオン・ローランが細工していた証拠になるな。」
「だがそれをハルマン君がひとりで開発したのか?」
「この短期間に!?」
「どうやって?」
ベルがあごに指を添え、自信なさそうに
「魔法使いの方々は、魔法を使いたいと思ったときに発動させますよね。でも私は魔法が使えません。
だから、必要なときに使えるように、先に仕掛けておけないかと考えたんです。
私は魔法が使えないので、詳しくは分からないんですが、魔法の種類は少し知っています。
その中でも、魔力を与えると物が時を刻む『時刻魔法』と水晶に映像を記録する『記録魔法』を組み合わせればできるんじゃないかと思ったんです。」
魔術師たちが大声で
「まさか!無能力者の素人の発想だ!」
「そう簡単に上手くいくはずがない!」
ハリーが魔術師たちを鋭い横目で睨んだ。
「だが現に上手くいきました。ヴァルナ―さんの素晴らしいアイデアを基に僕が発明しました。」
別の魔術師が声を上げた。
「ハリー様、詳しくお聞かせください。」




