その23『第二の作戦』
ベルはニンマリ笑い
「こんなこともあろうかと、次の作戦を用意してたの!
ええっとね、ゴニョゴニョ……」
耳打ちすると、ジョアンナはうなずいてポケットから鶏卵サイズの水晶を取り出した。
水晶を両手で握りしめ、目を閉じ呪文を呟く。
すぐに水晶から男性のボソボソ声が聞こえた。
ジョアンナが水晶とひと言ふた言会話する。
次の瞬間
ポンッ!!
軽い爆発音とともに、人の大きさぐらいの白い煙の塊が庭に出現した。
煙が消えると、中から上級魔導士ハリー・ハルマンが姿を現した。
ジョアンナが感心したように
「何度見ても瞬間移動魔法ってビックリするわね!」
ベルがジョアンナにお願いして『念話』でハリーを呼び出してもらったのだった。
頭を掻きながらベルと目が合うと
「いや~~~瞬間移動は僕ぐらいの上級魔導士でないとできないんだよ~~~!
どう?ベル!見てた?
割とすごいでしょ?」
自慢げに呟く。
ベルはホントにスゴイ!と感心したのと、おだてる目的とで、
パチパチパチッ!!
大げさに拍手しながら
「スゴイですっ!天才ですっ!世界最高の大魔術師っ!」
満面の笑みで賞賛の言葉を惜しみなく浴びせる。
直後、真顔に戻り
「じゃ、早くっ!将軍を連れ出してください!
ディアナ王女と婚約させられちゃうっ!!
急いでっ!!」
ハリーの背中をグイグイ押して急かした。
ハリーは肩をすくめ
「わかったよ~~~。
これもベルのためだ。」
エルンハルトとディアナを引き離す方法その2とは、名付けて
『「強い魔物が王都に出現したから退治を手伝ってくれ」という理由で将軍を外出させる作戦』
将軍がハリーと街をうろついてさえいれば、誰に一目惚れしようが構わない!
ディアナに一目惚れさえしなければ、婚約誓約書にサインなんてしないでしょうし!
一番手っ取り早い方法は、私と二人きりになるように将軍を閉じ込める方法。
真っ先に思いついたけど、『媚薬』の効果で好きになってもらっても全然嬉しくない。
できるだけ平穏無事なときに、好きになってもらいたい。
え?メンドクサイ女?
そうかも。
でも、たった丸一日でも、将軍の本心じゃない偽の『愛の告白』なんて聞きたくない。
え?あとで悔やむ?
そうかも。
後々
「あのとき媚薬の力でも嘘でも何でもいいから告白されたかった~~~!」
って悔しくてのたうち回るかも。
とにかく、ハリーが将軍を外に連れ出してくれるのを確かめよう!
応接室の窓の外から、玄関が見える場所までベルは移動し、固唾を飲んで成り行きを見守った。
玄関の扉が開き、まずハリーと将軍が出て行った。
少ししてディアナと魔術師レオンが姿を見せた。
ディアナは口をとがらせ、ふくれっ面で見るからに不機嫌。
チッ!と舌打ちし
「これは偶然なの?それとも誰かが企んだの?」
レオンはあたりの様子をうかがうように目を泳がせ
「さぁ…でも誰の仕業ですか?まさか、あの侍女?書斎にいた。
小瓶の中が媚薬と気づいたんですか?
でもあの短時間にどうやって調べたんですか?
魔力が無いんでしょう?」
ディアナはフンッ!と鼻息あらく、肩で風を切るようにして立ち去った。
ベルはやっとホッと安堵のため息をついた。
コニーとジョアンナと女友達と合流し
「ありがと~~~~!
みんなもありがと~~~!
助かった~~~~!」
ベルが二人の手を握りブンブン振り回すと、
「ど~~~いたしまして~~~~!
私だって将軍が王女と婚約なんて嫌だもの!」
「そうよ~~!阻止できてよかった~~~!」
女友達も集まってきて
「かっこよかったーーー!将軍!」
「エルンハルト様っ!!神々しすぎてマジ神っ!!生き神っっ!」
「会えて嬉しかった~~~!!気絶しそうっ!鼻血でそうっ!」
口々に褒め称え、異常なテンションの黄色い声が飛び交った。
その後もエルンハルト将軍がいかにカッコよかったかとか、声を聞くだけでゾクゾクしたとか、毎晩夢に見そう!とか女子トークでひとしきり盛り上がった。
やっと女子会がお開きになり、ベルたちは将軍邸からの帰路に就いた。
コニーとジョアンナと別れてひとりになると、ベルは満足しながら今日の作戦を思い返した。
まず、作戦その1は『16時に見る異性の数を増やすこと』。
『ディアナ王女だけに一目惚れ』の可能性を減らす。
これはコニーとジョアンナに女友達を集めてもらって将軍邸を訪問!で達成できた。
作戦その2は『王女が二人になりたがる場合は、ハリーさんを呼び出してもらって将軍を外出させる。』
一瞬、王女と将軍が二人になる時間があったけど、媚薬がその瞬間に効いたとしても婚約誓約書にサインした可能性は低い。
どのみち明日までに将軍が婚約誓約書にサインしなければ問題無し!で婚約阻止成功!
思ったよりトントン拍子に進んだことが嬉しくて、ニンマリしながら歩いてると、
目の前に豪華な馬車が停車してるのが見えた。
横を通り過ぎようとするとギィッと馬車の扉が開き、中からニュッと手が出てきた。
深紅に金糸で繊細な装飾がある軍服の袖がベルの視界に入った。
その手の持ち主が半身を乗り出して顔を見せ
「話がある。馬車に乗ってくれ」
ベルは戸惑った。
どう説明すればいい?
騙した?ことになるの?
でも将軍を守るためなのに?
額にじんわり冷や汗がにじんだ。
それでも、断る理由が思いつかず、ベルは馬車に乗り込んだ。
エルンハルト将軍の目の前に座ると、
「説明してくれ」
腕組みして怒ったような困ったような険しい表情。
それでも無造作に後ろになでつけた黒髪の真下の形のいい額や、整った繊細な顔立ちの中でも印象的な彫りの深い目元を見ると、ベルの胸は躍った。
エルンハルトが眉を寄せる。
ベルは最初から説明した。
説明を終えると、機嫌をうかがうように、ベルはうつむき、上目遣いになる。
するとエルンハルトは何かひらめいたようにあっ!と口を開け、ポン!と膝を打った。
「そうか、なるほど!だからか。」
声はなんとなく白々しい。
「何がですか?」
ベルは首をかしげる。
大根演技をしてまで何?
何を思いついたの?
エルンハルトは熱い眼差しでベルを見つめた。
ベルは心臓がバクバク暴走し始め、顔に血が上って熱くなった。
少しでも頬を冷やそうと手で包み込む。
だけど、手のひらも熱い。
エルンハルトに穴が開きそうなほど見つめられることに耐えられなくなりベルが
「何か言ってください!
何が『なるほど!』なんですか?」
すると、エルンハルトは真剣な表情でベルを見つめたまま
「媚薬の効果に納得したんだ。」
「は?媚薬って誰を見たんですか?」
「俺の目には、いつにもまして一段と魅力的で、誰よりも愛おしく見えている。
だから……おそらく、君だ。」
絞り出すようなかすれ声で呟いた。




