↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しに勝ったご褒美はオフレコで!? ~元FPS日本代表、男なのに女性限定VTuber事務所に採用されました~  作者: ぽんさん
【アーカイブ01】 画面の向こうへもう一度

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/26

【配信2日目】 久しぶりのFPS! 設定だけ見たら寝ます 【白瀬直人/月乃ほしな】

 十分で終わる予定だった。


 その十分を、僕はキャラクターの眉毛に使った。


「……どれでもいいんだけどな」


 言いながら、三番と四番を往復する。


 大会は一人称視点だ。自分の顔を見る機会はほとんどない。ヘルメットを拾えば髪型も隠れる。分かっているのに、最初に選んだ顔がずっと不機嫌そうなので、少しだけ直したかった。


 眉を下げると、困っている人になった。


 今の僕と同じだった。


 諦めて決定を押す。


 ようやく入った訓練場には、銃が並んでいた。


 配信で見慣れたものもある。ほしながよく拾う、長い銃身のライフル。建物の中で持ち替える短い銃。自分ならどれを使うかなんて、昨日までは考えもしなかった。


 手近な一丁を拾い、正面の的へ向ける。


 右へ動かしたマウスを、左へ少し戻す。


 照準が通り過ぎた。


「速い」


 設定を開く。銃を構えたときの感度を下げ、的へ戻る。さっきよりは近い。今度はほんの少し届かない。


 また設定を開く。


 懐かしい作業だった。


 数字が正しいかどうかは、撃ってみないと分からない。机の上で手を動かした距離と、画面の中で向きを変えた角度が、ようやく同じものになるところを探す。


 十分後、止まっている的なら、狙った場所へ当たるようになった。


 移動する的に切り替えたら、当たらなくなった。


 左から右へ走る人型を追う。照準を乗せた瞬間に撃ったつもりが、弾は後ろへ抜けていた。


 次は早く撃ちすぎる。


 三度目で胴体に当たって、思わずもう一度試す。


 四度目は外れた。


「今のは当てたいな……」


 椅子を少し引いた。肘の位置を変える。机にあった冷めたお茶を、倒さないところへ移す。


 時計を確かめるために出したスマートフォンは、画面をつけずに伏せた。


     *


 設定が終わっただけでは、実際の試合で困るかもしれない。


 そう考えた時点で、もう寝る気はなかったのだと思う。


 最初の練習戦は、町から少し離れた農場へ降りた。


 近くに開いたパラシュートは二つ。一つは道路の向こうへ、もう一つは南側の大きな納屋へ下りていく。


 僕は一階建ての家に入り、床から銃を拾った。


 弾を込める。


 途中で別の部屋に防具が見えて、拾おうとした指を戻した。まずは撃てるようにする。昔は迷わなかった順番を、いちいち考えないと動けない。


 装填が終わる。


 玄関の外で、砂利を踏む音がした。


 早い。


 納屋へ下りた方だろうか。確かめるために窓へ寄りかけて、やめる。ここから覗けば、向こうからも見える。


 台所へ下がった。


 玄関が開く。廊下を進む足音。


 僕は台所の入り口へ照準を置いた。


 胸の高さ。


 違う。昔のゲームで、廊下の先に立っている相手を待つときの高さだ。この距離なら、もう少し上。


 直すより先に、人影が出た。


 撃った。


 最初の二発が肩へ当たる。銃口が思ったより高く跳ねた。引き下げすぎて、次の弾が床を削る。


 相手も撃ち返してきた。


 画面の縁が赤くなる。


 僕は壁へ隠れた。あと少し当たれば、倒れていた。


「……うわ」


 心臓が速い。


 分かっていた。入ってくる場所も、タイミングも。


 それでも倒せなかった。


 向こうが廊下を走る。距離が詰まる前に、僕は奥の勝手口から外へ出た。


 家の裏を曲がる。


 そのまま逃げようとして、足を止めた。


 追ってくる足音が、まだ屋内にある。


 外壁に沿って、さっきより少し離れた。勝手口からまっすぐ走り出す人が、僕を探して右を向く、その横を取れる場所。


 照準を合わせる。


 今度は、動かさない。


 相手が出た。


 予想より手前で一度止まった。でも、銃口はまだこっちを向いていない。


 短く撃つ。


 数発で指を離し、上がった照準を戻して、もう一度。


 相手が倒れた。


 画面の端に、小さく名前が出る。


 nemui。


 その横に、一人倒したことを示す数字。


「……よし」


 口にしてから、周囲を見た。


 もう一人、近くへ下りていた。


 道路の向こうの家は静かだった。窓にも人影はない。だからいない、と決めつけるのは、昔の僕でもしなかったはずだ。


 倒した相手の持ち物は後回しにして、家の中へ戻る。


 拾ってあった包帯を使った。


 動かせる左手を、膝に一度押し当てる。


 少し汗をかいていた。


 たった一人、倒しただけだった。


 それなのに、次の足音を聞きたくて、音量を一つ上げてしまった。


 その試合は、二十八位で終わった。


 死因は、安全区域の外に居続けたこと。


 遠くに見つけた相手を追いかけ、撃ち合いを切り上げたときには、地図の円がずいぶん小さくなっていた。近道のつもりで選んだ川岸には、上れる場所がなかった。


 橋まで引き返す途中で、体力が尽きた。


 最後まで、銃は撃たれなかった。


 観戦へ切り替わった画面で、残った人たちが車を降りている。


「車か……」


 ほしなは毎回、探していた。


 盗まれたときのことばかり、覚えていた。


 時計は、午前二時十七分だった。


     *


「体調、悪い?」


 翌朝、隣の席の朝倉先輩に聞かれた。


 入社してから、仕事のほとんどはこの人から教わっている。


 僕は開きかけた口を閉じた。あくびの途中だった。


「いえ。ちょっと寝不足で」


「忙しかった?」


「ゲームをしてました」


 言ってから、正直すぎたと思った。


 先輩は少し驚いた顔をして、それから笑った。


「そういうので夜更かしするんだ」


「久しぶりにやったら、つい」


「分かるけど、ほどほどにね。私も昨日、ドラマが終わんなくて」


 ほら、と目元を指すので、僕は曖昧に笑った。そこまでまじまじ見るのも失礼な気がした。


「午前の確認用、できてる?」


「共有フォルダの、本日確認用に入れてあります。変更箇所は色をつけました」


「助かる。じゃあ、コーヒー飲んでおいで」


 僕は礼を言って、席を立った。


 給湯室で、お湯が落ちるのを待つ。


 瞼は重い。それでも、目を閉じると勝手口が見えた。


 最初に照準を上げすぎなければ、家の中で終わっていた。外で待った場所も、あと一歩だけ離れておけば、もっと余裕があった。


 そして、あの川には近づかない。


 コーヒーを受け取って、スマートフォンのメモに三行だけ打った。


 最後に、もう一行足した。


 平日は零時まで。


 いちばん守れるか怪しい約束だった。


     *


 夜、パソコンの前に座ると、やることが多かった。


 武器の撃ち方。回復にかかる時間。地図の読み方。拾った荷物がいっぱいになったとき、何を捨てるか。


 昨日は包帯を拾おうとして、同じ種類の照準器を四つ持っていることに気づいた。


 店でも開くつもりだったのだろうか。


 全部を今週中に覚えるのは無理だ。使う銃を二種類に絞って、まずはそれで撃てるようにする。


 そう決めても、訓練場に入ると気になることが増えた。


 遠い的には弾が落ちる。走る相手は少し先を狙う。同じように見える二丁でも、続けて撃ったときの揺れ方が違う。


 昔は、どうやって練習を切り上げていたっけ。


 ゲームをいったん閉じ、古いフォルダを開いた。


 消してはいなかった。


 何年も前の日付が並ぶ。大会の映像。練習用の地図。誰かが作った、ふざけた名前の音声ファイル。


 カーソルが、その上で止まった。


 開かずに、下へ送る。


 探していたのは、研究会で使っていた練習記録の控えだった。


 日付ごとに、試したことと、その結果が書いてある。


 勝敗より先に、何を確かめたかったのか。


 できたら次へ。できなかったら、明日も同じものを。


 昔の僕は、思ったよりまめだった。


 何ページか進めたところで、画面の端に名前が見えた。


 左階段――星野夏希。


 右廊下――NIL。


 矢印を何本も引いた見取り図だった。五人全員の入る場所が決まっていて、僕のところだけ、途中で矢印が折り返している。


 この練習は覚えている。


 右から攻めるふりをして、一度戻る。相手の注意が右へ寄ったところで、左階段から中へ入ってもらう。


 打ち合わせの途中、隣の椅子が寄ってきた。


『ここ、私一人?』


『最初の一人はこっちを見るはずだから。奥だけお願い』


『分かった。じゃあ、そっち外さないでね』


 頼んだ方へ、そのまま行ってくれた。


 一回目は、僕が先に倒された。


 申し訳なくて隣を見たら、彼女はすでに自分の映像を戻していた。


『もう一回やろ。今ので、奥の人が出てくるとこ分かった』


 小さな机に、二台のモニターを並べていた。彼女が画面を指すたび、袖が僕の肘に触れた。


 その距離が気になって、説明を一度聞き逃した。


 記録の最後には、成功した、とだけある。


 何度目だったかは、書いていなかった。


 僕は次のページへ進まず、ファイルを閉じた。


 画面の下に、昔使っていた連絡アプリのアイコンがあった。


 カーソルを近づけると、名前が出る。


 まだ入っていたのか、と思った。


 消していないのだから、当たり前だった。


 アイコンの隅に、小さな赤い数字がついていた。


 開いていない連絡の数だった。


 最後の一件が誰からなのかは、たぶん、知っている。


 少しだけ、手を止める。


 開かないまま、新しいメモを開いた。


 少しだけ、手を止める。


 それから、新しいメモを開いた。


 訓練場、十五分。


 今日は近い相手に、短く区切って撃つ。


 書いたあとで、スマートフォンのタイマーをセットした。


     *


 翌日の練習戦では、先に敵を見つけて、先に撃った。


 負けた。


 土手の上を走る相手の、頭ひとつ後ろを撃っていた。配信ではもっと簡単そうに見えていたのに、自分でやると、遠い人間はずいぶん小さい。


 遮蔽物へ戻るのも遅れた。


 近距離の練習は、試す前に終わった。


 その次は、ちゃんと近くで戦えた。


 一人を倒したあと、手近な塀に隠れて回復した。完了までの残り時間を見ながら、向こう側の足音を聞いていた。


 四秒。


 近い。


 三秒。


 塀を回ってくるまでに、間に合うか。


 二秒。


 やめるべきだ。


 そう思った指が、一秒ぶん遅かった。


 回復を中断して銃を構える前に、相手が角から出てきた。


「……欲張った」


 ヘッドホンを外して、背もたれへ身体を預けた。


 昔なら、という言葉が浮かんだ。


 口には出さなかった。


 昔のゲームでは、この回復アイテムを使ったことがない。塀の向こうから走ってくる時間も、このマップでは初めて測った。


 知らないことは、知らない。


 そこまで昔の自分に押しつけても、困るだろう。


 メモに、回復を始める前に次の逃げ道、と書いた。


 スマートフォンが鳴った。


 試合を始める前に決めておいた、今日の終了時刻だった。


 ゲームを閉じると、配信の通知が残っていた。


 ほしなは、もう一時間以上前から話している。


 急いで開く。


『――だから、アーカイブでも全然いいんだって。ほしなも自分の配信、あとで見ることあるし』


 コメントに、今来た、仕事終わった、が続いた。


『お仕事おつかれさま。今ね、なんでこんな時間になっちゃったんだろうって話してた』


〈おつかれー〉

〈歌は?〉

〈ずっと雑談してる〉


『歌うよ! 歌うって言ってから、三十分くらい経った?』


〈一時間〉

〈もう一時間たつ〉


 ほしなが画面の外へ目を向ける。


『……ほんとだ。ごめん、曲出すね』


 少し声が遠くなって、キーボードの音がした。


 僕は飲み物を取りに立った。


 戻ると、まだ伴奏は始まっていなかった。


『「予選の練習してた」。お、やってる? どう?』


〈むずい〉

〈初めて一人倒せた〉

〈ずっと負けてる〉


『初めて倒せたの? ナイスー。……そう、むずいよね。配信見てるといけそうな気がするんだけど、自分でやるとさ』


 僕はコップを置いた。


『ほしなも別のゲームやると、あれ、これなんで動かないのってなる。普段どんだけ身体で覚えてるか分かるよね』


〈わかる〉

〈キー違うだけで無理〉

〈扉閉めようとして武器捨てた〉


 彼女が吹き出した。


『武器捨てたの? それは……ふふ。相手もびっくりするよ』


 笑いが落ち着くまで、少し待っていた。


『練習してくれるの嬉しいけど、寝るんだよ。大会の日に眠かったら、もったいないからね。……あっ、そうだ。寝る前に一曲だけでも歌わせて』


〈待ってた〉

〈たのしみ〉

〈寝る前の一曲だったのか〉


『違う、もっと歌う! これはほしなが喋りすぎたのが悪いです。はい、歌います』


 ようやく伴奏が流れた。


 さっきまで笑っていた声が、息を吸うところで静かになる。


 歌い出しを、僕は椅子に座り直して聞いた。


 ゲームのメモは、もう閉じてある。


 少し高いところで、彼女の声が揺れた。けれど止まらず、次の言葉へつないでいく。


 曲が終わってから、難しいねえ、と笑った。


 僕は拍手の絵文字を一つ送った。


 たくさんの拍手に混ざって、すぐ見えなくなった。


 その晩は、零時になる前にパソコンを落とした。


     *


 予選までのあいだに、少しずつ分かることが増えた。


 建物から出る前に、次の行き先を決めること。


 持てるからといって、弾を全部拾わないこと。


 白い円の中に入っていても、その端で安心していると、次の移動がつらくなること。


 分かったことと、できるようになったことは、まだ同じ数ではなかった。


 頭では先へ行こうと思っているのに、銃声が近づくと足が止まる。敵を見つければ、倒せるかどうかを先に考えてしまう。


 撃てば、こっちの居場所も知られる。


 当たり前のことを、誰もいない背中から教わる日もあった。


 少しうまく逃げられた日もあった。


 丘の上にいる相手から撃たれ、僕は道沿いの低い石垣へ隠れた。向こうがこちらを見ているのは分かる。石垣の端から出ようとすると、その手前へ弾が飛んできた。


 すぐ脇に、細い水路があった。


 身を低くすれば、石垣の下に続いている。


 僕は手持ちの煙幕を、石垣の端へ投げた。


 煙が広がる。


 そこを走って抜けるつもりで用意したのに、白くなった向こう側から、また銃声が聞こえた。


 やめた。


 煙へは入らず、水路に下りる。石垣に沿って、反対へ動いた。


 曲がり角まで進んでから振り返っても、銃弾はまだ煙の中へ飛んでいた。


 僕はそのまま離れた。


 何も倒していない。弾も当てていない。


 それでも、ロビーへ戻ってから、煙の置き方をメモに足した。


 訓練場では、動く的に続けて当たることが増えた。


 実戦では、そうでもなかった。


 そのまま、予選の週になった。


     *


 木曜日、運営から参加案内が届いた。


 一次予選、第一八七組。


 土曜日、十四時開始。


 専用ページから参加確認を済ませ、当日は指定された部屋へ入る。ゲームの運営会社の名前と、大会窓口が並んでいた。


 参加案内に並ぶ部屋の数は、三百を超えていた。


 一部屋に、最大百人。


 画面の下まで見てから、いちばん上に戻す。


 自分の参加名を探すだけでも、少し時間がかかった。


 nemui。


 まだ一度も会ったことのない名前たちの間に、それがあった。


 応募した夜は、眠かった。


 いま読み直すと、大会に出る気があるのか分からない名前だった。


 変更の締め切りは過ぎていた。


「まあ、いいか」


 試合開始に間に合えば、名前まで起きている必要はない。


 参加確認のボタンを押すと、受付完了の表示が出た。


 念のためもう一度開いて、受付済みであることを確かめた。


 翌日の昼休みも、確かめた。


     *


 土曜日は、午前七時に目が覚めた。


 早すぎた。


 二度寝をしようとしたけれど、うまくいかなかった。起きて洗濯機を回し、朝食を食べる。まだ八時にもなっていない。


 試合前に疲れるほど練習するのはやめようと、前の晩に決めていた。


 守ると、することがなかった。


 部屋を片づけた。机を拭いた。マウスの下に敷いた大きなマットの、端の埃を取った。


 昼食まで済ませると、今度は手を洗った。


 試合に出る前、いつもそうしていた。


 思い出して、蛇口を閉めた。


 タオルで指の間まで拭く。


 鏡の中の僕は、会社に行く日より少しだけ顔色がよかった。


 十三時四十分。


 パソコンで参加ページを開いた。


 登録名と同じ名前を使うこと。指定時刻までに入室すること。試合中の協力行為は禁止。順位は運営が集計し、次の案内は登録先に届く。


 練習戦と違って、負けてすぐ次へ行くボタンはない。


 今日、六位以下になれば、それで終わりだ。


 飲み物を、マウスから遠い場所へ置いた。


 ブラウザーには、ほしなのチャンネルも開いてあった。


 今夜の配信予定と、大会の告知。


 予選に出る人、がんばってね。


 短い応援の投稿に、何千もの反応がついていた。


 僕も一つつけて、ページを閉じた。


 部屋番号を確認する。


 入室を押した。


 海辺の待機場所に、自分のキャラクターが立っていた。


 いつもの練習戦と同じ景色だった。


 錆びた柵。草の生えた滑走路。向こうで、何人かが跳びはねている。


 参加者は九十三人。


 見ているうちに、九十四人になった。


 画面の隅に、挨拶が流れる。


〈よろしくお願いします〉

〈よろしくです〉

〈緊張してきた〉


 僕はキーボードに手を置いた。


 よろしくお願いします、と打つ。


 一度、見直した。


 それだけの文章を見直す必要はなかった。


 送ると、nemuiの名前で挨拶が出た。


 その下へ、また誰かの挨拶が続く。


 九十七人。


 僕の前にいたキャラクターが、しゃがんだ。


 もう一度、立ってしゃがむ。


 挨拶だろうか。


 僕も一度しゃがむと、相手は満足したように走っていった。


 数分後には、見つけ次第、撃ち合う相手だった。


 いまは同じ配信を見ていた人でしかない。


 どういう人だろう、と思った。


 僕よりずっとこのゲームをやっているかもしれない。賞品を見て、初めてダウンロードした人かもしれない。


 少なくとも、さっきの人は、あの配信の誰かだった。


 参加者の数字が、百になった。


 運営から開始の通知が出る。


 全員の姿が消え、画面が暗くなった。


 ヘッドホンの中で、輸送機のエンジンが鳴り始める。


 左手が、キーボードのいつもの位置へ戻った。


 右手は、古いマウスを握っていた。


 力を入れすぎないように、指を一度伸ばす。


 五位でいい。


 九十九人全員に、勝たなくていい。


 そう言い聞かせながら、地図を開いた。


 飛行機の通る線をなぞる。


 降りる場所を決める前に、どこなら武器を拾えて、どこから敵が来るかを考えていた。


 その先に逃げられる道はあるか。


 川を渡らずに済むか。


 隣の町から来る相手を、どこで待てるか。


「……だから、五位でいいんだって」


 自分に言った。


 輸送機が、島の上へ入った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。