その22『作戦実行』
ベルが将軍宅を訪れ、応接室に案内されると、エルンハルト将軍はすぐに現れた。
突然のベルの訪問に眉を上げ、嬉しそうに目を細め
「いらっしゃい。
お茶と菓子でも食べてゆっくりしてくれ。」
と対面の長椅子にゆっくり腰かけた。
そしてベルを見つめたままジッと動かず、訪問の用件も聞かなかった。
ベルは見つめられると居心地が悪くて(だってこれから媚薬を盛らなくちゃ!だし)モゾモゾしてる。
媚薬の小瓶を両手の中に握りしめていた。
ふいにエルンハルトがベルを『視線で射殺そうとする』のをやめ、立ち上がる。
すると紅茶を運んできた執事のトレーからポットとカップを取り上げ、ベルの目の前に置き、将軍自ら茶を注いだ。
無骨で堅物の『旦那様』の下僕のような献身的な態度に、執事は目を丸くしてポカンと口を開ける。
ベルは『大切なお客様』扱いされたことが嬉しくないと言えば嘘になった。
天にも昇るほどテンションが上がり頭の中ではキャーキャー盛り上がり何かが小躍りしてた。
けど今は、『将軍に媚薬を盛る』というミッションクリアに向けてドギマギしてる最中なので、ゆっくり喜びをかみしめてる場合じゃない。
ベルは苦笑いして、
「あ、ありがとう…ございます。」
将軍の注いでくれた紅茶を見る。
そうだっ!とひらめき、
「将軍の分は、私が注ぎますね。」
将軍のカップをテーブルに置き、茶を注ぐ。
注ぎながら何気なく
「あのときの、壊れた石像はどうなさいました?
修理されたんですか?」
ベルが庭を見て視線を誘導すると、将軍もつられて庭を見た。
その隙にベルはすばやく小瓶のコルクを抜き瓶の中身の透明の液体をカップに注いだ。
ふぅ~~~~。
額の汗をぬぐう。
気付かれずにお茶に媚薬を入れることに成功!
チクッと少し罪悪感。
将軍は庭を見つめたまま
「ああ。あの後ハリー君が新しい銀鉱石を運んでくれ、魔法でつなぎ合わせてくれてね。
ちゃんと修復してくれたよ。」
「そうですか。よかったですね。」
エルンハルトはベルに視線を戻し、紅茶を手に取り、口をつけた。
ベルはしっかりと見届ける。
媚薬がエルンハルトの喉を通過するのを。
チラッと時計を見ると15時ちょうど。
よかった~~~~。
ホッと安心。
とりあえずディアナ王女の命令は実行した。
あとはこちらの作戦が上手くいけばいいんだけど。
エルンハルトはベルが自分の喉元をジッと見つめたり、安堵のため息を漏らしたりするのを温かい目で見守ってた。
口元にはほほ笑みを浮かべて。
カップをソーサーに置き
「お茶を飲んだら修復後の石像を見に行くかい?」
「はいっ!是非っ!!」
ベルは上ずった声で答えた。
その後、ベルは将軍と石像を見たり、お菓子を食べてお話したりして過ごした。
楽しすぎて時を忘れるほど……あっヤバっっ!!
忘れてた!
16時までにここを出なくちゃ!
ベルは焦って時計を見る。
16時まであと10分!
ディアナ王女に見つかったら大変!
というわけでベルはサッと立ち上がり
「あの、仕事がまだあったのを今思い出しました。
王宮に帰らなくては!
では、失礼します。」
テキパキと告げると、応接室から出ていこうとした。
将軍が先回りして出口を塞ぎ、通せんぼして
「なぜそんなに急いでるんだ?
今日は変だぞ?」
ドキッ!
心臓バクバクで口から飛び出しそうっ!!
でも早く逃げなきゃ!
ベルは焦って将軍の、真紅に金糸で装飾されてる軍服の腕を掴んで押し上げ、腋の下を通り抜けた。
通り抜ける瞬間、フワッと石鹸と汗の混じったほのかな匂いが漂った。
エルンハルトの体から放たれる熱を肌で感じ『超至近距離!』の興奮でベルはクラクラと眩暈しそうになる。
ってのぼせ上ってる場合じゃないっ!
気合を入れなおし、ベルは走って玄関から外に飛び出す。
すると庭の小道を、門の方からコニーとジョアンナとその女友達三人が歩いてくる。
「後はよろしく!」
コニーとジョアンナにタッチで挨拶してすれ違った。
ベルは門から出ていく、フリをして引き返し、庭の応接室内が見える位置に移動して身を隠した。
窓から中の様子をうかがう。
時間は16時まであと5分!
よしっ!間に合った!
勝利を確信しグッと拳を握る。
応接室には年頃の娘さんたち5人が将軍を取り囲み、質問攻めにしてる。
どう?
ベルは得意になった。
これが私の解決策。
名付けて『16時きっかりに将軍の目につくのがディアナ王女だけじゃない!』作戦。
コニーとジョアンナには女友達を集めてもらった。
誘い文句は「今なら、今だけ!会える!話せる!あのエルンハルト将軍と!」。
すると呼び鈴が鳴り、執事が出迎えた。
ディアナ王女が堂々と応接室に登場。
なぜか後ろに王室専属顧問魔術師レオンを伴っている。
王女はさっそく視界に入った5人の女子に取り囲まれた将軍の姿に、呆気にとられてポカンと口を開けた。
そして蒼白な顔で唇を噛みしめ、怒りに肩を震わせてる。
16時まであと1分!
……10秒、9秒、8、7、6、5、4、3、2、1……!!!
このタイミングでディアナ王女が叫んだ。
「エルンハルトが将軍っ!
二人だけでお話したいことがありますの!
今すぐ静かな場所へ案内してくださいっ!!」
ブチギレのご様子。
将軍とファンの女子は、頭から湯気を出して怒る王女にキョトンとしてる。
そうよね。
意味が分からないものね。
ま、そもそも媚薬入り紅茶を飲んだのが15時きっかりとは限らないし、ホントに1時間後に媚薬の効き目が表れるかというとそんなに厳密じゃない気もする。
ふと、将軍が何かを探すように視線をさまよわせた。
バチッ!
窓の外にいるベルと、目があった気がした。
将軍が驚いたようにせわしなく瞬きする。
ベルは苦笑いの愛想笑いでほほ笑み返した。
ディアナ王女が執事を呼びつけ、他の静かな部屋へ案内するよう命令すると、執事は
「どうぞ。こちらへ」
執事が先頭に立ち案内する。
王女はついていくけど、エルンハルトは躊躇い、立ち止まって、ベルを振り返る。
でも最終的には
「将軍っ!何してるのっ!」
という王女の叱声に急き立てられて、応接室を出て行った。
二人の姿が見えなくなると、窓の外からベルが手を振った。
ジョアンナが駆け寄り、
「どうしよう!?ディアナと将軍が二人きりになっちゃう!」




