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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その13『恋心を殺す言葉』

 祝賀パーティの数日後、ベルは呼び出されディアナと二人きりになった。


ベルは思った。


嫌な予感……


無理難題を押し付けるときはいつも二人きりなのよね。


それにここ数日間は、特にあたりがキツい。


「埃が落ちてる。掃除をやり直しなさい。」


「紅茶が冷めてる。入れ直し。」


「食べたいサントノレはこれじゃない!店を間違えたわね。買い直してきて。」


もしかして完璧な美貌の、最も尊い身分の『王女様』が将軍との仲を疑ってる?


まさか。


ちっぽけな侍女である私に嫉妬なんてありえない。


――ベルはあの夜の星空を思い出した。


無数の宝石をちりばめたように瞬いていた。


美しい星空のせい、だけじゃない


あれほど胸が躍ったのは


隣に、エルンハルト将軍がいたから―――。


ベルの夢想を遮(さえぎ)るように、ディアナが


「これから将軍の邸宅を訪ねるけど、あなたも一緒に行きたい?」


冷ややかな声。


え??


ビックリしすぎてベルは一瞬、意味が分からなかった。


ディアナが目を細め


「軍事情報を手に入れるために将軍と親しくなったんでしょ?

将軍に会いたい?」


ベルはウンウンと何度もうなずき


「ぜ、是非、行きたいです。」


頬が熱くなった。


将軍に会えるのが嬉しすぎて、ベルは喜びを隠すことができなかった。


そんなベルを見つめるディアナの青い瞳に、冷たい光がよぎったことにも気づかずに。


◇


 将軍の邸宅に到着した。


広々とした庭の小道を抜け屋敷に案内された。


ベルは庭の花壇の近くに獅子をかたどった石像があることに気付いた。


執事が先導しディアナ王女に付き従って応接室までくると、将軍が入口で出迎えた。


深くお辞儀し


「これはこれは。

王女殿下、ご機嫌麗しゅうございます。

わざわざ拙宅にお越しいただき、まことに畏れ多いことでございます。」


王女は思いがけず美味しいお菓子を食べた時のように自然と笑みがこぼれ


「まぁ、ずいぶんかしこまって。

私たちの間でそんな挨拶、必要ないでしょ?」


上機嫌な声。


お二人は長い付き合いだから、私の知らない過去がたくさんある。


チリッとベルの胸が焦げた。


ベルは王女の後ろに隠れていた。


身じろぎして王女の陰から将軍を覗き見た。


無精ひげは綺麗に剃られ、無造作な肩までの艶めく黒髪、整った顔立ちに彫りの深い目元は楽しそうに細めている。


エルンハルトはベルに視線を移し、何も見なかったかのように王女に戻した。


チクッと胸が疼(うず)いた。


『そこにいない者』扱いされた気がして。


高貴な人たちにとって、使用人のような身分の低い者たちは、「存在しない人」扱いって聞いたことがある。


将軍もそうなの?


砦で、侍女の私に優しくしてくれたから、将軍は身分で差別しない人だと思っていた。


応接室には王女と将軍が入り、ベルは応接室前の廊下で待っていた。


耳をすませば扉越しに二人の会話がどうにか聞き取れた。


ディアナ王女が鼻にかかった甘えるような声で


「とある人から国境の砦の軍事情報を手に入れました。」


ガサガサと紙の音がして


「なぜ王女殿下がこれを?」


「それよりこの情報は正しいのかしら?」


「さぁ‥…細かいところは記憶しておりませんから、何とも…」


呟いた将軍のひときわ大きい声が響いた。


「なんてことだ!

重大な軍事機密が漏洩したなんて!

一大事だ。

軍内部にスパイが潜んでる証拠です。

今すぐ情報を漏らした犯人をつきとめねば。

王女殿下、失礼して仕事をしなければなりません!」


ディアナ王女は笑い声をあげ


「ホホホホッ!

下手な芝居は結構よ、将軍。

私の侍女と手を組んで偽の情報を掴ませたわね?」


「王女殿下こそ、なぜ秘密裏に入手しようとなされた?」


「私はこの国の王女です。

国内のことは何であれ関心を持つのは当然です。」


「いいえ。

たとえ王様であろうとも軍事情報をお知りになることはできません。

国防のためには例外はありません。」


ディアナの刺(とげ)を含んだ低い声が聞こえた。


「あなたがベルと親しく話してるのを見ました。

あの子を気に入ってるの?」


将軍が応えるまで、長い沈黙があった。


ベルは耳に全神経を集中させる。


なぜ私はこんなに緊張してるの?


将軍が何と答えようと関係ないのに。


でも、『気に入らない』とは言わないでほしい。


お願い……!


しばらくすると


「まさか!身分の低い侍女を気に入るはずがない!」


将軍の声が扉の向こうからベルの耳に届いた。


バカバカしい、とでもいうように肩をすくめる将軍の姿がベルの頭に浮かんだ。


胸に鋭い痛みが走った。


やっぱりあの優しさは勘違いなのね?


王女に逆らうために一緒に情報を偽造したことや、気遣う手紙をくれたことも、特別な存在への気遣いじゃなかった。


なのに、どうして期待してしまったの?


だって、いつでも逃げてこい、と言ってくれたし、忘れ物を届けてくれた。


陰口を聞いても、私を嫌わずに並んで星空を眺めてくれた。


あれを特別な相手への優しさだと勘違いすることが、それほど間違ってる?


そうよね。


私と将軍は違うのよね。


兵士たちに細やかな気遣いができるから、数えきれないほどの武功のある、国防の要(かなめ)である大将軍なんだ。


そんな偉大な人が、悪評だらけの何のとりえもない私に優しくしてくれたからって、どんな意味でもない。


もしかしたら、私が勝手に自分の都合のいいように解釈していただけかもしれない。


いいえ。そうよ。


アルバ侯爵を騙した罰(ばち)が当たったのかもしれない。


でも、夢見てしまった。


あれほど自然な優しさで、全てを包んでくれる逞しさで、接してくれた人は初めてだったから―――。


ほんの少しだけでも、将軍にとって特別な存在になれたのではないか。


そんなことを、期待してしまった。


――馬鹿みたい。


ベルは心が、冷めていくのを感じた。


冷え切った手足が、凍りついていくように。


血の通わなくなった恋心は、


そこから徐々に、死につつあった―――。


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