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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その25『聖女の治癒魔法』

安堵すると、ベルはようやく周囲の様子に気づいた。


ざわめきの中から、人々の話声が聞こえてきた。


「王女は自分の魔法で火を消せばよかったのに……」


「魔法が使えないという噂は本当なのか? いや、王族に限ってそんなはずは……」


「水魔法が不得意だったか、パニックになっただけだろう」


魔法?


ベルは体が宙に浮かんで引っ張られたことを思い出した。


思わず声が弾んだ。


「将軍が魔法で助けてくれたんですね!」


エルンハルトは目を輝かせるベルを見て安心し、うなずいた。


「そうだ。俺が得意なのは重力を操る魔法。だから君を助け出せた。国境砦のときも。」


あの時も落下速度を緩めてくれたから、私は大怪我しなくてすんだんだ。


そして今回も、将軍は助けてくれた。


火がついてる私を抱きしめれば、自分が火傷するかもしれないのに。


私を抱きしめた将軍の腕の感触を思い出し、胸が温かくなった。


あの腕に守られていると、何も恐れる必要がないような気がした。


同時になぜ私を?という疑問がわいた。


あのとき魔術師たちはいっせいに杖をディアナに向けていた。


私より激しく燃えていたから当たり前。


なのに将軍は、腕を掴まれて動けなかった私を、引き寄せて抱きしめることで火を消してくれた。


ベルはエルンハルトを見つめ


「将軍は、どうして先にディアナ王女を助けなかったんですか?」


エルンハルトの頬に痙攣が走った。


指摘されて初めて気づいたように、表情がこわばった。


絞り出すような声で


「君の言うとおりだ。

過ちを認める。

俺はG国軍人失格だ。」


ベルは目を見開いた


「……なぜ、ですか?」


エルンハルトは自責に駆られたように目を伏せた。


「公務より私情を優先させた。」


ベルの胸が激しく高鳴った。


我を忘れるほど心配してくれるなんて。


エルンハルトは、はっとしたように顔を上げ


「あっ、そうだ!

王女を助けようとする人はたくさんいたが、君は…君のことを誰も助けなかったから。

仕方なくね。」


「どうせ私は、誰にも気にしてもらえない侍女です!」


エルンハルトはベルの頭をクシャッと撫で


「そうだ。だから俺がいたことに感謝するんだな。」


温かい、大きな安心で包んでくれる。


ベルは気づいていた。


ベルを助ける人がいなかったのは、ディアナの燃え方と比べものにならないくらい些細な炎だったから。


ベルは気が抜けると肩にヒリヒリする痛みを感じた。


それでも王女のことが心配でたまらなくなり、立ち上がって人垣をかき分けディアナのそばに駆け寄った。


横たわるディアナの体には、魔術師の黒いローブが掛けられていた。


目を閉じた横顔の、頬には痛々しく赤くただれた火傷があり、そばにはイルマーが座りこんでディアナに話しかけていた。


「王女殿下、もうすぐ治癒魔術師が来ます。

大丈夫です。

気を確かにもってください。」


緊張感のある落ち着いた声で。


「通してっ!どいてください!私は治癒魔術師ですっ!」


黒焦げになったカーテンやカーペットの中で、ジョアンナの純白のドレスは天使のように輝いていた。


ジョアンナが人混みをかき分けディアナに近づき、膝をついた。


ジョアンナは救急箱から小瓶を取り出し、呪文を唱えながらディアナの頬とドレスに薬を振りかけた。


「熱除去と痛み止めの応急処置をしました。ディアナ王女を寝室へ。本格的な治療はそこでします!」


ディアナは担架に乗せられ魔法で浮かせて、寝室へ運ばれた。


治療に入ったのはジョアンナと女性の王室専属顧問魔術師だけで、ベルは控えの間で待つことになった。


すると、エルンハルトが近づいてきて、ベルと視線を合わせるようにしゃがみこんだ。


治療中の寝室に気を使っているのか小声で


「君も今のうちに肩の火傷を治療してもらうといい。

ジョアンナ以外にも治癒魔法を使える魔術師はいるだろう?」


エルンハルトがあたりを見回すと、ちょうどそこにハリー・ハルマンが入ってきて


「ベル、火傷したんだって?

僕が治療してあげるよ。

こう見えて治癒魔法も得意だからね!

え?そうさ!ぶっちゃけると僕に苦手な魔法なんてないのさっ!」


とウィンクする。


陽気なハリーの言葉につられて、ベルも思わず微笑み


「じゃ、お願いしようかな?

世界最高の天才魔術師さん!」


軽口をたたく。


二人の様子を苦虫を噛み潰したような顔でエルンハルトが見ていたが


「ハリーお願いする。早く治してやってくれ。」


小さく呟いた。


ハリーがベルの肩に手をかざした。


エルンハルトの眉間に、深い皺が寄る。


ベルはそこが温かくなっていくのを感じた。


チクチクした痛みとともに、皮膚が引っ張られるような感覚。


エルンハルトが苛立ったように


「杖を使わないのか?ベルに触れるんじゃないぞ!」


ハリーがチッと舌打ちし


「手の方が広範囲に治療できるんだ。門外漢は黙っててくれ。」


そうしてるうちに、ディアナの寝室に出入りする際の女性治癒魔術師たちの会話が、ベルの耳に入った。


「見た?あの治癒魔法」


「もちろん。皮膚の下まで焼けただれてたのに、聖女様の呪文と薬でみるみるうちに修復されていたわね!」


「そうそう!あっという間に焼けた部分の周囲から、血管が新たに伸びていくところが見られるなんて!まだ信じられない!」


「魔術学校でもあんな治癒魔術は習わなかったものね!」


「王女さまもジョアンナさまに感謝しなくちゃね。あれだけの酷い火傷を元通りに治療してもらえるなんてね。」


それを聞いて、ベルは改めてジョアンナの魔術に感動した。


凄いっ! さすが聖女さまっ!!


そんな偉大な人と仲良くおしゃべりしていたなんて夢みたい!


ディアナ王女も元通りに治ってよかった。あれほどの美貌が失われるなんてもったいないもの!


「はい、これで終わり!綺麗に元通りになったよ!」


ハリーの声がして、ベルは自分の肩を見ると、腫れも赤みもない、きれいな白い肌になっていた。


また感動の興奮がこみ上げ目が潤む。


「ありがとうございますっ!ハリーさんっ!ホントに魔法使いってスゴイっ!!」


ハリーの手を両手でギュっと掴み、ブンブン上下に振る。


ハリーは照れたように頭を掻いた。


エルンハルトだけは目を細め、


「ちゃんと治ってるのか?」


疑わしそうにベルの肩に顔を近づけると、ハリーが


「将軍っ!若い娘さんの肌に顔を近づけるなんて、不作法です!破廉恥なっ!」


たしなめると、エルンハルトは赤面し


「違うっ!そういうつもりじゃないっ!確かめようとしただけだっ!」


そう叫ぶとハリーと睨み合った。


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