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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その18『傷だらけの英雄』

◇



ベルは『午後のお茶』の招待状を受け取った直後、天にも昇りそうなほど嬉しかった。


招待状を何度も読み直し、そのたびに笑顔の将軍と過ごす楽しいひとときを想像して舞い上がった。


また将軍の邸宅に行けると思うと、自然と頬が緩んだ。


でもふと我に返り冷静になると


招待を受けて将軍のお宅へ伺うですって?


どうやって王宮を抜け出すの?


王女さまになんて説明すればいい?


と問題だらけなのに気づいた。


それに午後のお茶会に出かけたとして、たくさんの立派なお客様方の中に、私のような悪評だらけの身分の低い侍女が混じったら、将軍の格が下がるかもしれない。


有名な悪女と親しい付き合いがあるなんて噂になったら、将軍の輝かしい評判に傷がつく。


招待客が自分ひとりだけだとは、ベルは夢にも思わなかった。


午後のお茶会の当日がきた。


ベルは朝からずっとソワソワしていたが、夕方、雨が降り出した窓の外を見てやっとホッとため息をついた。


よかった。


ベルはもう一度、机の上の招待状を見た。


でも雨が上がれば、まだ間に合う?


いいえ、これでよかったんだわ。


雨が強くなれば、行こうかどうしようかと、もう迷わずに済む。


招待を無視してしまったけど。


でも期待して裏切られるよりも今のままの方がいい。


彼が優しくしてくれるのは、私が特別だからじゃない。


彼が人格者で誠実で誰からも愛される立派な人だからというだけ。


自分に言い聞かせ、揺れる心を落ち着かせた。



◇



ベルは命じられた買い物に出かけた際に、将軍の邸宅付近を通りがかった。


ベルは罪悪感にかられた。


午後のお茶会の招待を無視してしまった。


本当は一目会いたかったのに。


ここから邸宅を眺めるだけなら、誰にも迷惑をかけないわよね?


確か二人で王宮まで歩いたときもここを通ったっけ?


『寄り道してちょっとだけお宅を拝見してみる?』


と門前の道に立ち止まり、広々とした庭や玄関に続く小道や白亜の石造りの邸宅を眺めた。


コニーとジョアンナと三人でここを訪れ、石像が破壊された事件に立ち会ったことを思い出す。


あれからもう二週間ぐらいたったのね?


将軍と並んで歩いて帰ったことを昨日のことのように思い出すのに。


私に歩幅を合わせてゆっくり歩いてくれて、水たまりを踏まないように気を使ってくれた。


馬車が通りがかるとはね上げる泥がかからないよう、道の脇に誘導してくれ、壁になってくれた。


数々の親切を思い出すと、ベルは幸せに包まれた。


……いけない!期待しては。


あのポットを落とした侍女に対しても見せる、将軍の優しさに、期待してはいけない。


彼にとっては普通のこと。


将軍宅の玄関の扉が開き、誰か出てきた。


ベルは慌てて身をひるがえし駆け出す。


「ベルっ!待ってくれ!なぜ逃げるんだ!」


将軍の大声が聞こえた。


その直後


「うっっ!!」


うめき声が聞こえる。


気になったベルは足を止めて振り向く。


肩を押さえうずくまるエルンハルトの姿が見えた。


ベルはあわてて門扉を開けて入り、小道を駆けて将軍に近づき


「大丈夫ですか?痛むんですか?」


エルンハルトは蒼白な顔で首を横に振り


「大丈夫だ。

古傷が痛んだだけ。

薬を飲めば治るよ」


気丈な言葉とは裏腹に、弱々しく呟く。


ヨロヨロと立ち上がろうとするので、ベルは将軍に手を貸し、肘を支えて立ち上がらせ


「さぁ、中に入って執事さんに薬を用意していただきましょう。」


エルンハルトは痛みをこらえるように肩を押さえ、ベルに支えられ、ふらつきながら歩いた。


痛々しい姿にベルは心配で胸がつぶれそうになった。


何年も国境で、荒々しい敵から私たちを守り続けてくれた英雄。


何度も傷を受け、ボロボロになった体が悲鳴を上げてるんだ。


玄関を入ると執事が慌てた表情で


「どうなされたんですか?」


「痛み止めのお薬を用意してもらえますか?」


将軍を支えて応接室まで来るとベルは長椅子にエルンハルトを座らせた。


ベルは長椅子の上のクッションの位置を整える。


エルンハルトが横になっても肩に圧力がかからないように


「この位置がいいですか?それともここ?」


確かめながら、エルンハルトが楽な姿勢を取れるようにした。


エルンハルトは


「ありがとう。ああ、そこでいいよ。だいぶ楽になった。」


蒼白な顔で痛みをこらえ、ベルを安心させようと強がった。


ベルは思った。


屈強なだけの人じゃなかった。


あたりまえのことなのに、ベルは初めて気づいた。


しばらくして執事から薬の入った器を受け取ると薬を飲むのを手伝った。


また横になるとエルンハルトが


「ありがとう。ベル」


苦しそうな息で呟く。


痛みも苦しみも普通の人と同じように感じるのに、部下の兵士たちや民衆を安心させるために痛みなどないフリをし続ける我慢強い人。


ベルは心から尊敬の念と愛おしさが込み上げた。


将軍の横たわる長椅子に寄り添うように座り込んだ。


「しばらくこうしていてもいいですか?」


「もちろんだ。」


さっきよりも落ち着いた声でエルンハルトが応えた。



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