↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しに勝ったご褒美はオフレコで!? ~元FPS日本代表、男なのに女性限定VTuber事務所に採用されました~  作者: ぽんさん
【アーカイブ01】 画面の向こうへもう一度

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/23

【配信4日目】 二次予選! 挨拶の準備だけはできています 【nemui/月乃ほしな/月杜しおり】

「いつも、お世話になっております」


 違う。


 日曜日の朝、僕は録音を止めた。


 ほしなと話すとしたら、最初になんと言えばいいのか。


 試しに声へ出したら、仕事が始まった。


 もう一度、録音のボタンを押す。


「はじめまして。いつも配信を拝見しており――」


 止めた。


 少しだけ休日になったけれど、まだ取引先だった。


 もっと普通でいい。


 いつも見てます。応援してます。昨日のトロフィーも保存しました。


 そのくらいなら言えるだろう。


「いつも見てます。あの、歯も……」


 止めた。


「トロフィーだろ」


 本人が訂正したことを、初対面の一言で蒸し返そうとしている。


 僕は録音ファイルを消した。


 一つ目も、二つ目も消す。


 録音を始める前の状態に戻るまで、十五分かかった。


 まだ、二次予選も終わっていない。


 優勝してから困ればいいことに、ずいぶん先回りしていた。


 昨日の試合でも、それくらい先を考えればよかった。


 ゲームを起動し、手をマウスへ移す。


 声を出さなくていいことに、少し安心した。


     *


 十四時。


 二次予選は、八十人で始まった。


 今日は、どこへ降りるかだけでは決めなかった。


 降りたあと、どこへ行くか。


 道路までどれくらいあるか。車がなければ、歩いてどちらへ抜けるか。


 地図の端に近い、小さな家並みを選ぶ。


 遠くに大きな町があるけれど、そちらへは行かない。途中の農道から、川を渡れる。


 下りながら、周りを見た。


 近くのパラシュートは一つ。


 向こうは二階建てへ。僕は、少し離れた平屋へ入った。


 ライフル。弾。防具。


 回復と、投げ物。


 隣の家へ行けば、もっといいものがあるかもしれない。


 思ったところで、地図を開いた。


 今の装備でも、戦える。


 僕は裏から外へ出た。


 二階の窓が開く音がしたけれど、見に戻らなかった。


 道路脇に、車があった。


 運転席側へ回る。


 乗る。


 目の前にハンドル。


「よし」


 今日、最初の成功だった。


 大会の記録には残らない種類の成功だけれど。


 車を出すと、後ろで何発か銃声がした。


 窓を割られる前に家の陰へ回り、そのまま農道へ抜けた。


 最初の安全区域の、中へ。


 橋を渡りきったところで、車を止めた。


 川が、道路の下を流れている。


 よく見てから、地図にも目を落とした。


 橋のすぐ脇に、河原から上がる階段がある。


 もう少し先には、緩い坂。


 ここなら、川沿いへ下りても戻れる。


 そこまで確かめて、車から降りた。


 昨日より早く着いた。それだけで、見ておけるものが増えていた。


 橋を一台、別の車が走ってくる。


 窓越しに人が見えた。


 撃てる。


 でも、撃ったあとに隠れるのは、さっき止めた自分の車くらいだ。


 外したら、相手がどこから撃ち返してくるか分からない。


 見送った。


 車は僕のいる方へ曲がらず、そのまま道の先へ走っていった。


 銃を下げて、土手へ移る。


 見つけた人を全員止めていたら、検問所になってしまう。


 僕は五人の中に残りたいのであって、交通量を調べに来たわけではなかった。


     *


 土手の階段を上がりきった左に、崩れかけた低い石塀があった。


 その奥には、小さな物置。


 僕は石塀へ寄る前に、物置の裏まで回ってみた。


 向こう側からは、階段の上がり口が見える。


 さらに先へ抜ければ、次の丘へ移れる。


 撃たれたら、ここへ。


 確かめてから、石塀のところへ戻った。


 川沿いに、人がいた。


 橋の下を通り、こちらへ走ってくる。


 橋の上を渡るより、見つかりにくい道だ。僕も地図だけ見ていたら、そちらを選んだかもしれない。


 足元で、水が跳ねる。


 次に、乾いた砂利の音。


 階段へ来る。


 僕は腰を落とし、上がり口へ銃を向けた。


 頭の出る高さ。


 少し、下げる。


 ここから撃つなら、的を追いかける必要はない。


 相手のヘルメットが見えた。


 撃った。


 一発、当たる。


 相手はすぐに戻った。


 階段を数段下りる音。そのあと、静かになった。


 もう一度出てくるまで、ここで待てばいい。


 そう考えて、やめた。


 こっちがどこにいるか、もう知られている。


 階段の下で、小さな金属音がした。


 空へ、黒いものが上がった。


 僕は石塀を離れた。


 物置の裏へ。


 地面で何かが跳ね、背中側で爆発した。


 画面の端に、土煙。


 体力は減っていなかった。


 石塀へ戻ろうとした左手を、止める。


 元の場所へ顔を出したら、向こうはそこを見ている。


 物置の、反対側へ回った。


 階段を駆け上がる足音がする。


 相手が出てきた。


 銃は、さっき僕がいた石塀へ向いている。


 横から、肩が見えた。


 狙った場所へ、短く撃つ。


 相手がこちらを向いた。


 速い。


 今度は、僕の肩も揺れた。


 赤くなった画面の奥で、照準が少し上へずれる。


 戻す。


 次の数発が当たり、相手が倒れた。


 指を離す。


 周囲を見る。


 道路の向こうに、車の音がした。


 荷物を取りに行くのは、やめた。


 まだ弾はある。回復も残っている。


 僕は物置を回り、その先の丘へ下がった。


 そこでようやく、息を吐く。


 回復薬を使いながら、さっきいた場所を見た。


 上がり口。石塀。物置。


 敵が来てから探していたら、どこへ逃げるか決める前に、爆発していたかもしれない。


 早く着いた分だけ、先に考えられた。


 それが、撃つときの余裕になった。


 遠くから、さっきの物置へ弾が打ち込まれた。


 僕はその音を聞きながら、次の丘へ移った。


     *


 残り十人。


 次の円が出たとき、僕はもう、その内側にいた。


 低い丘の斜面に、大きな岩が一つ。岩の向こうへ下がれば、反対側の畑まで身を隠して移れる。


 昨日、あの黒いヘルメットの人が使っていた場所に、少し似ていた。


 岩へ身を寄せて、谷の方を見る。


 一人が走ってきた。


 向こうはまだ、僕を見つけていない。


 銃を向ける。


 遠い。


 今撃ったら、追いかける照準が遅れるかもしれない。


 僕は引き金に触れたまま、待った。


 相手は木の陰へ入り、少しして出てきた。


 次に隠れられる場所は、こちら側の細い窪みだ。


 そこへ下りる直前、斜面の上に身体が出る。


 動く相手を追わず、その場所へ先に照準を置いた。


 まだ。


 もう少し。


 人影が、狙っていた場所へ重なった。


 撃つ。


 何発かが当たり、相手が向きを変える。


 僕の方を見た。


 その間に、もう一度撃った。


 倒れた。


 九人。


 当たった場所から視線を外し、岩の反対へ回る。


 遅れて、下の畑から弾が飛んできた。


 さっきまで僕がいた場所を、弾が通り過ぎる。


 間に合った。


 それが、倒したことと同じくらいうれしかった。


 次の縮小が始まった。


 畑の人が動く。別の場所から、そこへ銃声が飛ぶ。


 僕は二人の撃ち合いへ入らず、岩の裏から、見ておいた窪みへ下りた。


 八人。


 七人。


 次に顔を出したときには、撃ち合っていた片方の姿しか見えなかった。


 追いかけない。


 先に、円へ入る。


 六人になったのは、木の陰へ着いてからだった。


 昨日と同じ数字。


 でも、今日は、目の前に出口を塞ぐ人がいない。


 待っている間も、次に走る場所が分かる。


 少し遠くで、銃声がした。


 五人。


 僕は数字を見て、息を一つ吐いた。


 通過した。


 まだ、生きている。


 それなら、もう少し先まで。


 木の向こうを、一人が走った。


 こちらへ来る。


 僕は銃を構え直した。


     *


 三位。


 最後は、撃ち合いで負けた。


 四人になってから別の二人が争い、撃ち勝った方と向き合った。こっちが先に見つけたのに、狙いを戻す間に相手の弾が届いていた。


 動く人を、遠くから正確に撃つ。


 それは、まだうまくできなかった。


 今日倒したのは、三人。


 階段を上がってきた人。谷を渡ってきた人。最後に、木へ向かってきた人。


 どのときも、相手が出てくる場所を、先に見ていた。


 全部戻ったわけではない。


 それでも、今の手でできることがあった。


 僕は、マウスから右手を離した。


 昨日より、力が入っていなかった。


 水を飲む。


 そのまま、もう一口。


「……本戦だ」


 口に出してみると、急に落ち着かなくなった。


 ほしなが実況する大会。


 その画面に、今度は僕もいる。


 昔の名前は使っていない。声も出していない。画面に映るのは、困った眉の大男だけだ。


 それでも、ただ見るだけだった場所へ、自分の名前が一つ増える。


 僕は机の上を見た。


 車は運転席から。


 昨日、四角で囲った文字。


 その横へ、小さく丸をつけた。


 今日、ちゃんとできたことを、一つ。


     *


「で、大会どうだった?」


 月曜日の昼、朝倉先輩に聞かれた。


 僕は弁当の蓋を開ける手を止めた。


「通りました。次、本戦です」


「おお。おめでとう。何位だったの?」


「土曜が五位で、日曜は三位でした」


「じゃあ、次は一位だ」


 弁当の卵焼きを取るのと、同じくらい気軽に言われた。


「二つずつ上がる仕組みではないので」


「でも、上がったんでしょ?」


「上がりましたけど」


「なら、楽しみじゃん」


 そう言われてしまうと、否定する理由はなかった。


 僕は弁当を開けた。


 先輩が、持ってきた小さな菓子袋を机に置く。


「お祝い。一個取っていいよ」


「ありがとうございます」


「昨日、買いすぎた」


「……ありがとうございます」


 二度目は、少しだけ感謝の種類が変わった。


 小さなチョコレートを一つもらう。


「そういえば、優勝すると何かもらえるの?」


 包装を開けかけた指が、止まった。


「その、主催してる配信者と、一対一で遊べるそうで」


「え、その人、好きな人?」


「好きな配信者です」


「うん。それ」


 間違ってはいなかったので、訂正の続きができなかった。


「喋れるの?」


「声は、つなぐみたいです」


「いいじゃん。何話すか考えた?」


 今度は、包装の端がうまく切れなかった。


「……少し」


「まだ優勝してないのに?」


「今、聞かれたので」


 先輩は楽しそうに笑った。


 僕は、もう片方の端からチョコレートを開けた。


「そんなに構えなくても。いつも見てます、今日はよろしくお願いします、ぐらいでいいんじゃない?」


「それは、分かってるんです」


「じゃあ、一回言ってみて」


 弁当を前にしてやることだろうか。


 先輩は、こちらを見ている。


 僕は少しだけ声を落とした。


「いつも、見てます」


「知ってる。席、隣だもん」


「練習させる気あります?」


 先輩が口元を押さえた。


 そのまま、しばらく返事がなかった。


 僕はチョコレートを食べた。


 おいしかったので、今日のところは許そうと思った。


 午後の電話では、いつもの挨拶が、一度も詰まらずに出てきた。


 相手の用件を聞き、手元の資料を確かめ、返事をする。


 話す順番も、言うことも、分かっている。


 電話を置くと、先輩と目が合った。


「それでいいじゃん」


「取引先じゃないんです」


 僕は小声で答えた。


 仕事の電話なら、好きです、と言わずに済む。


 そこが、ずいぶん違っていた。


     *


 その夜の配信は、レッスン帰りの雑談だった。


 画面に、二人の立ち絵が並んでいる。


 いつものほしなと、長い髪を肩へ流した先輩。


 月杜しおり。


 同じリプラインの所属で、落ち着いた歌声と、話し方が好きな人だった。ほしなと一緒に歌う配信も、何度か見ている。


『今日は二人とも、よくがんばりました』


 しおりが言うと、ほしなが大きく頷いた。


『がんばりました! 今日は足も間違えてない』


〈おつかれさま〉

〈えらい〉

〈今日は〉


『今日はってとこ、拾わなくていいんだって』


 画面の中で、ほしなの顔がコメントへ向いた。


 しおりは少し笑ってから、続けた。


『でも、最後の練習はおもしろかったわね』


『……それ、言う?』


 急に声が小さくなった。


〈何したの〉

〈聞きたい〉


『ライブの、曲の間の呼びかけを合わせていたんだけど』


 しおりの声が、少しだけ明るく張った。


『みなさん、次の曲も盛り上がっていけますかー! って、私が言ったらね』


『行けます! って言いました』


 ほしなが、自分から答えた。


『すごく元気な返事だったわ』


 僕は笑った。


〈客席にいるw〉

〈元気でよろしい〉

〈草〉


『だって、行けるから! しおり先輩の次の曲、めっちゃ好きだし!』


『ありがとう。でも、あなたは私の隣で歌う人なの』


『そうなんだよねえ……』


 本人も笑い始めて、言い訳の続きが出てこなくなった。


 少しして、ほしなが咳払いをした。


『じゃあ今やる。ほしなが呼びかける方ね』


『ええ。どうぞ』


『みんな、今週の本戦、準備いいですかー!』


〈はーい!〉

〈見るぞー〉

〈出ます!〉


『行けます!』


 しおりが、さっきのほしなと同じくらい元気に答えた。


『ほら! 先輩も言ってるじゃん!』


『私は今回は、応援する人だもの』


『ずるい! それ、立場がずるい!』


 コメントが、一気に流れた。


 僕も笑いながら、コップを置いた。


 机の端には、昨日の通過通知を開いたままのスマートフォンがある。


 あの「出ます」の中に、自分も入っている。


 まだ、少し変な感じがした。


『でも、呼びかけはよかったわよ。画面の前の人まで、元気になるでしょう』


『ほんと?』


『今のコメント、見てごらんなさい』


 ほしなが画面の外へ目を動かす。


 まだ、準備できてる、楽しみ、という言葉が流れていた。


『……へへ。よかった』


 照れたように笑ったあと、すぐに話し始める。


『じゃあ、本番もこの感じでいく。次は返事しない』


『返事はしてちょうだい。出番の合図とか』


『あ、そっか』


 僕はまた笑った。


 ゲームをしていないときのこの人は、どうしてこんなに忙しいんだろう。


 それでも、こうして声を聞いていると、明日も帰ってこようと思える。


 今日は配信を見終わってから、短く練習をした。


 動く的へ、少し先回りして照準を置く。


 外れたら、どちらへ外れたかを確かめる。


 タイマーが鳴ったところで、終わりにした。


     *


 本戦までの平日は、いつもより早く過ぎた。


 朝、会社へ行く。


 帰って、ご飯を食べて、配信を見る。


 練習できる日は、短くゲームをする。


 できない日は、昨日の映像を一つだけ見直す。


 昔のように、夜中まで何試合も回すことはできなかった。


 それでも、明日確かめたいことがあると、仕事が終わってからの時間に、ちゃんと続きがあった。


 金曜日、本戦の参加案内が届いた。


 出場者は、九十六人。


 一般参加九十五人と、シークレットゲスト一人。


 一覧の中から、自分の名前を探した。


 nemui。


 その少し上に、HATCHの文字があった。


 思わず、マウスを止める。


 黒いヘルメットに、赤い線。


 あの二発。


 また会うことになった。


 今度は、木の下で見物料を払うだけでは終わりたくない。


 自分の名前へ戻って、参加確認を済ませた。


 続けて、当日の注意事項を読む。


 試合中は、公式配信や、ほかの参加者の配信を見ないこと。


 ほしなの実況も、聞けない。


 当たり前なのだけれど、そのことに、少しだけ残念な気持ちになった。


 自分が戦っているとき、彼女が何を言うのか。


 それは、あとで見る楽しみにしておこう。


 画面の端に、リプラインの新人募集の広告が出ていた。


 女性タレントオーディション。


 僕はその横の、大会日程を開いた。


 用事があるのは、こちらだった。


 明日、土曜日。


 ここまで来たら、もう上位五人では足りない。


 勝たなければ、話せない。


 ページの上へ戻る。


 主催、月乃ほしな。


 出場者、nemui。


 同じページに並んだ二つの名前を、少しのあいだ見ていた。


 僕はヘッドホンのマイクを、口元へ下ろした。


「いつも、配信を見てます」


 今度は、仕事にならなかった。


「明日は、よろしくお願いします」


 言えた。


 誰にもつながっていないマイクを、また上げる。


 少し、笑ってしまった。


 この続きまで言えるかどうかは、明日の自分次第だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。