↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しに勝ったご褒美はオフレコで!? ~元FPS日本代表、男なのに女性限定VTuber事務所に採用されました~  作者: ぽんさん
【アーカイブ02】 「はじめまして」の続きは二人きりで

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/30

【配信16日目】 顔合わせだけで、もう予定がいっぱいです 【音無せら/四季野すず/久我】

「で、最終回はどうなったんですか」


「そこなんだけど、まず第一話でね」


 結末だけ聞くつもりだったけれど、先輩のドラマ解説は第一話から始まるらしい。


 朝倉先輩は、お弁当の横に小さなメモ帳を置いていた。紙には人の名前がいくつかあって、線でつながっている。


 先週、最終回の話を聞くと約束した。僕は見ていないので、誰と誰が付き合ったかまで遠慮なく話せるらしい。


 その、誰と誰かを説明されている。


「この人が主人公で、こっちが同じ会社の子。で、この子は昔から知り合いなんだけど、再会するのが三話」


「はい」


「この二人が会っちゃった時に、店長がね」


「……先輩」


「うん?」


「この店長さん、全員から好かれてませんか」


 メモの真ん中にいる人へ、あちこちから矢印が向いていた。


 今のところ、圧倒的だった。


「あ、それ、パンを買ってる線」


「パンを」


「みんな、ここのパン屋さんに来るの。商店街が舞台だから」


 恋と買い物を、同じ線で描かないでほしかった。


「ここだけ点線にしてもいいですか」


「あはは。ごめん、そこから分かんないよね」


 先輩がペンを貸してくれた。


 パン屋さんへの線を直すと、恋愛の行方は急に読みやすくなった。店長には、本業に専念してもらうことにした。


「先輩は、どの人を応援してたんですか」


「この子。自分からは、あんまり言わない子」


 ペンの先が、一人の名前を叩く。


「相手の都合ばっかり気にしてさ。今じゃない、今じゃないって。で、最終回でやっと言うの」


「よかったですね」


「そう。その話がしたかったの」


 先輩が笑って、お弁当へ箸を戻した。


 壁の時計を見る。まだ、少し時間があった。


「何て言ったんですか」


 先輩の箸が、もう一度止まった。


 聞きどころを間違えなかったらしい。


 午後の始業まで、今度は僕から質問をする番になった。


     *


 日曜日。


 リプラインの受付で、僕は靴の入った袋を持ち直した。


 この建物へ来るのは、三度目だった。


 一度目は、断るつもりで。


 二度目は、書類に名前を書くために。


 今日は、歌って踊るために来ている。


 通うたびに、持ち物がおかしくなっていった。


 新しく買った室内用の靴は、まだ底まで白い。動きやすい服も、昨日のうちに袋へ入れた。


「白瀬さん。お待たせしました」


 久我さんが、廊下の奥から来た。


「こんにちは。今日も、よろしくお願いします」


「こちらこそ。着替えのお部屋、先にご案内しますね」


 ほかの人と会う前に、小さな部屋へ通された。


 机と椅子、姿見。壁にはハンガーが二本掛かっていた。


「中から鍵を掛けられます。お荷物も、今日はここへ置いていただいて大丈夫です」


「ありがとうございます」


「それと、こちらを。着替えたあとで、つけてください」


 渡された名札には、『音無せら』と印刷されていた。


 僕はそれを、机の上へ置いた。


 月曜日の夜に気になったことは、その週のうちに久我さんへ相談していた。


 ほかの新人たちは、たぶん、僕を女性だと思っている。


 こちらから説明するのか、と尋ねると、事務所から個人の情報をまとめて伝える予定はない、という返事だった。必要なことは、その都度相談して決めましょう、とも。


 着替える場所をどうするかは、それで一つ片づいた。


 顔を合わせて、何を話すかは、まだ残っていた。


 僕は男だ。


 白瀬直人、二十二歳。普段は会社で、数字や日付の間違いを直している。


 その僕が、女性限定のアイドルVTuber事務所で、新人の顔合わせに参加することになった。


 書類に間違いはない。


 久我さんも社長も、知っている。


 知ったうえで、今日の予定が組まれているのだった。


「着替えが終わったら、隣のお部屋へどうぞ。まだ少し時間がありますから」


 久我さんが出ていってから、僕はシャツを脱いだ。


 灰色のTシャツと、紺色の動きやすいズボン。買う時に試したので、膝はちゃんと曲がる。


 踊れるかどうかまでは、店で確かめられなかった。


 靴を履き、袋を畳む。最後に、胸元へ名札をつけた。


 姿見の前で、一度だけ背筋を伸ばした。


 もらったラフの中のせらには、灰銀色の髪と、青灰色の目がある。


 ここにいるのは、いつもの黒髪の僕だった。


 それでも今日は、あの名前で呼ばれる。


 扉の前で、小さく息を吐いた。


     *


 隣の部屋では、もう話し声がしていた。


 開いていた扉を軽く叩く。


「失礼します」


「あ、せらちゃん?」


 窓側にいた女の子が、こちらを向いた。


 明るい茶色の髪を、後ろでひとつに結んでいる。顔の横で少しだけ残った髪が、振り向いた拍子に揺れた。


 白いTシャツに、淡い桃色のパーカー。胸の名札には、丸みのある字で『四季野すず』と書いてあった。


「四季野すずです。グループで話してた、すず!」


「はい。音無せらです。はじめまして」


「はじめまして! やっと声で話せたね」


 笑うと、目元も一緒に動いた。


 スマートフォンの画面で想像していた人が、そのまま声を出したようだった。


「今日、来るの迷わなかった? レッスン、どっちも初めてなんだよね。あ、歌は普段から歌ったりする?」


「ええと」


 答えを、三つ並べた。


 迷ってはいない。


 初めてだ。


 歌は、部屋で小さく歌うくらいなら。


「飲み物、そこにあるよ。お茶とお水。どっちがいい?」


 四つになった。


「お水を、お願いします」


「あ、うん。はい」


 ペットボトルを渡しかけたところで、すずさんが止まった。


「私、今、いっぱい聞いた?」


「少し」


「ごめん。会ったら話そうと思ってたこと、一気に言っちゃった」


「道は、大丈夫でした」


「ちゃんと一個目から答えてくれてる」


 すずさんが口元を押さえて笑った。


 僕も、水を受け取りながら少し笑った。


「じゃあ、一個ずつにするね」


 彼女は隣の椅子を指した。


「ここ、座ってもいい?」


「はい」


「よし。一個目、終わり」


 椅子が引かれる。


 今度は、次の質問がすぐには来なかった。


 僕が荷物を脇へ置いて、ペットボトルのふたを開けるまで、すずさんも自分の飲み物を持って待っていた。


「歌もダンスも、習うのは初めてです」


「普段は歌ったりする?」


「一人のときに、少し口ずさむくらいです」


「そっか。人前だと、ちょっと緊張するよね」


「すずさんは、慣れてるんですか」


「歌うのは好き。でも、こういう場所は私も緊張する」


 そう言って、彼女は膝の上の紙を見せた。


 持ち物の一覧だった。


 靴。タオル。飲み物。


 それぞれの横に、チェックがついている。


「駅でも確認したのに、さっき、また見ちゃった」


 靴の項目へ目を落としてから、すずさんは自分の足を見た。


 もう、履いていた。


 僕は笑いかけて、鞄へ伸ばしていた手を引っ込めた。


 タオルを持ってきたか、もう一度確かめるところだった。


「僕も、あまり人のことは言えません」


「じゃあ、お互い何か忘れてたら貸そうね」


「はい」


 まだ緊張はしていた。


 でも、何かあった時に話しかける相手は、ひとりできた。


     *


 十三時になり、久我さんが部屋の前へ立った。


 机の周りには、ほかの新人も集まっている。僕と同じように配られた名札をつけた人も、先に着替えを済ませていた人もいた。


 歌が好きな人。


 絵を描く人。


 動画を作っていた人。


 自己紹介が進むたびに、名前の下へ、覚えることが増えていった。


 次は、すずさんだった。


「四季野すずです。歌と、おしゃべりが好きです。前に少しだけ配信をしてたんですけど、ここでは初めてのことばっかりなので、一緒に覚えていけたらうれしいです」


 さっき僕に話しかけた時より、少しだけ声がはっきりしている。


 机の端にいる人まで、順番に見ていた。


「ゲームも好きです。上手ではないです。好きなのは、本当です」


 そこを分けて言ったので、何人かが笑った。


「一緒に遊んでもらえたらうれしいです。よろしくお願いします!」


 小さな拍手が起こる。


 すずさんが座って、僕を見た。


 次だった。


 名札の字を、指先で一度なぞる。


「音無せらです」


 名乗ると、何人かが顔を上げた。


「ゲームが好きで、主にFPSをやっています。歌とダンスは、これから教わります。配信も初めてなので、分からないことが多いと思いますが、よろしくお願いします」


 頭を下げた。


 拍手をもらって、座った。


 用意したことは、全部言えた。


 あまり長くもならなかった。


 隣ですずさんが、小さく親指を立てた。


 僕も返そうとして、なぜか軽く頭を下げてしまった。


 それでも、伝わったらしい。


 彼女は笑って、前へ向き直った。


 予定の説明が終わると、レッスン前に少し休憩を取ることになった。


 資料を閉じたところで、すずさんがこちらへ椅子を向ける。


「FPS、よくやるんだね」


「はい。最近は、LAST CIRCLEを」


「あ、それなら私もやった! 友達と一緒に」


「デュオですか」


「うん。私、離れるとすぐ迷子になるから、ずっと友達についていってた」


 すずさんは、指で小さく人が歩く真似をした。


「でも、友達が撃たれると、私も一緒に撃たれるんだよね」


「同じ場所にいると、二人とも狙われやすいので」


「そうなんだ」


「少し横へずれると、相手がどちらを見るか迷います。味方が隠れている間に、自分が撃てることもありますし」


「へえ。後ろじゃなくて、横」


「はい。建物があるなら、同じ窓から二人で出るより、別の窓を使って――」


 言いかけて、止まった。


 ここには、ゲームの画面がなかった。


 僕は机の上の水を見ていた。隣にすずさんのペットボトルがあって、資料の束があった。


 危うく、全部を動かすところだった。


「……すみません。長くなりました」


「え、聞きたい。どの窓?」


 すずさんが、資料を少し持ち上げた。


「これ、家にする?」


 隣の席からも、笑い声がした。


 僕は少し迷ってから、自分のペットボトルを置き直した。


「じゃあ、これが僕だとして」


「うん。こっちが私ね」


 すずさんが自分の水を、その真後ろへ置いた。


「いつも、これくらい」


「近いですね」


「安心するから」


 言いながら、本人はペットボトルのほうを見ている。


 僕は自分の水を少し横へ動かした。


「これなら、お互いが見えます。何かあったら戻れますし」


「ああ。見えなくなるまで離れなくていいんだ」


「そうです」


「じゃあ、できそう」


 そう言ってから、すずさんは顔を上げた。


「今度、一緒にやってくれる?」


「僕でよければ」


「やった。あとで予定聞いてもいい?」


「はい」


 返事をしてから、また一つ増えた、と気づいた。


 何も予定がなかった日曜日に、人と会う約束ができた。


 会ってみたら、今度は別の日に遊ぶ約束ができた。


 名前を覚えるだけでは、終わらないらしい。


     *


「あ。今日のご飯なんだけど」


 休憩の終わり際に、すずさんがスマートフォンを開いた。


「この前の一軒目、日曜も夕方からやってるって。皆も、そこがよさそうって」


「僕も、大丈夫です。ただ、その前に少しだけ、お話しする予定があって」


「うん。何時くらい?」


「久我さんに、確認してきます」


 部屋の入口にいた久我さんへ声を掛けると、彼女はタブレットを見てから頷いた。


「月乃さんですね。レッスンが終わる頃には、お時間が取れるそうです。終わったらご案内します」


「ありがとうございます」


「皆さんとのお食事も、間に合うようにしましょう」


 席へ戻る。


 スマートフォンを持って待っていたすずさんへ、レッスン後に少し会ってから合流することを伝えた。


「ほしな先輩と?」


「はい」


「そっか。私、まだちゃんとお話ししたことないな」


 彼女が、廊下のほうを見る。


 そこにいるかもしれない人を、僕もつられて探してしまった。


 もちろん、誰もいなかった。


「せらちゃん、好きなんだね」


「……分かります?」


「今、顔が変わった」


 僕は口元へ手をやった。


 すずさんは、楽しそうに笑っている。


「じゃあ、お話し終わったら連絡して。お店に移動してたら、場所送るから」


「ありがとうございます。遅くならないようにします」


「うん。でも、せっかくだから、ちゃんと話してきてね」


 急がなくていい、と言われたわけではなかった。


 それでも、少しだけ、肩の力が抜けた。


 食事の約束も、推しとの面会も、どちらかを断らなくてよかった。


 スマートフォンの予定を開く。


 顔合わせ。


 レッスン。


 ほしなと会う。


 皆で食事。


 その下へ、すずさんとゲーム、と打ちかけて、日付が決まっていないことを思い出す。


 ひとまず、メモへ移した。


 画面を閉じる前に、『ほしなと会う』をもう一度見た。


 もう、今日のことだった。


     *


 練習室は、思っていたより広かった。


 壁一面の鏡に、新人たちの姿が並んでいる。床には色のついたテープが貼られ、端にはスピーカーと、椅子が何脚かあった。


 置いていいと言われた場所へ、水とタオルを置く。


 すずさんは、僕の隣へ来た。


「ここ、大丈夫?」


「はい」


 さっきまで机の上に並んでいた水が、今は壁際に並んでいる。


 本人たちの間には、腕を広げられるくらいの隙間があった。


 レッスンの先生が、僕たちの前へ立つ。


「こんにちは。今日は最初なので、まず身体をほぐすところから始めましょう」


 明るい挨拶に、返事が重なった。


 僕も、声を出した。


 ここまでなら、できた。


「歌もダンスも、まずは力を抜いて。肩をゆっくり回してみてください」


 先生の動きを見て、真似をする。


 鏡の中のすずさんは、自然に肩を動かしていた。


 僕は、片方を回すと、もう片方までついてきた。


 普段、別々に使うようなことをしていなかった。


「せらちゃん」


 隣から、小さな声。


「息、止まってるよ」


「……あ」


 吐いた。


 すずさんが笑う。


「まだ、準備運動だよ」


「準備が、思ったより必要でした」


 彼女の笑い声が、少し大きくなった。


 僕も笑って、それでようやく、肩が少し下がった。


 ゲームのことなら、さっきは僕が話す側だった。


 今は隣の動きを見て、先生の声を聞いて、自分の身体へ一つずつ伝えている。


 ほしなに会うまでに、まだ歌とダンスがある。


 まずは、息をするのを忘れないところからだった。


二章、スタートです!

【アーカイブ02】「はじめまして」の続きは二人きりで、どうぞよろしくお願いします。


まずは、一章へのブックマークや評価、本当にありがとうございました!

とても励みになっています。


二章からはキャラ同士の掛け合いも増えてきますので、そちらもお楽しみに!


     *


制作の励みとなります。二章も毎日更新していきます!

「続きも見てやるか」と思っていただけたら、

ブックマークと、ページ下の☆☆☆☆☆からの評価をいただけるとうれしいです。

チャンネル登録と高評価くらいの気持ちで、ぽちっとお願いします!

(筆者は現金なのでやる気スイッチが入ります!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。