第1章 - 第7話
「最終試験は――『サバイバル』だ」
パウルの声に、合格した八十六人が息を呑んだ。
「お前らを、広いフィールドにランダムで転送する。制限時間は、明日の日の出まで。その間、互いに戦いあえ。戦闘不能になった奴は、自動的に外へ転送――失格だ」
ざわめき。パウルは構わず続ける。
「さらにフィールドには、魔獣の姿をしたゴーレムも大量に放ってある。そいつらとも戦い、日の出まで生き残った者を、合格とする。これが、最後の試験だ」
今はまだお昼時。これから半日以上、気を抜くことが許されず、かつ戦い続けないといけない。
単純な強さだけでなく、忍耐力、精神力も、丸ごと試される。
ドラゴとトジは、顔を見合わせる。
「最後に、またここで会おうぜ。次会う時は――」
「うん。お互い、守護者だ」
パウルの号令とともに、二人の足元に、魔法陣のような光が広がった。
徐々に視界が白くなり――次の瞬間、ドラゴは、見渡す限りの草原に立っていた。
「よっしゃー! やってやるぜ!」
ドラゴは意気揚々と進み始めた。
◆◆◆
「いくぜ――『竜の咆哮』ッ!!」
大剣が、思いきり横に振り抜かれた。
刃から赤い衝撃波が扇のように広がっていく。
空気を震わせる轟音とともに、 群がっていたネズミの魔獣型ゴーレムがまとめて吹き飛んだ。
「……ふう。こんなもんか」
ドラゴは、剣を肩に担ぎ直すと、ぐるりと辺りを見回した。
もう、周囲に動くものは、一つもない。
「にしても、ネズミとかもいるのかよ。もっとデカいやつなら、一撃で済むのによ……」
早速、魔獣型ゴーレムとの戦いを繰り広げていたドラゴ。
しかし、的が小さく、すばしっこく動く小動物の群れに地味に体力を削られ、思わずぼやく。
これが明日の朝まで続くと考えると、この試験がいかに過酷であるかが伝わってきた。
それからしばらく歩いていると、ひらけた場所で誰かが戦っているのが見えた。
黒いローブ。あの、魔人族の少女だ。
「『光の矢』 」
彼女が杖を一振りすると、無数の光の矢が放たれ、熊の姿をした魔獣型ゴーレムが一瞬で蜂の巣となった。その数と力はまさに魔人族の強さを象徴するものであった。
ドラゴの目が、ぱっと輝いた。
敵を見つけたというのに、どこか喜んでいるようであった。
「おい、お前!」
ドラゴはいきなり少女の前に姿を現し、剣先を向ける。
「すげえ魔力持ってたやつだな! 魔力量じゃ負けたけど――戦いなら、負けねーぜ!」
大剣を構えて、何のためらいもなく少女に突っ込んでいく。
「……は? 何あんた?」
少女の杖の先に、眩い光が収束する。
「『光の盾』」
キィンッ――。 光によって生み出された盾が大剣を弾き、ドラゴは後退する。
「やるな! まだまだいくぜ!」
ドラゴが地を蹴り、さらに大剣を叩きつける。しかし少女は、涼しい顔をして、光の盾でそれを受け止めた。
「これならどうだ――『竜の爪』ッ!!」
ドラゴの必殺技が繰り出される。その威力はすさまじく、光の盾にひびが入る。
これには少女も盾が砕けるより早く、横へ跳んで距離を取る。
「ふんっ、馬鹿力ね――『光の矢』」
返す刀で放たれる光の矢の雨。ドラゴは大剣を振り回して、その大半を弾き飛ばした。
草原に光の粒子が、火花のように舞い散る。
激しく剣と魔法を交えながら戦う二人。
猪突猛進に攻撃を仕掛けるドラゴ、巧みな技でそれを躱しながら戦う魔人族の少女。
繰り返される攻防に、お互い少しずつ消耗していく。
そんななか、ドラゴがふと口を開いた。
「なあ。お前ら魔人族が、魔獣を生み出してるって噂――あれ、本当なのか?」
それまで顔色一つ変えずに戦っていた少女の眉が上がった。
「っ……、そんなわけないでしょ!!」
光の出力が、一気に跳ね上がる。ドラゴは弾き返しながら、けろりと笑った。
「ようやく人間らしい表情になったな!」
「ふざけないで!」
「別にふざけてなんかないぜ! 確認したかったんだよ」
「確認?」
ドラゴは答える。
「魔人族っておめーみたいな強くてすげえ奴らなんだろ? そんな奴らが、わざわざそんなくだらねえことするわけねえってな!」
一切の曇りもない、まっすぐな声だった。
少女が、一瞬、攻撃の手を止める。
「……知ったようなこと言わないで! あんたに魔人族の何がわかるっていうのよ!」
「詳しいことはわかんねえけどよ、戦えばそいつがいい奴か悪い奴かくらいはわかるだろ?」
あまりにも愚直で論理性に欠ける言葉に、魔人族の少女も思わず呆れたように笑う。
「あんた、相当馬鹿ね……」
「今朝、もっと勉強しろって言われたばかりだ」
ドラゴは試験開始前にトジに言われたことを思い出して笑う。
「でもよ……」ドラゴは続ける。
「なんでお前、もっと周りの奴らに言い返さねえんだ?」
少し表情の緩んでいた少女の顔が、一瞬にして曇る。何かが彼女の逆鱗に触れたようであった。
杖を強く握りしめる少女。それから、絞り出すように言った。
「……魔人族を差別する人間は、こっちがどれだけ否定したって、聞きもしない。口でいくら言ったって、無駄なのよ」
緑の瞳に、静かな炎が宿った。
「だから私は、守護者になる。魔人族が、世界を護る存在だって――この身で、証明してみせる。そのために、こんなところで負けるわけには、いかないの!」
光が、これまでで一番強く、彼女の全身を包んだ。
ドラゴは、その言葉をまっすぐ受け止めて――にっと笑った。
「なるほどな! そりゃあ、いい夢だ! ……けどな、オレだって負けらんねえ!」
ドラゴも強く大剣を握りなおす。
それと同時に――右腕に、赤い鱗が浮かび上がる。そしてドラゴの魔力が一気に膨れ上がる。
「オレは、この星でNo.1の守護者になる! 人種だの、歴史だの、難しいことは抜きにして――みんなが、うまい飯食って、笑ってられる世界を護るんだ!」
少女が、ほんの少し、目を見開いた。規模はまるで違う。けれど根っこは、自分とよく似た夢だった。
「『光の槍』!!」
「『竜の鱗』ッ!!」
空中に巨大な光の槍が現れ、ドラゴに向かって放たれる。その魔力量は計り知れないものであった。
しかしドラゴは全く怯まない。赤い竜の鱗に覆われ、強化されたドラゴの右腕から大剣が振り下ろされる。
互いの持つ最強の技が、譲れない想いとともにぶつかり合う。
そして――
凄まじい衝撃波でドラゴと少女のどちらも吹き飛ばされる。
土煙が晴れると、二人は片膝をついて座り込んでいた。ともに武器を握る手は微かに震え、立ち上がれないでいた。
二人とも、もう限界が近い。
「はぁ……はぁ……つ、強えな、お前」
「あんたこそ。まさか私の攻撃を防ぎきるなんてね」
どちらからともなく、ふっと、笑みがこぼれる。
種族も、レッテルも、関係ない。ただ、全力でぶつかり合った者同士の、清々しい笑顔だった。
――その時だった。
「へへっ。いいザマだなあ」
草むらから、声がした。
ドラゴと少女が、はっと声のほうを見る。
現れたのは、三人組の男。それまで戦ってきたような様子はなく、体力、魔力ともに万全の状態であった。
ドラゴは、その顔に見覚えがあった。
「お前ら……あの時の!」
街で、トジと女の子を襲った、あの三人組だった。
「バケモノじみた奴らが戦ってたから、お互い潰し合うのを待たせてもらった」
男たちは意地の悪そうな顔で笑う。
「それに、そっちの赤頭のガキには借りがあったな。ちょうどいい。あの時のお礼、たっぷりさせてもらうぜ」
男たちが戦闘態勢に入る。
ドラゴは、震える手で――ぎり、と大剣を握り直した。




