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推しに勝ったご褒美はオフレコで!? ~元FPS日本代表、男なのに女性限定VTuber事務所に採用されました~  作者: ぽんさん
【アーカイブ01】 画面の向こうへもう一度

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【デビュー配信】 はじめまして! 推しの声が聞こえません! 【白瀬直人/月乃ほしな】

「僕は、男です」


 仕事用のスーツで、ネクタイも締めてきた。


 返信にも書いたし、通話でも言った。


 今度は、対面だった。顔も、服装も、ちゃんと見えている。


 テーブルの向かいで、女性の視線が僕の顔からネクタイへ下りる。


 それから、口元が緩んだ。


「それで、そんなにきっちり締めてきたの?」


「いえ、これは仕事でも使っているので」


「似合ってる。そういう格好、好きよ」


「ありがとうございます。ではなくて」


 危うく、お礼で終わるところだった。


「性別の話です。書類にも、男性と書いています」


 該当する欄へ、指を置いた。


 彼女は、書類よりも僕の顔を見ていた。


「ふふ。分かった。その設定の話は、あとで聞かせて」


 分かっていなかった。


 書類は、裏返しにされた。


 男性と書いた文字が、テーブルを向いている。


 ここは、REPLINE(リプライン)。


 女性限定の、VTuber事務所だ。


 受付の脇には、合同ライブのポスターが貼ってあった。その中に、推しもいた。


 男の僕が、ここに所属できるはずがない。


 誤解を解いたら、帰る。そのつもりで来た。


 どうして、こうなったんだろう。


 始まりは、推しの配信を見ていた夜だった。


     *


 僕の推しは、壁の向こうの足音を聞き逃さない。


 ただし、自分のマイクが切れていることには、四分も気づかない。


〈ミュート〉

〈声ないよ〉

〈聞こえてない?〉


 モニターの右下で、夜空色の髪をした女の子が口を動かしていた。三日月の髪飾りが揺れている。笑っているのは分かる。

……が、何を言っているのかは、さっぱり分からない。


 僕は買ってきた弁当の蓋を開け、割り箸を割った。右が少し太くなってしまった。


 同じような指摘が流れる間にも、画面の彼女は何かを話し続けていた。


 ふと、首を傾げる。


 口の動きが止まった。


『……え、声? あ、待って』


 かち、と小さな音がした。


『あー、あー。今は? これ聞こえる?』


 少し待って、コメントの中身が変わった。


〈聞こえた〉

〈きたきた〉

〈聞こえるよー〉

〈声でかいw〉


『でかい? あ、ごめん、上げすぎた。……これぐらい?』


 彼女はもう一度コメントを眺め、それからようやく肩の力が抜けたように笑った。


『よかった。え、でもどっから聞こえてなかったの?』


〈最初から〉

〈最初からずっと〉


『最初からぁ? もうさ、言ってよぉ〜』


 たちまち、「言った」という文字が並んだ。


『……うん、今見た。めっちゃ言ってくれてる。ごめん……ほしな、すごい気持ちよく喋ってた』


 最後は自分でも笑っていた。


「だろうな」


 誰にも聞こえないのに、つい返事をしてしまう。


 月乃ほしな。


 アイドルVTuber事務所、リプライン所属。チャンネル登録者数は二百十万人を超えている。


 歌って踊れて、ゲームがうまい。


 本人はそう自己紹介するけれど、歌とダンスについては、言い切ったあとのコメントには『まだまだ練習中!』がつく。不服そうだが残念ながらその事実は認めざるを得ない。


『じゃあさっきの話、もう一回するね。今日ダンスのレッスンだったんだけど、右足からって言われた振りを、ずっと左でやってて』


〈おつかれさま〉

〈草〉

〈鏡見てるとわからんくなる〉


『そう、鏡! あれ分かんなくならない? 先生と逆だなって思って直すと、今度は――あ、人いる。ちょっと待って』


 そこで話が切れた。


 彼女の操作する兵士が、倉庫の中で足を止める。


 金属を踏む、軽い音。


 僕も箸を止めた。


 二階。


 足音は二つ。人数ではなく、踏んだ回数だ。階段を下りきるには少ない。


 彼女は照準を階段へ向けなかった。横の開いた窓へ、少しずらす。


 人影が落ちてきた。


 短い銃声。


 着地した敵が、撃ち返す前に倒れた。


『よし』


 それだけ言って、ほしなは周囲へ視点を振った。


 数秒遅れて、コメントが増える。


〈うま〉

〈ナイスー〉

〈今どこでわかった?〉


 彼女はすぐには答えず、弾を拾い、扉の陰へ移った。


『……えーっと。「どこで分かった」? 上の足音。階段ならもうちょっと鳴るから、窓かなって。……で、何の話してたっけ』


〈レッスン〉

〈右と左〉

〈ゲームだと間違えないのに〉


『そう、右と左。いやゲームなら分かるよ。間違えたら撃たれるんだから』


 コメント欄に草が流れた。


『レッスンもちゃんとやってるって! 次のライブ、見ててよ。ここから仕上げるから。……おつかれさま、ありがと。ほんと今日、脚がもう』


 急に声がへろへろになって、僕は笑った。


 箸で挟んだ唐揚げが落ちる。弁当の端にあったポテトサラダへ、半分埋まった。


 今日、会社で最後に言った言葉は『承知しました』だった。その前も、その前も、似たような返事だった気がする。


 入社して半年。仕事を覚えるだけで精いっぱいという時期は、そろそろ終わったはずだ。


 それでも、帰りの電車で立っていると、今日のどこで疲れたのかよく分からなくなる。大きな失敗はしていない。怒られたわけでもない。けれど駅を出る頃には、晩飯を選ぶのも面倒になっている。


 スーツの上着は、まだ椅子の背に掛けたままだった。


 ネクタイを緩めて、モニターの音量を一つ上げる。


 窓に照準を置いた理由は、僕にも分かった。


 ただ、分かったからといって、あの速さで合わせられるとは限らない。


 ほしなは建物の中を移動しながら、レッスン帰りに買ったプリンの話を始めていた。コンビニの新商品らしい。二つ買うか迷って、一つにしたところまで聞いた。


『「もう食べた?」。まだ。配信終わってから食べようと思って、今、鞄に――』


 足音が止まった。


『……待って。冷蔵庫入れてない』


〈え〉

〈はよ冷やしてw〉

〈何時間前?〉


『一時間……ちょっと? ちょっと待ってて。今入れてくる』


 二階の小部屋へ入り、扉を閉めて床に伏せる。そこまでは手際がよかった。


『すぐ戻る。ちょっと見てて!』


〈いってら〉

〈見てるだけでいい?〉


 かたん、と何かを置く音がして、彼女の声が遠くなった。


 しばらくして、階下の扉が開いた。


 別のプレイヤーがいる。


〈来た〉

〈敵きたよ〉


「帰ってこい」


 僕まで画面に向かって言った。


 階段を上る音が近づく。


 扉が開いた。


 帰ってこなかった。


『ただいまー。……え。え、死んでる!?』


〈おかえり〉

〈どんまいw〉

〈草〉


『うそ、いつ来た? 今? ……あー、めっちゃ教えてくれてる。ごめん、ヘッドホン外してた』


 ほしなは観戦画面を少し眺め、短く息を吐いた。


『はい。次からは試合終わってから取りに行きます』


〈それはそう〉

〈プリンは?〉


『プリンは無事。うん。……まだちょっと冷たかった』


 なぜか申し訳なさそうで、僕は弁当を置いて笑った。


 この人は、ほぼ毎日ゲームをしている。それでも、勝った試合ばかりを覚えているわけではない。先週は回復アイテムと投げ物を間違えて、自分の足元へ煙を充満させていた。昨日は歌枠の途中で歌詞を忘れ、忘れたことを即興の歌にしていた。


 会社から帰って、この配信を開く。


 僕の一日は、だいたいそこでようやく楽しくなる。


     *


 ほしなが次の試合を始める前に、スマートフォンの通知が光った。


 職場の連絡だった。


 明日の打ち合わせの開始時刻が、三十分遅れるらしい。確認の返事をして、スマートフォンを伏せる。


 白瀬直人(しらせなおと)。


 二十二歳。会社員。独身。


 人に自己紹介するときに出せる情報は、そのくらいだ。


 部署は二十人いて、男性は僕を含めて二人。もう一人は既婚の課長で、僕は最年少だった。


 この国では男が一人に対して女が九人くらいだから、人数自体は珍しくない。


 ただ、外部の人から電話で『先ほどの女性の担当者さんを』と言われて、『僕です』と答えるのは、何度やっても気まずい。


 声だけではない。


 今日も洗面所の鏡には、肩幅の足りないスーツを着た、顔色の悪い女の子みたいなものが映っていた。あれで目の下に隈がなければ、まだ見栄えもしたのだろうけれど。


 僕は男だ。


 そのことまで変わらなかったのは、幸いだったのかもしれない。


 周りの多くは、変わってしまった。


 三年前、大学の講義室で、いつも隣に座っていた友達が女になっていた。


 名前は同じ。話す内容も、前の週に貸したゲームの話だった。僕だけが席を間違えたのだと思って立ち上がり、相手を困らせた。


 別の友達も。そのまた別の友達も。


 連絡先に残っていた写真まで変わっていた。


 僕が覚えている男友達の肩を組んでいたのは、知らない女の子たちだった。写真の中の僕だけは、何も知らない顔で笑っていた。


 誰に何を聞けばいいのか分からなかった。


 聞いたところで、相手は昔からそうだったと答える。僕だけが、同じ思い出の話をできなかった。


 講義へ行かなくなった。


 連絡にも返事をしなくなった。


 そのうち、返事をしていないことを説明するのも難しくなった。


 流行り病で授業がオンラインに切り替わらなければ、卒業もできなかったと思う。画面越しなら、出席できた。必要な課題を出し、単位を数え、顔を合わせずにできることを一つずつ済ませた。


 就職先は大学の知り合いがいなさそうな会社を選んだ。


 今の生活に、文句を言う筋合いはない。


 仕事があって、一人で暮らせて、帰れば――。


『あ、待って待って。それほしなの車! 駐車してただけ!』


 画面の中を、一台の車が走り去っていった。


 取り残された兵士が、草むらで腕を下ろす。


〈あ〉

〈草〉

〈置いてかれたw〉


『待って、行かないで! ……うわー、あれないと遠いんだけど』


 ほしなは照準を上げかけて、下ろした。今から撃っても、車を壊すだけになる。


『「降りるから」って、降りるよ! 建物の中、見たかったんだもん。……はい、走ります』


 地図を開き、すぐ閉じる。


『乗り物の音したら教えて。今度はヘッドホンつけてるから』


 プリン、というコメントが、またいくつか流れた。


 僕は、伏せたスマートフォンを机の隅へ押した。


 ほしなは諦めて走りだしていた。前方には、岩の多い坂道がある。


 走りながら地図を開き、一度だけ進路を変える。


 その曲がり方を見て、僕は次の戦闘が少し楽しみになった。


     *


『さて! 本日最後に、大事なお知らせがあります!』


 最後の試合が終わり、ゲーム画面が切り替わった。


 星を散らした背景に、ほしなの立ち絵。両手を腰へ当てているけれど、さっきの試合では五位だった。


 それでも三人に囲まれて一人を倒し、残りの二人まで争わせてから抜けようとしていた。最後に回復が足りなかっただけだ。惜しかった。


 ……こんなふうに考えてしまうのは、悪い癖だと思う。


 もう自分ではやっていないくせに。


〈なになに〉

〈告知きた〉

〈新曲?〉


『はい、こちら!』


 大きな告知画像が現れた。


 月乃ほしな主催。


 視聴者参加型『LAST CIRCLE』ソロ大会。


 僕は机の弁当の容器を、脇へ寄せた。


『前からやりたいって言ってた参加型大会、やります!』


〈おおお〉

〈参加したい!〉

〈ソロかー〉


『ソロです。「今の倒せた」っていつも書いてるみんな、今度はそっちが戦う番だからね』


〈俺は言ってない〉

〈こわ〉

〈返り討ちにしてやる〉


『お、言ったな? ……あ、でも今回、ほしなは主催だから。実況する方。よろしくお願いします』


 言い直してから、彼女は日程のところへカーソルを動かした。


『来週の土日で、予選を二回やります。それぞれのグループで上位五人に入ったら、次へ進めるルールです。本戦はその次の土曜日。九十六人で、最後の一人になるまで!』


 画像の端に、一般参加九十五人、シークレットゲスト一人、と書いてあった。


 応募が数万人になっても開催できるように、ゲームの運営会社にも協力してもらったらしい。予選はたくさんの部屋に分かれて、一斉に始めるという。


『詳しい時間は概要欄のページを見てね。えーっと……「初心者でもいい?」。もちろん! 上手い人しか応募しちゃだめ、みたいなのはないです』


〈時間合えば出たい〉

〈予選抜けられるかな〉

〈見る専です〉


『見る専の人も、本戦は配信するから見に来て! 今回は、普段見てくれてる人がどんなプレイするのか、ほしなも見たいの』


 使用するゲームは、さっきまで彼女が配信していたものだ。


 広い地図に降り、武器を拾い、狭くなっていく安全区域の中で生き残る。チームで決まった拠点を攻めたり守ったりする、僕が昔やっていた競技とは違う。


 とはいえ、銃を撃つゲームであることは変わらない。


『そして、優勝した方にはですね。……ちょっと待って、今出す』


 画面の下に、一行増えた。


 優勝特典――月乃ほしなとの個別対戦。ボイスチャット付き。


『大会のあと、ほしなと一対一で遊べます!』


 椅子が、きしんだ。


 知らないうちに前へ出ていたらしい。僕は座り直して、もう一度その文字を読んだ。


〈えっ〉

〈通話!?〉

〈練習してくる〉

〈絶対緊張する〉


『「喋れなくなりそう」。あはは、分かる。ほしなも初対面だと……いや、今回はほしなが喋る! 大丈夫、好きな武器とか聞くから』


〈そこから?〉

〈俺も喋れん〉


『そこ大事じゃない? ……ふふっ。運営さんも入ってくれるので、二人して黙ったら助けてもらいます』


「スタッフさん、大変だな」


 そう呟いた自分の声が、妙に遠く聞こえた。


『あと、この対戦は非公開です。配信には載りません。そこも書いてあるので、確認してから応募してね』


 彼女は賞品を説明している。それだけだ。


 画面の向こうにいる何万人もの視聴者に向けた話で、僕に言っているわけではない。


 それは分かっている。


 日付を、もう一度見た。


 予選が土曜と日曜。本戦も土曜。


 どの日も、予定はない。


『……「これで負けても安心だね」。ちょっと、なんでほしなが負ける前提なの?』


〈草〉

〈猛者が来るぞ〉


『勝つよ? 優勝してきた人だろうと、そこは普通に勝ちにいくからね』


 マウスに置いた右手の、人差し指が動いた。


「……そうだろうな」


 それは、ずっと見てきたから知っている。


 窓から落ちてくる敵に、ためらわず照準を合わせる。人数で不利になっても、ただ逃げるだけでは終わらせない。次の場所へ動く時には、もうそこから先の撃ち合いを考えている。


 戦ってみたい。


 思ってから、少し驚いた。


 話してみたい、よりも先に出てきた。


     *


 配信が終わってからも、応募ページは開いたままだった。


 途中で食器を洗った。風呂にも入った。明日のシャツを出して、目覚ましを確認した。


 椅子へ戻るたび、同じページが出迎えた。


 参加に必要なのはゲームを動かせるパソコンと、当日の時間と、通話のできる環境。


 全部ある。


 僕の部屋でいちばん高かった買い物は、今もこのパソコンだ。


 大学の頃は、性能のために食費を削った。今ではその性能のほとんどが、推しの配信を滑らかに映すために使われている。


 ゲームの腕前は、応募条件に書いていなかった。


 昔の実績を書く欄もない。


 ブラウザーの横で、ゲームのダウンロードが進んでいる。迷っている間に、なぜかそこまでは済ませていた。


 僕が遊んでいたのは『BREACH LINE』だ。


 五人で組んで、建物の中の拠点を奪い合う。壁の向こうの音、開いている扉、味方が見ている方向。一人で分かることを持ち寄って、相手より少しだけ先に動く。


 大学のeスポーツ研究会に入ったのは、もっと上手い人と組んでみたかったからだった。


 実際、いた。


 僕の考えた無茶な攻め方を、本当に通してしまう人がいた。一緒に練習した。負けた映像を見直して、次はどちらから入るかで話し込んだ。


 気がつけば日本代表に選ばれていた。


 あの頃の名前を検索すれば、今も試合の記録が出てくる。


 僕は、ここ数年それを調べていない。


 机の引き出しを開けた。


 充電用のケーブル。電池の切れた小さなライト。使い道の分からなくなった変換端子。


 そしてその奥に、古いマウスがあった。


 今使っているものより少し小さい。側面の滑り止めが剥がれかけている。指で擦ると、薄い埃が取れた。


 当時、形が気に入って、同じものを三つ買った。


 二つ目を使い潰す前に、ゲームをやめた。


 ケーブルをほどく。結び目が固くなっていて、少し手間取った。


 途中でやめればよかった。


 応募しなくても、何も困らない。今までどおり、配信を見ればいい。大会当日だって、視聴者として楽しめる。


 画面越しなら、何も説明しなくて済む。


 どうして連絡を返さなかったのかも。


 どうして、突然いなくなったのかも。


 僕はケーブルの先を、パソコンにつないだ。


 小さな接続音が鳴る。


 カーソルが動いた。


 こんなものだったか、と思う。少し速い。設定を開いて、感度を下げる。数字を見なくても、指は次に押す場所へ動いた。


 応募フォームへ戻る。


 大会で使用するプレイヤー名。


 半角英字で、三文字を入力した。


 NIL。


 懐かしいと思うより先に、胸の奥が詰まった。


 この名前を呼ぶ声を、僕はまだ覚えている。


 勝ったあとに何人もが重なって喋る声。負けたあと、誰も責めずに次の試合の準備を始める音。


 最後の試合で何を話したかは、覚えていない。


 それが最後になるなんて思わなかった。


 僕は三文字を選択して、消した。


 名前を隠して参加することは、規則で認められている。昔の名前を使う必要はない。


 時計を見る。


 午前零時を過ぎていた。


 明日は仕事だ。


 眠い。


 そのまま、五文字を打った。


 nemui。


 名前を決めるのに、ここまで悩んで、最後はそれでいいのか。


 いいと思った。


 今の僕には、よく似合っている。


 確認画面には、平凡な参加名と、大会の日付が並んでいた。


 優勝しないと、彼女とは話せない。


 その前に、予選が二回。


 どちらも上位五人に入らなければ、本戦にすら進めない。


 応募しただけで、何かが決まるわけではない。


 自分に言い聞かせながら、注意事項を最後まで読み、確認の欄にチェックを入れた。


 送信ボタンに、カーソルを合わせる。


 さっきまでの配信を思い出した。


 プリンを救って、自分は撃たれた人。


 それでも、次の試合では最後まで勝とうとしていた人。


 もし一緒に遊べたら、最初に何を話そう。


 いつも見ています。


 それは、言いたい。


 帰ってきてから、あなたの配信を開くのが楽しみです。


 そこまで言うと、困らせるだろうか。


「……勝ってから考えよう」


 クリックした。


 応募を受け付けました、という文字が出た。


 少しのあいだ、僕はその画面を見ていた。


 机には、まだ冷めたお茶が残っている。明日着るシャツが壁に掛かっている。朝になれば、いつもどおり会社へ行く。


 ゲームのダウンロードが終わった。


 ボタンの表示が、『プレイ』に変わる。


 時計を見た。


 それから、マウスを握り直した。


 起動して、設定を確認するだけ。


 せいぜい、十分くらい。


 そのくらいなら問題ないだろう。


新作の連載開始です。

別で掲載している異世界転生物とは異なり日常系のラブコメを書いてみたくて立ち上げました。

色々やりたい事があるのでいっぱい詰め込んじゃおうと思ってます!


制作の励みとなりますので面白いと思っていただけましたら評価やブックマークのほどよろしくお願いいたします。

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