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推しに勝ったご褒美はオフレコで!? ~元FPS日本代表、男なのに女性限定VTuber事務所に採用されました~  作者: ぽんさん
【アーカイブ01】 画面の向こうへもう一度

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7/23

【配信7日目】 あれ、なんか昔の感覚が戻ってきた 【nemui/月乃ほしな/月杜しおり】

 天井の向こうで、靴が床を擦った。


 僕は、銃口を上げなかった。


 上にいる人を、天井越しに探しても仕方がない。


 見ているのは、廊下の奥。


 内階段の下と、その手前の裏口だった。


 右の部屋の、戸口から少し引いた位置。ここなら、壁で身体の半分を隠せる。


 相手が下りてくるなら、途中で姿が見える。


 僕は、そこへ照準を置いていた。


 足音が近くなる。


 階段の上で、何かが動いた。


 銃声。


 戸口の縁が、目の前で欠けた。


 僕は、壁の内側へ引いた。


 追いかけてくる音はない。


 向こうも、下りたところを撃たれるのは嫌らしい。


 撃ち合う気はある。


 ただ、わざわざ僕の待っている場所へ来る気はない。


 その判断は、正しかった。


 僕は一度、入口の方を見た。


 外は明るい。


 開けたままの正面の扉から、さっき通った塀が見える。


 あの向こうに、住宅が二軒。


 そちらまで同時に気にしていたら、手が足りなかった。


 僕は壁に沿って戻り、正面の扉を閉めた。


 戸が収まる音が、廊下に響く。


 これで、誰かが入ってくるなら、もう一度扉を開ける必要がある。


 鍵までかかればよかったけれど、そういう親切な設備はなかった。


 上で、人が動いた。


 僕は右の部屋へ戻る。


 さっきより、半歩だけ奥へ。


 足音が、頭上を通り過ぎた。


 内階段には、まだ誰も見えない。


 扉を開く音がした。


 そのあとに、硬い響きが二つ。


 カン、カン。


 耳が、そちらへ向いた。


 外の鉄階段。


 建物へ入る前に見ていた、二階から下りる道だ。


 家の中の、鈍い足音とは違う。


 昔のゲームでも、金属の上を走る相手は、よく居場所を教えてくれた。


 今も、その音に指が反応する。


 ただし、どこまで下りたかは分からない。


 途中で止まったのか。


 そのまま地面へ下りたのか。


 誰もいなくなったと決めつけて、階段を駆け上がる理由はない。


 正面の扉は閉めてある。


 裏口は、開いている。


 僕は照準を、階段の下から、開いた裏口へ少しずらした。


 どちらへ来ても、まだ壁の陰へ戻れる。


 外を回る足音がした。


 そこで、止まった。


 僕も、動かなかった。


 裏口の向こうに、腕が見えた。


 何かが飛び込んできた。


 床を跳ねる。


 僕は、部屋の奥へ引いた。


 マウスを大きく動かし、壁へ顔を向ける。


 白い光が、画面の端から押し寄せた。


 耳の奥で、細い音が鳴った。


 銃声も、足音も、遠くなる。


 目くらましの弾だった。


 光を直接見なかった分、机の輪郭は残っている。


 僕は、マウスを戻した。


 戸口。


 廊下。


 そこへ、銃を持った人が入ってきた。


 音は、まだよく聞こえなかった。


 けれど、見えた。


 照準を合わせたまま、撃つ。


 相手の銃が、こちらを向く。


 背中側の壁で、破片が散った。


 僕は短く息を止め、跳ねた銃口を戻した。


 二度目の連射で、向こうの身体が崩れた。


 指を離す。


 画面の端に、自分の名前が出た。


 nemui。


 本戦で、二人目。


 僕は、その場で弾を込め直した。


 細い耳鳴りが、少しずつ弱くなっていく。


 頭の中に、今の動きが残っていた。


 何が投げ込まれたのか、見分けてから動いたわけではない。


 飛んできたら、引く。


 次に相手が入ってくる場所へ、銃を戻す。


 昔、何度も練習した。


 うまくできなかった日は、同じ部屋に戻って、またやった。


 考えるより先に、手が覚えていた。


「……できるじゃん」


 小さく言ってから、口を閉じた。


 褒めるなら、あとにしよう。


 耳が戻ったばかりだ。


 僕は内階段を見上げ、二階から誰も下りてこないことを確かめた。


 裏口の外も見る。


 人はいない。


 倒れた相手の荷物から、救急パックを一つと、弾を拾った。


 新しい銃まで選び直すのはやめた。


 裏口へ向かう。


 そのとき、背中側で扉が鳴った。


 僕は、廊下の真ん中から外れた。


 正面の扉が、細く開いている。


 外に、人影。


 僕は相手の姿を最後まで確かめず、裏口を抜けた。


 建物の角へ入る。


 さっきまで僕がいた廊下に、銃声が響いた。


 歩く速さを上げる。


 奥の斜面へ続く、細い道。


 そこを曲がるまで、振り返らなかった。


 閉めておいてよかった。


 今日初めて、扉に仕事をしてもらった気がした。


     *


――大会公式配信。


『nemui選手、建物から出ています。いま入ってきた選手とは、入れ違いになりました』


 しおりの声とともに、画面が切り替わる。


 短いリプレイ。


 白い閃光が走る直前、nemuiの視点は部屋の壁へ向いていた。


 光が薄れると、照準はすでに戸口へ戻っている。


〈ちゃんと避けてる〉


〈反応はや〉


〈今の、投げ物見えてた?〉


『……もう一度、ゆっくり見てみましょうか』


 リプレイが、少し前から流れ直す。


 裏口の向こうに、腕が見えた。


 何かが飛び込み、床で跳ねる。


 それが何なのか分かる前に、nemuiの視点はもう壁へ向いていた。


『投げ込まれたものを、確かめてから動いたわけではないみたいですね』


〈え、見る前に引いてる〉


〈判断はやすぎ〉


〈室内の動き、別ゲーの人っぽい〉


〈ロビーのおじいちゃん何者〉


『それと、途中で正面の扉も閉めていました。後から来た方に気づけたのは、あの扉の音があったからかもしれません』


 しおりはリプレイを見終え、静かに頷いた。


『投げた方も、上手に入ってきていました。怖いお部屋でしたね……』


〈物件の感想w〉

〈住みたくない〉

〈玄関も危ない〉


『ええ。内見は、これくらいにしましょう』


 画面が本戦の映像へ戻った。


 残り三十九人。


 次に映ったnanahoshiは、石垣の端で銃を構えていた。


 右側の道を一度見てから、左の小屋へ向き直る。


 戸口から、人影が出た。


『小屋から一人。nanahoshi選手、気づいています』


『石垣の陰、使えますね』


 ほしなが、短く添えた。


 サブマシンガンが火を噴く。


 一度、石垣の陰へ引く。


 相手の弾が角を叩いた直後、別の高さから銃が出た。


 今度の射撃で、相手が倒れる。


『nanahoshi選手、ここで一人。撃ち返されたところから、少し位置を変えましたね』


『同じところからもう一回出ると、待たれちゃいますからね』


〈つよ〉

〈落ち着いてるなあ〉

〈解説たすかる〉


 nanahoshiは弾を込め直し、小屋の反対側を確かめている。


『ほしなちゃんも、ゲーム中は迷いませんよね』


『ゲーム中は?』


 ほしなが、そこだけ聞き返した。


『この前のレッスンでは、先生に「右手を上げて」って言われて、両手を上げていましたから』


『だって、どっちかは右手じゃないですか!』


〈草〉

〈それはそう〉

〈保険かけるなw〉


 しおりのアバターが、小さく頷く。


『でも、最後はみんなと揃うまで、残って練習していましたよ』


『そこもセットでお願いします!』


『はい。今度のライブも、楽しみにしていてくださいね』


 穏やかな声が、するりと告知につながった。


〈たのしみ〉

〈見に行くよー〉


 画面の中では、nanahoshiが石垣を離れ、次の区域へ走り始めていた。


     *


 細い道は、丘の裏へ続いていた。


 僕は木の根元でしゃがみ、地図を開いた。


 事務所は、もう区域の端に近い。


 あの部屋に居続ける必要はなかった。


 今度の行き先は、丘の下。


 畑を挟んだ先に、古い設備の集まった区画がある。


 地図には、小さな建物と、水路が描かれていた。


 その手前まで行けば、次の区域にも近い。


 僕は立ち上がり、斜面を下りた。


 走れるところでは走る。


 先が見えなくなる場所では、止まる。


 何でもゆっくりやれば安全、というわけではない。


 さっきの建物でも、扉の音を聞いたあと、迷っていたら間に合わなかった。


 木立を抜け、畑の縁をたどる。


 途中の小屋には入らなかった。


 弾も、回復もある。


 足りないのは、もっと奥へ進む時間だった。


 安全区域が一度狭まり、地図に次の円が出る。


 残り二十六人。


 そこから数分の間に、銃声はずいぶん近くなった。


 遠くの町で鳴っていた音が、今は隣の林や、丘の向こうから聞こえてくる。


 人が少なくなったのに、近くにいる人は増えている。


 僕は、崩れかけたコンクリートの壁へ身を寄せた。


 しゃがめば頭まで隠れるけれど、立てば上から銃を出せる高さだった。


 壁は畑の端に沿って延び、その先で途切れている。


 切れ目から、設備のある区画へ渡れそうだった。


 先へ目を向ける。


 短い道路。


 向こう側には、丸いタンクと、低い建物。


 その手前の、大きな石。


 石の脇から、銃が出た。


 僕は伏せた。


 壁の上を、弾が通る。


 間に合わなかった一発が、防具を叩いた。


 体力が減る。


 相手は、道路の手前を見ていた。


 僕が壁の切れ目から出れば、もう一度撃てる。


 地図を短く開く。


 次の円は、道路の向こう。


 ここで待ち続ければ、いずれ出なければいけなくなる。


 相手の石も、次の円から少しだけ外れていた。


 先に動くか。


 先に倒すか。


 僕は地図を閉じ、ライフルを構えた。


 壁の切れ目へは行かない。


 身体を起こし、さっきより手前の位置から、石の脇へ撃った。


 相手が引く。


 その間に、僕は数歩、壁に沿って移った。


 向こうも、同じ場所からは顔を出さなかった。


 石の反対側で、銃口が光る。


 僕は壁へ戻る。


 頭の上で、コンクリートが欠けた。


 そう簡単には、譲ってくれない。


 僕は、一度だけ口元を緩めた。


 嫌な相手だった。


 さっき、自分も同じことをしたばかりだけれど。


 画面に、区域が狭まる案内が出た。


 残り十八人。


 石の向こうから、道路へ出る道がある。


 その先には、タンクの土台。


 相手が先に渡ってそこへ入れば、僕はもっと出にくくなる。


 照準を、石そのものから外した。


 石とタンクの、間。


 僕はそこへ、銃を向けて待った。


 相手が身を出す。


 こちらへ撃ってから、走った。


 壁の上で弾が跳ねる。


 僕は頭を引き、銃声が途切れたところで立った。


 走る姿が見えた。


 撃つ。


 最初の弾が、背中側の地面へ抜けた。


 遅い。


 マウスを動かす。


 行き過ぎない。


 相手の肩へ、照準が重なった。


 命中。


 向こうが、走るのをやめた。


 振り返りながら、銃を上げる。


 僕も、撃ち続けた。


 肩を叩かれたように、画面が揺れる。


 それでも、今度は照準が外れなかった。


 タンクの土台へ届く前に、相手が倒れた。


 僕は壁の陰へしゃがんだ。


 残り十七人。


 撃ち返してくる音は、止まっていた。


 自分の呼吸が聞こえる。


 追いついた。


 二次予選の最後には、追いつかなかった照準が。


 指先に、少しだけ力を入れる。


 嬉しかった。


 でも、今度はそこで止まらなかった。


 弾を込め直す。


 左の林から、別の銃声。


 こちらを狙っているかどうかは、まだ分からない。


 僕は手持ちの煙幕を一つ、壁の切れ目と道路の間へ投げた。


 白い煙が広がる。


 その手前で、もう一度だけ進む先を見た。


 タンクの土台。


 身体を隠せる、コンクリートの角。


 煙が道路を覆ってから、走った。


 倒れた人の荷物のそばを、そのまま通り過ぎる。


 今は、いらない。


 土台の陰へ入った。


 背中をコンクリートにつけ、事務所で拾った救急パックを使う。


 残っている煙幕は、一つ。


 回復が終わるまで、僕は角の向こうを見ていた。


     *


 タンクの並ぶ場所を抜けたとき、生存者は十一人になっていた。


 前方には、低い壁に囲まれた区画がある。


 小さなポンプ小屋。


 その横を通る、細い排水路。


 水路の縁は低く、一部は身を屈めれば壁の向こうへ抜けられそうだった。


 僕は出口を一つ見てから、小屋の側へ目を戻した。


 まだ、誰かがいるかもしれない。


 斜め向こうで、銃声がした。


 倒した側の名前に、nanahoshiと出る。


 残り十人。


 聞いたことのない名前だった。


 けれど、ここまで残っている人だ。


 強いに決まっている。


 僕は壁の手前で止まり、足音を聞いた。


 遠くで、誰かが走っている。


 近くではない。


 壁の反対側を、少しずつ確かめる。


 自分の指は、もう次の操作を探していなかった。


 行きたい場所を見て、手が動く。


 昔は、当たり前だったこと。


 その当たり前が、今日はやけに嬉しかった。


 残り十人。


 五位では、足りない。


 僕は音を立てない速さで、壁の角へ進んだ。


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