↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しに勝ったご褒美はオフレコで!? ~元FPS日本代表、男なのに女性限定VTuber事務所に採用されました~  作者: ぽんさん
【アーカイブ01】 画面の向こうへもう一度

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/23

【配信15日目】 推しからDMが来たので、一回落ち着きます 【音無せら/月乃ほしな/四季野すず】

 月曜日、会社では白瀬さんと呼ばれた。


 夜、家に帰ると、音無せらさん宛ての案内が届いていた。


 どちらも、返事をするのは僕だった。


 昨日もらった名前の案には、今日の昼休みに、そのままでお願いしますと返していた。声に出して何度か読んだ。自分で思いついた名前より、ずっとちゃんとしていると思った。


 久我さんからは、了承の返事と、次の日曜日の予定が送られてきた。


〈十三時から、新人の皆さんとの顔合わせを行います。その後、歌とダンスの初回レッスンを予定しています〉


 仕事のカレンダーを開く。


 その日は、空いていた。


 昨日、空いていると答えたところだった。


 空いていた場所へ、ちゃんと予定が入っている。


 何もおかしくはなかった。


 歌とダンス以外は。


 続きには、持ち物が書いてあった。


 動きやすい服。


 室内用の靴。


 タオルと、飲み物。


 僕は椅子に座ったまま、クローゼットを見た。


 スーツならある。


 仕事に着ていけるシャツも、何枚かある。


 でも、人前で踊るための服は、買ったことがない。


 そういえば、大学へ持ってきたジャージが、まだ残っていたはずだ。


 探すと、引き出しの奥にあった。


 広げた。


 高校の名前と、僕の名字が、胸に大きく刺繍されていた。


 初対面の相手へ、出身校まで一度に伝えられる。


 何も喋らなくても、自己紹介が進んでしまう服だった。


 僕は、そっと畳み直した。


 買おう。


 紹介する情報は、自分で選びたかった。


 買い物のメモに二つ追加してから、久我さんへ返事を送る。


〈確認しました。日曜日、よろしくお願いします〉


 仕事でも使う文章だった。


 ただ、今回は会議室へ資料を持っていくだけでは済まないらしい。


     *


 夕食を食べている間に、新人用の連絡グループへ招待された。


 久我さんから、準備期間中の連絡や相談に使ってほしい、と案内がある。


 表示する名前は、もう、音無せらへ変えていた。


 挨拶を書こうとしたところで、先にメッセージが届く。


〈四季野すずです! すずって呼んでください。よろしくお願いします!〉


 しきのすず。


 名前の下には、桃の形をしたアイコン。


 続けて、ほかの人からも挨拶が来た。


 僕も箸を置いて、スマートフォンを両手で持つ。


〈音無せらです。分からないことばかりですが、よろしくお願いします〉


 送った。


 自分で名乗ると、紙で読んだ時とは違う感じがした。


 間を置かず、すずさんから返事が来る。


〈せらさん、日曜日お会いできるの楽しみです!〉


 せらさん。


 僕だった。


 今度は、呼ばれた方でも確かめることになった。


〈ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします〉


〈せらちゃんって呼んでもいいですか?〉


 返事を考えている間に、もう一段近くなった。


〈はい。大丈夫です〉


〈やった! 私もすずで大丈夫ですよ!〉


〈分かりました。すずさん〉


〈さん、残ってる笑〉


 残してしまった。


 会ってもいない人を、いきなり呼び捨てにするのは難しかった。


 画面の向こうで笑っている様子が、少しだけ想像できた。


〈あと、レッスンが終わったら、みんなでご飯に行きませんか?〉


 食事。


 そこまでは、予定表になかった。


 でも、日曜日に用事がないことは、ついさっきも確認した。


〈はい。ご一緒できれば〉


〈よかった! 苦手なものあります?〉


〈辛いものは、あまり得意ではないです〉


〈了解です! じゃあ、二軒目に送ったお店はなしで!〉


 二軒目。


 画面を少し戻す。


 僕が返事を考えている間に、お店へのリンクが三つ届いていた。


 いつの間に。


〈駅に近いところにしておけば、帰りも楽かなと思って〉


 その下で、ほかの人も、一軒目が気になる、と返している。


 まだ自己紹介を終えたばかりなのに、帰り道まで決まり始めていた。


 僕は一軒目のメニューを開いた。


 定食があった。


 辛そうではなかった。


〈僕も、こちらのお店で大丈夫です〉


〈せらちゃん、僕っ子なんだ!〉


〈かわいい〉


 別の人からも、続けて届いた。


 訂正しようとして、指が止まった。


 何を訂正すればいいのか、分からなかった。


 僕は男なので、僕と書いた。


 ここでは、それがかわいいことになるらしい。


〈じゃあ、当日また相談しましょう! レッスン、一緒にがんばろうね〉


 小さな桃が、画面の中でぴょんと跳ねた。


 続けて届いたスタンプだった。


 僕も何か返そうとして、手元にあるものを開く。


 了解、と書かれた、やけに深く頭を下げている鳥。


 仕事の連絡で使っているものだった。


 少し迷って、送った。


 鳥は、新人たちの挨拶の下で、精いっぱい頭を下げた。


 僕も、日曜日はたぶん、あんな感じになる。


     *


 食器を片づけ、パソコンの前へ戻った。


 ほしなの配信までは、あと十分。


 待機画面を開いてから、日曜日の予定をスマートフォンへ移す。


 顔合わせ。


 歌。


 ダンス。


 食事。


 入れるたび、空いていたところが短くなった。


 最後の予定を保存した時、別の通知が出た。


 月乃ほしな。


 僕は、パソコンを見た。


 まだ配信は始まっていない。


 スマートフォンへ目を戻す。


 動画の通知ではなかった。


 事務所の連絡用アプリだった。


〈こんばんは! ほしなです。久我さんから聞きました。これからよろしくお願いします!〉


 送り先を確認した。


 グループではない。


 僕へのメッセージだった。


 姿勢を直す。


 誰も見ていない部屋で、少しだけ頭も下げた。


 それから、返事を打つ。


〈ご連絡ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします〉


 続けて、いつも配信を見ています、と打ちかけた。


 知っている。


 それは、もう本人へ話した。


 消した。


〈配信の準備中に、ありがとうございます〉


 送ってから、配信までの時間を見た。


 あと八分。


 返事を長くしすぎただろうか。


〈大丈夫! 準備、終わってるよ〉


 すぐに届いた。


〈今日はちゃんと飲み物も置いた〉


 報告までしてくれた。


 僕は机のコップを見て、少しだけ笑った。


〈日曜日、ほしなも事務所に行くんだ。時間が合ったら、お話ししよ〉


 日曜日。


 僕は、いま埋めたばかりの予定を開き直した。


 文字は読める。


 内容だけが、頭へ入るのに少し時間がかかった。


 ほしなと会う。


 通話ではなく。


 同じ場所で。


 何度も見てきた立ち絵が頭に浮かんで、それから、違う、と気づく。


 来るのは、あの画面の中にいる人だ。


 どんな顔をしているか、僕は知らない。


 それでも、会いたいと思った。


〈ぜひ、お願いします〉


 短すぎたかもしれない。


 でも、今はそれ以上、うまく書けなかった。


〈うん! レッスン終わったら、久我さんに聞いてみて。こっちの時間も伝えておくね〉


〈ありがとうございます〉


 予定が重なっていないか、もう一度見る。


 すずさんたちとの食事は、そのあとで相談できる。


 どれくらい話せるのだろう。


 最初に、何を話そう。


 考えていたら、ほしなから、もう一通来た。


〈この前のゲームの続きも、またやろうね〉


 僕の指が止まった。


 あの時、確かに約束した。


 事務所の人になったから、別の話に変わってしまうわけではなかった。


〈はい。今度は、もう少し勝ちたいです〉


 送ってから、少しだけ慌てた。


 最初の挨拶で、先輩へ勝ちたいと書いてしまった。


 返事は早かった。


〈言ったな?〉


 思わず、笑った。


 声がなくても、どんな調子で言ったか分かった。


〈ほしなも練習しとく。じゃあ、そろそろ配信行ってきます!〉


〈見に行きます〉


〈ありがと!〉


 そこで会話が終わったと思った。


 スマートフォンを置きかけたところで、最後の一通が届いた。


〈今度は、直接会おうね〉


 画面を、しばらく見ていた。


 公開されるコメントではなかった。


 何万人もの誰かへ向けた挨拶でもなかった。


 返事をするのは、僕だった。


〈はい。楽しみにしています〉


 送ってから、スマートフォンを机へ伏せた。


 少し間を置いて、また表に返した。


 もう一度、読むくらいはよかった。


     *


 いつもの音楽が流れた。


 待機画面が切り替わり、月乃ほしなが現れる。


『こんばんはー! 来てくれてありがと!』


 コメントが、一気に増えた。


〈こんばんは〉

〈きたー〉

〈おつかれさま!〉


 僕も、挨拶を一つ送った。


 ほかの人の挨拶に混ざって、すぐに流れていく。


『今日はね、先に一個だけ聞きたいんだけど。配信のタイトル、日付合ってる?』


〈合ってるよ〉

〈今日は大丈夫〉


『今日は、って何! ……いや、昨日は間違えたけど。直したから!』


 ほしなが笑う。


 僕も、いつもの椅子で笑った。


 机の端には、事務所からもらった資料がある。


 スマートフォンには、新しく知った人たちとの連絡先。


 誰にも見せるつもりのない、推しとの短いやり取り。


 配信が始まっても、それらは消えなかった。


 日曜日には、初めて会う人たちがいる。


 たぶん、みんな、僕を女の子だと思っている。


 久我さんへ相談したいことが、一つ増えた。


 それから、歌の先生に、ダンスの先生。


 食事へ誘ってくれた同期。


 最後に、ほしな。


 順番に考えていたら、推しに会えるうれしさだけでは済まなくなってきた。


 まず、何を着ていけばいいのだろう。


 挨拶は。


 歌は。


 踊りは、そもそも、どこから練習すればいい。


 画面の中のほしなが、ゲームを起動する。


 僕はマウスを握りかけて、手を戻した。


 今日は、こちらが戦う日ではなかった。


 代わりに、日曜日の予定表を開く。


 ダンスの文字が、ちゃんと残っている。


 推しと一戦したかっただけなのに。


 どうして次の日曜日、僕のほうが歌って踊る予定になっているんだ。


 ほしなの声を聞きながら、僕は、室内用の靴を買い物リストの一番上へ動かした。


一章の本編はこれにて完結ですが、おまけ(サイドストーリーとあとがき)がもう一話続きます。

引き続きお楽しみください。

楽しんでいただけたら、ページ下の☆☆☆☆☆から評価をいただけるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。