第十話 王子様は真実を知る。
「この莫迦がっ!」
国王である父上に叱責されて僕、王太子エルトンは項垂れた。
「まだ魅了ならマシだった。古代の魔導だったため現代の魔導では対応出来なかったと言えるからな。だがそなたは単なる娼婦の誘惑に乗り、背後の教団に洗脳されておっただけだ。色仕掛けには気をつけろと、口を酸っぱくして言っていたのを聞いてなかったのか?」
「申し訳ございません、父上」
「おかげでシャーリー嬢との婚約まで解消されてしまった。そなたがひとり息子でなければ、太子を廃しているところだ!」
「お言葉ですが父上……」
「なんだ?」
僕は、ずっと気になっていたことを尋ねることにした。
「たかが伯爵令嬢との婚約がそんなに大切なのでしょうか?」
「シャーリー嬢は神涙獣殿の愛し子だ。彼女が神涙獣殿の加護を受けていたから、そなたにも加護がもたらされていた」
神涙獣の加護は、自身の魔力で愛し子を包むものだという。
愛し子が大切に思う者がいれば、そちらにも加護の力は及ぶ。加護は魔導から守るとともに、受けた者の魔力を高める効果がある。
ただ、人間の悪意や物理的な暴力には効果がない。
「そなたの魔導の成績は、神涙獣殿の加護に底上げされてのものだったのだ」
「なんですって? だ、だったらあの女の成績も優秀なはずでしょう?」
「つくづく話を聞いていないのだな。あの娼婦の監視兼護衛をしていた滅亡の日教団の狂信者は教員だった。娼婦の入学試験や普段の成績を誤魔化していたように、シャーリー嬢の成績も細工していたに決まっているだろうが」
狂信者の教員はひとりだけだったが、さまざまな状況で誤魔化しを続けるため数人の教員がペルブランディによって引き込まれていた。
気がついたらひとり息子に兄弟が出来ていた、と父上が嗤う。
娼婦だった彼女は性病を患っていたので、僕と側近候補達、引き込まれた教員達はその治療後に罰を受けることになる。今は重症化していなくても、ほかの病気がきっかけで重症化するかもしれない。教員のひとりの妻は重症化して生死の境を彷徨っていた。もちろん夫からうつったのだ。
「なぜそんなことを?」
「そなたの心をシャーリー嬢から引き離すために決まっておろう! 王宮の教育では優秀だったのに、学園での試験になると緊張するのだろうと深く気にしなかった私達にも問題はあるがな」
父上は溜息を漏らした。
「シャーリー嬢の優しさに感謝しろ。きちんとこれまでのことを調べて、そなたの彼女への仕打ちを知って唖然としたぞ。彼女の婚約者でなくなったそなたが神涙獣殿に捻り潰されないでいるのは、シャーリー嬢が止めてくれているからだろうよ」
「そんなっ! そんなことなら、なぜもっと早く教えてくださらなかったのです? あの女が神涙獣の愛し子だと知っていれば、僕だってもっと……」
「そなたがそんな心根だからだ! 神涙獣殿も伯爵も、王家がねじ込んだこの婚約を良く思っていなかった。これ以上虫が寄ってこないようシャーリー嬢が神涙獣殿の愛し子であることは秘匿し、それを知らなくてもそなたが彼女を愛したら結婚を許すという形での婚約だったのだ」
伯爵家には神涙獣の愛し子が現れることが多く、王家は以前から密偵を放って見張っていたらしい。
だからあの女がそうだとわかったとき、すぐに僕との婚約を打診したのだ。正確には打診という名の王命で、断ることは許さなかったのだろう。
僕の前に立ったときの彼女は、いつも怯えたような顔をしていた。




