第1章 - 第8話
地面が、うねった。
三人が同時に手をかざすと、足元の土が巨大な塊となって二人をめがけて撃ち出される。
「っ……!」
二人は、それぞれ横へ跳んで避けた。
「あんな奴らを、守護者にしてたまるか!」ドラゴが大剣を構える。
「……同感ね」魔人族の少女が杖を握り直す。
消耗しきった二人と、無傷の三人。それでも、引く気はなかった。
「くらいなさい!――『光の矢』 」
少女が攻撃を放つ。それと同時にドラゴも敵に向かって飛び出す。
だが――。
ちょうど少女の放った光の矢の軌道が、突っ込んだドラゴの背中と重なる。
慌てて矢を逸らす少女。しかし何発かドラゴにかすってしまう。
「痛っ! おい、どこ狙ってんだよ!」
「あんたこそ邪魔よ! 直撃しなかったことを感謝しなさい!」
いがみ合う二人。
「おいおい、どこを狙ってるんだ? 攻撃ってのはこうやるんだぜ! 『エアーズ・ロック』!!」
再び、地面から巨大な土の塊が空中に浮かび、ドラゴに向かって放たれる。
ドラゴはそれを大剣で受け止め、後ろに弾き飛ばす。しかし――。
「きゃっ……!!」
弾き飛ばした土の塊が少女の立っている場所に飛んでいき、あやうくぶつかりそうになる。
「ちょっと、赤頭! 周りをみなさいよ!」
「うるせーな! そんなところに突っ立ってるからだろ!」
その様子を見て、三人組がげらげらと笑い出した。
「なんだよ、強え奴らかと思ったら大したことねえな! やっぱり魔人族ってのは、ロクなもんじゃねえ!」
その一言に、少女の目の色が変わった。
「……取り消しなさいっ! 『光の槍』!!」
杖を振りかざし、光魔法を叩き込む。――だが、すでに体力も魔力も限界に近い。
冷静さを欠いた攻撃は、三人の土壁に、あっさりと防がれてしまった。
「はっ! 魔人族っつっても、この程度かよ!」
くそっ。少女が、奥歯を噛む。こんなところで、こんな奴らに、負けられない――。
――すると、その横でドラゴが唐突に口を開いた。
「なあ。お前、名前はなんていうんだ?」
少女が、目を丸くしてドラゴを見る。
「は……? 何よ、急に! ふざけてるの!?」
「違う! オレたちは、こんなとこで負けらんねえ。そのためには、協力するしかねえ!」
「協力?」
「そうだ! だから、今だけでもオレ達は一緒に戦う仲間だ! 仲間の名前くらい知っておかないとな!」
――仲間。
その言葉に、少女の胸の奥が大きく揺れた。同族以外から、そんなふうに言われたのは、生まれて初めてだった。
張り詰めていた何かが、ふっと緩む。そして、小さく――けれど、誇らしげに微笑んだ。
「……サシャ。私の名前は、魔人族のサシャ・ルミナスよ!」
ドラゴが、にっと、歯を見せて笑った。
「オレは、竜人族のドラゴ・ヴォルガッシュ! よし、サシャ――一緒に戦うぞ!」
「ええ!」
サシャの杖に、これまでとは比べ物にならない光が満ちる。
「行くわよ、ドラゴ! 私の光に合わせて、飛び出しなさい!」
「おう!」
「『光の矢』!! 」
サシャが光の矢を放つ。それと同時にドラゴも前に飛び出す。今度の矢はドラゴには全く当たらない。完璧な軌道で敵へと向かっていく。
「ちっ、『ロック・クライム』!!」
地面から土がせり上がり、土壁を形成していく。正面からのサシャの光の矢を防ぐ。
すると、ドラゴは壁の横に回り込み、大剣を構える。
「『竜の咆哮』ッ!」
横薙ぎの衝撃波が、土壁の後ろにいた三人をまとめて吹き飛ばした。
「ぐあ! な、なんだこいつら、急に動きが……!」
慌てて距離を取る三人。だが、二人の猛攻は止まない。
ドラゴが、地を蹴って一気に距離を詰める。同時に、サシャが叫んだ。
「ドラゴ、合わせなさい――『光の槍』ッ!!」
放たれた光の槍が敵に向かっていく。ドラゴもその攻撃に続くように剣を構える
――すると、サシャの放った光の槍がドラゴの大剣めがけて、吸い寄せられていく。
「うわ! なんだ!?」
無骨な刃が、サシャの光を呑み込んでいく。剣身が、目も眩むような光のオーラを纏った。
「オレの大剣に、あいつの光が集まってくる……!」
これは、サシャの能力なのだろうか。その正体はわからない。ただ、凄まじい魔力が大剣に溢れている。
「上等だ! くらええッ――『光竜の爪』!!」
振り抜かれた斬撃が、轟音とともに空間を切り裂いた。
三人が必死に張った分厚い土壁が、まるで一枚の紙のように、あっさりと両断される。
光の奔流に呑まれた三人は、悲鳴を上げる間もなく地に沈み――やがて、光に包まれて、フィールドの外へと転送されていった。
あとには、静かな草原と、切り裂かれた土の壁の跡だけが、残された。
「……やったな」
戦いを終えたドラゴとサシャは互いに近づき、手を上げ――
ハイタッチをしようとして、二人ともハッと我に返り、ぎこちなく手を下ろす。
「……」
「……」
サシャが、ふっと笑った。
「もう、あんたと戦うって感じじゃ、なくなっちゃったわね」
「だな。――最後まで生き残ったら、また会おうぜ!」
二人は、どちらからともなく背を向けた。
そして、それぞれのサバイバルへと、再び歩き出していった。




