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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その19『孤独と痛み』

エルンハルトは思いがけずベルに会えたことを喜んだ。


だが、無様な姿を見せたことを後悔していた。


ひとりきりなら、こらえきれない痛みではない。


孤独で痛みが増すことはない。


今までは。


だが、屋敷の前の道にたたずむベルを見た時、どうしようもなく傷が痛んだ。


そばにいてほしいと思った。


彼女はすぐさま立ち去ろうとした。


引きとめたかった。


このままベルが立ち去ることを想像するとさらに痛みがひどくなる。


エルンハルトは自分の弱さを初めて痛感した。


傷の痛みに耐えられないからではない。


誰にも頼らず、ひとりで耐えることを当然としてきた自分が、たったひとりの女性に、そばにいてほしいと願っている。


その事実が、彼の自負を揺るがしていた。


たかが女ひとりに感情をかき乱されるような軟弱な男を、通常は軽蔑していた。


鍛錬や戦場で、常に己の弱さと向き合い、克服し勝利を重ねてきた。


情けなかった。


こんな姿を見せたくなかった。


だがベルは当然のことのように世話をしてくれる。


嫌悪のかけらも見せずに。


ベルが肘を支え、付き添ってくれた時、何よりも痛みが和らいだ。


その手の温かさに、張り詰めていた身体から、わずかに力が抜けた。


彼女は自分を哀れむのではなく、ただ心配してくれているように見える。


ベルが傍にいてくれることが、これほど心強いとは思わなかった。


弱った無様な姿を見せた今も、こうして寄り添ってくれている。


長椅子に寄り添い、縁に手をかけて、心配そうな顔で自分を見つめるベル。


その姿を見ていると、国を敵から守る将軍としてではなく、一人の男として気にかけてくれるように思えた。


強くあらねばならない。


誰よりも強く、兵士たちを守り、民衆を安心させなければならない。


そう思って生きてきた。


けれど、弱っている自分を見せても、ベルは離れていかなかった。


彼女のそばでは、無理に強がらなくてもいいのかもしれない。


そんな思いが、胸の奥に静かに広がった。


ベルを手放したくない。


そばにいてほしい。


薬の効果が出てきたのか、エルンハルトは強い眠気に襲われ目を閉じた。


だが、これだけは言わなければと声を絞り出し


「ベル、俺が目覚めるまで、そばにいてくれ。

…頼む……言いたいこと…が…ある……」


ベルの手を掴もうと、肩を押さえていた手を伸ばしたが、そこで意識が遠のいた。



 ベルはエルンハルトが眠りにつくのを見届けた。


目覚めるまでそばにいてくれ、と言われてもと迷った。


早く帰らないと王女様に疑われる。


だけど、このまま立ち去れば、将軍は私に失望するかも。


でも、いつ目覚めるのかもわからないし、どうすればいいの?


明日の朝、なんてことになったらどうしよう!


将軍には、痛みが治まるまで、ぐっすり眠っていてほしい。


私を気にせず。


ためらったが「あっ!」とひらめき、執事に紙とペンを用意してもらった。


そして置手紙を書いた。


『エルンハルト将軍へ


ぐっすり休んで古傷を養生してください。


私ならどこにも行きません。


王宮まで来てくれれば、いつでも話を伺います。


訓練のし過ぎや体を鍛えるのもほどほどにしてください。


戦場で勝つことよりも、お体を大切になさってくださる方が、私は嬉しいです。


ベルより』


立ち去る前に将軍が差し出した手を両手で握りしめた。


頬を押し付け、ごつごつした指の感触を確かめた。


幾度も剣を握り、鍛錬を重ねてきた人の手だった。


いつも誰よりも強くあろうとする将軍。


そんな人が、今は痛みに耐えかねて、助けを必要としている。


ひとりの傷ついた人間としてここにいる、と実感した。


そしてベルは、その弱ささえ、愛おしいと思った。


ずっと一緒にいたい、平凡な日々をともに過ごしたい。


これから先、何千回もの朝を、隣で目覚め、言葉を聞きたいと思うただ一人の人。


ベルは王女の過酷な支配から逃れられたら、真っ先に将軍に告げたいと思った。


そんな日が来ることを、ベルは切に願った。



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