その27『王女付き魔術師レオン』
レオンがディアナの寝室に入ると、ディアナは寝間着姿のまま寝室を歩き回っていた。
レオンがお辞儀し
「王女殿下、ご機嫌麗しゅうございます。」
ディアナはイライラとした様子で、歩き回るのをやめず
「ねぇ、『運命の子』って知ってる?」
レオンは頭を上げ、背筋を伸ばした。
「もちろんです。」
「条件は?」
「一つ目の条件はx年x月x日に生まれたこと」
「二つ目は?」
「魔力がゼロであること。つまり測定の結果が判定不能であること。」
ディアナはウンと頷いた。
「三つ目は?」
レオンは口を開こうとしてためらった。
口をつぐみディアナを見た。
ディアナは床を見つめたまま歩き回っていたが、レオンが黙り込んだので立ち止まった。
振り返りレオンと視線を合わせた。
「三つ目の条件は何なの?」
レオンはもったいぶるように人差し指を立て、唇の前に持ってきた。
「それは気軽に口外してはいけないのです。」
ディアナは怒りで頭に血が上り、鋭い声で
「それくらい知ってるわよ!
運命の子の意識レベルが下がれば、世界中の魔法使いから魔力が激減するんでしょ?」
レオンは無言でうなずいた。
ディアナはレオンを睨みつけた。
「私は『運命の子』候補なの?
五人のうちのひとりなの?
王室専属顧問魔術師で高い地位にいる、あなたなら知ってるでしょ?」
レオンは首を横に振った。
「候補者の名前を知る者は、ごく一部に限られています。私も、候補者全員の名前を把握しているわけではありません」
ディアナは再び歩き始めた。
「じゃ、あなたはどう思う?私は運命の子だと思う?」
レオンは曖昧に微笑んだ。
「今は、何とも言えません。ですがディアナ王女殿下に魔力がないことは承知いたしました。
生年月日も運命の子と一致なされるということですね?
それなら、そうであっても不思議ではありませんね。」
ディアナは唇を引き結んだ。
もし、自分が『運命の子』なら。
それなら、みんなは今までとは違う目で自分を見るだろうか。
もっと大切にしてくれるだろうか。
そこまで考え、ディアナは顔をしかめた。
バカみたい。そんなことを期待するなんて。
「あーーー忌々しいっ!私に魔力がないばっかりに、酷い火傷をしてしまったわ!
それに、あのジョアンナっ!
口を開けば誰も彼もジョアンナ、ジョアンナ!
『聖女ジョアンナ様は素晴らしい!』
『G国の宝だ!』
『前代未聞の偉業だ!』
『聖ジョアンナは聖人に列せられるべき!』
『奇跡の技を記録に残そう!』
ですって?
うっとおしいったらっ!
火傷を負って寝込んでいる私の心配よりも、ジョアンナの奇跡を褒め称えるのが見舞いの目的ですって!
聞いてるの、レオンっ!
どうすればジョアンナに復讐できるかしら?
あの女の評判が落ちるような方法はない?
あれだけ持ち上げられているんだもの。少しくらい、叩き落としてやったっていいでしょう!」
レオンの貼りついたような微笑みが引きつった。
「それでしたら……」
ディアナの寝室から退いたレオンは心の中で呟いた。
チッ!
いつもくだらない献策ばかりさせられる。
侍女を使って将軍に媚薬を飲ませる作戦の次は、聖女を貶める作戦だと?
それに残念ながら、エルンハルトはあのベルという侍女と懇意なようだ。
媚薬について会話していたしな。
ディアナ王女の媚薬作戦は将軍に筒抜けだったようだな。
美貌と知略を備えているが、傲慢でわがままで惨めで憐れな王女さま。
だが……これではっきりした。
ディアナが無能力者であるという噂は事実だった。
魔力があるなら、燃えたドレスを前に何らかの魔法を使おうとするはずだ。
だが、ディアナはそれをしなかった。いや、できなかったんだ。
傍系王族のオレですら魔力は★9以上。
それなのに直系王族のディアナが魔力ゼロ?あるいは測定不能だと?
直系王族にあるまじき不名誉。
末代までの恥さらし、歴史的汚点。
では、あの噂はどうだ?
彼女が敵国・F国から送られた人質の王女であるというあの噂。
もしそれが本当なら、オレが仕えている相手は忌むべき敵だ。
だが……もし、彼女が『運命の子』なら?
オレたち魔法使いにとって命の次に大切な『魔力』。
その源である『運命の子』。
彼・彼女が死んでしまえば魔術師など、死んだも同然。
ディアナが『運命の子』ならば、オレたち魔法使いにとって、命を懸けて守り抜くべき神にも等しい存在だ。
果たして、どっちなんだ……。
レオンの鼻から息が漏れた。
フンッ。
王宮で火炎魔法を使うなどという、危ない橋を渡ったにしては、得た情報は些末だった。
拳を握り締めるレオンの目が、怪しく光った―――。




