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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その12『二人の星空』

ベルは大広間を飛び出した。


廊下に出てすぐの庭に続く扉を開け、外に飛び出す。


外の空気を吸い込んだ。


清浄な空気のはずなのに、胸にたまった汚れが取れないような気がした。


私は、自分のことを汚らわしいと思っているのね。


あの噂どおりの醜い女だと、将軍に思われたくない。


ふらつきそうな足で、庭の噴水のそばまで歩き、ようやく足を止めた。


空を見上げる。


夜空には宝石をちりばめたような星が瞬いている。


私には手の届かない世界。


星の光がぼやけ、涙がにじんでいることに気付いた。


ベルは俯き、ふぅっっとため息をついた。


「ベル…殿!どうしたんだ!逃げ出すなんて!」


将軍が駆け寄ってきた。


懐から取り出したのは、身覚えのある手袋と布で包まれた小さな包みだった。


「砦の客室に忘れただろ?

これを渡したかったのに、なぜ逃げたんだ?」


ベルは忘れ物を受け取った。


……よかった。


思わず、張り詰めていた肩から力が抜けた。


将軍の態度は変わらない。


でも、どうして?


陰口を耳にしても、私を軽蔑しないの?


……そうか。


将軍にとって私は赤の他人。


無関係な人間の悪い噂なんて気にならないものね。


ベルは力の入らない声で


「ありがとうございます。

わざわざ届けてくださって。」


こんなのどうでもいいのに……


私の忘れ物を届けるために、わざわざ追いかけてきてくれた。


そのせいで、将軍の評判に傷がつくかもしれないのに……


目の前にいるはずの将軍が遠くに感じた。


空にある星のように、違う世界で輝く人。


何も話すことなんてない。


ベルがうつむいて黙り込んでいると、将軍が


「噂なんか気にするな。

たかが暇人の娯楽だ。

あんなのは嘘だらけだ。」


え?


もしかして……慰めてくれてる?


ベルは少し気分が良くなった。


「俺も昔、ディアナ王女と婚約間近だと噂されたことがある。」


それは、王女がわざと流したのでは?


ベルは内心でツッコむ。


将軍はため息をつき


「あの頃は舞踏会に出るたびにダンスの相手をしてたからな。

仕方ないのかもしれない。」


華やかな社交界にふさわしい、偉大で尊敬を集める大将軍。


そんな人が、私の安っぽい髪留めをわざわざ布に包んで持ってきてくれた。


その優しさに胸がいっぱいになった。


荒っぽい男たちの中で暮らしているのに、細やかな気遣いまでできるなんて、と感動を覚えた。


そんな人と対等に口をきくことなんてできない。


でも、黙ったままではつまらない女だと思われてしまう。


何か話さなきゃ。


手の中の包みをギュッと握りしめた。


「あ、あの…星が、瞬いて宝石みたいに見えますね」


ベルが恐る恐る話しかけると、ベルのほうを見て将軍は眉を上げた。


「ああ。宝石も星も、光が変化するものは美しく見えるな」


考え込んだような声で呟いた。


会話が途切れた。


ベルはふぅっとため息をついた。続きの会話が思いつかない。


途方に暮れて将軍を盗み見ると、彼は星空を食い入るように見つめていた。


ベルは、ふっと緊張が解けるのを感じた。


このままでもいいのかもしれない。


だって、将軍は立ち去ろうとしない。


慰めの言葉を重ねることも、無理に笑わせようとすることもない。


ただ、そこにいてくれる。


隣に立つ将軍の気配が、こんなにも心強い。


ベルは星空を見上げた。


もう少しだけ。


もう少しだけ、このままでいられたらいいのに。



 静寂を壊したのは


「星がきれいですね!

あれ?将軍とベルさんじゃないですか!

こんなところで何してるんですか?」


街角でばったり出会ったかのような気軽さで話しかける青年の声。


ベルが振り向くと上級魔導士ハリー・ハルマンが立っていた。


「ハリー!……さん」


「やぁ!ベルさん。

久しぶりだね。」


ベルは軽く会釈した。


「最近はどう?ディアナ王女にいじめられてない?」


唐突な言葉に驚いた。


え?


そっか、王女に叱られてるのを見られたから。


でもここで言わなくてもいいのに…。


親密な会話に聞こえるのを恐れ、ベルは将軍の様子をうかがう。


将軍は眉をひそめ、ハリーをジッと見つめていた。


ハリーは肩をすくめ


「困ったことがあったらいつでも相談してって言ったのに、まったく音沙汰ないし。」


将軍の眉間のしわがさらに深くなった。


ベルはハリーの親しげな口ぶりに慌てて


「そ、そんな!

お忙しいハリーさんに、相談なんて!」


親しさを打ち消すように両手を前で振る。


ハリーは不満そうに口をとがらせ


「魔術師書庫では助けてあげたのに!」


「そ、それは感謝してます…けど、甘えるわけにはいかないです。」


「いいんだよ!可愛い仔猫に甘えられるのは大歓迎さ!」


将軍がぶっきらぼうに口を挟んだ。


「二人は付き合ってるのか?」


「違います!」「もうすぐね!」


同時に二人が答えた。


「ハリーさん!」


ベルがハリーを睨むと、ハリーは平然と肩をすくめる。


エルンハルトは不機嫌そうな声で


「お邪魔だったようだな。俺は失礼するよ」


言い放つと、ためらいなく背を向けて立ち去った。


ベルは焦った。


どうして?


今の言葉を、本気にしたの?


ベルは慌てて一歩踏み出しかけた。


違う。


ハリーさんとは、そんなんじゃない。


そう伝えたかった。


キッ!とハリーを睨むと、ヘラヘラした笑顔を浮かべてる。


ハリーさんに、どう思われようと構わないのに。


将軍にだけは、誤解されたくない。


彼に軽蔑されたら。


今までのように、気軽に話しかけることさえできなくなったら。


きっと、私は――。


ベルは唇を噛んだ。


どうして、こんなに怖いのだろう。


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