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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第6章

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第6章 - 第7話


 振り下ろされる、丸太のような腕と、巨大なハンマー。


 膝を折ったライラに、避ける手立てはない。




 「――ライラァッ!」




 ゴウエンが吠えた。


 この距離を、この巨体で走って詰めるのは、どうやっても間に合わない。



 担いだ大盾を、渾身の力で地面へ叩き込む。




 「『大地の城壁(テラ・ウォール)』!」




 ライラの眼前で、地面が爆ぜた。



 ――だが、ほんの一瞬、遅い。


 突き上がった岩の壁は、ハンマーをまともに受け止めた。


 けれど、もう一体の腕を防ぐには、まだ丈が足りていなかった。



 壁の上端が、削ぎ飛ばされる。


 砕けた岩の向こうから、丸太のような腕が、そのまま振り抜かれた。




 「――っ、がっ!?」




 ライラの身体が、まともに殴り飛ばされる。


 石畳の上を二度跳ねて、壁際まで転がっていく。



 その、同じ瞬間。


 離れた場所に立っていたゴウエンの身体に激痛が走る。




 「ぐ、ああっ……!」




 誰にも触れられていない。


 なのに、脇腹を殴り砕かれたのと同じ衝撃が、内側から突き上げてくる。



 膝が、勝手に地面へ落ちた。


 盾を支えにして、かろうじて倒れずに踏みとどまる。




 「……っ、はっ……!」




 転がったライラが、刀を支えに身を起こす。


 口の端を、手の甲で拭った。



 二人同時に、膝をついている。


 殴られたのは、片方だけなのに。



 ――そこから先は、ただ、同じことの繰り返しだった。


 斬撃。打撃。地面ごと砕くような、重い蹴り。


 二体の番人による、嵐のような攻撃。



 ゴウエンが盾で防ぐ。


 衝撃が腕を伝って彼を打つ。


 その痛みがライラの剣を鈍らせる。


 隙を突かれたライラを庇って、ゴウエンはまた壁を立てる。



 防戦一方。


 そこに、いつもの二人の動きはない。




 「……おい、嘘だろ」




 外野で、ドラゴがぽつりと漏らした。




 「あいつら、さっきから護るだけで、全然戦えてねえ」




 「ええ」




 サシャが、杖を胸の前で握りしめたまま、唇を噛む。




 「ゴウエンが護れば、ライラが止まる。ライラが止まるから、ゴウエンは護り続けるしかない。……攻めに回れる隙が、どこにもないわ」




 だが――その時。


 ハンマーが、ゴウエンの盾へ真上から落ちた。


 ゴウエンは、歯を剥いて、盾ごと腰を落とす。




 「おおおおっ!」




 ガアァンッ――!


 衝撃が、盾を抜けて腕を駆け抜ける。



 それでも、ゴウエンは一歩も退かない。


 番人の巨体との力比べ。


 二人の動きが止まった、その一瞬。



 その隙を、ライラは見逃さなかった。




 「――もらった」




 ライラの姿が、紫の光になった。




 「『紫雷閃(しらいせん)』!」




 動きの止まった番人を、横から、光が走り抜けた。



 ぱきん、と。


 硬い何かが砕ける、小さな音がした。



 番人の装甲の内側で、赤い光が、ふっと消える。


 巨体が、膝から崩れ落ちた。




 「やった……!」




 外野で、ミーナが跳び上がる。




 「倒したニャ! 一体、倒したニャ――」




 その声が、途中で止まった。



 崩れ落ちた番人の、砕けた装甲の隙間。


 そこで、消えたはずの赤い光が、じわりと灯り直していた。



 ぎち、ぎち、と関節が鳴る。


 砕けた破片が、吸い寄せられるように戻っていく。




 「……そんな」




 サシャの声が、かすれた。


 立ち上がった番人は、傷ひとつない姿で、またハンマーを担ぎ直していた。




 「倒しても……戻るのか」




 ドラゴが、呆然と呟く。


 カイトが、低く息を吐いた。




 「『同時に破壊しろ』……遺跡が言ってたとおりっすね」




 「でも、そんなの……」




 ミーナの耳が、ぺたんと寝たまま動かない。




 「あんな一瞬の隙で、二体同時になんて、無理ニャ……」




 番人の猛攻は、止まらない。


 一度でも攻めに転じれば、その隙を二体がかりで突かれる。


 護りに徹すれば、ただ削られていく。



 数えきれないほどの連撃を浴び続け、ライラとゴウエンは、じりじりと後ろへ追いやられていく。



 ついに――ゴウエンの背中が、闘技場の壁にぶつかった。


 もう、後ろはない。



 二人とも、肩で大きく息をしている。


 ゴウエンは膝に手をつき、ライラは刀を支えにして、なんとか立っていた。




 ……くそっ……俺の盾が、中途半端なせいだ




 ゴウエンは、ぎりりと奥歯を噛んだ。




 ……防ぎ切れてねえから、衝撃がライラに漏れる。俺が痛みをもらえば、ライラの動きまで縛っちまう




 盾を握る手が、小刻みに震えている。


 その震えを止めようとして、もっと強く握りしめた。




 ……俺のせいで、ライラが……




 その、時だった。


 ふらり、と。



 ライラが、ゴウエンの前に、すっと進み出た。


 そして、背中を預けるように、ゴウエンへとその身を寄せる。




 「ゴウエン」




 前を見据えたまま、ライラは静かに言った。




 「私の『命』、貴殿に預けるぞ」




 その言葉に、ゴウエンの心臓が、どくんと跳ねた。




 「なっ……何を言ってんだ、ライラ!?」




 「聞け」




 ライラの声は、こんな状況だというのに、不思議なほど落ち着いていた。




 「さっきの一撃で、はっきりした。あの番人は、核を砕いても、片方だけでは戻る。……二体同時に、極大の一撃で撃ち抜くしかない」




 ライラは、刀をすっと前に構えた。




 「これより私は、防御にも、回避にも、一切の魔力を回さん。ただ、この刀に、百パーセントの雷を溜め続ける」




 ゴウエンの息が、止まった。


 その意味を、理解してしまったからだ。




 「その間――数十秒。私は、避けることも、防ぐことも、できん。完全に、無防備になる」




 「バカを言うな!」




 ゴウエンが、思わず叫んだ。




 「今の俺の盾じゃ、衝撃までは殺し切れてないんだぞ! さっきだって、俺はお前を護りきれなかった! 無防備なまま、あんな一撃をもらってみろ! その痛みは二倍になって……二人とも、死ぬかもしれないんだ!」




 声が、震えていた。


 目の前の背中を、護りたい。


 そのために、努力もしてきた。


 守護者にもなった。



 なのに、自分の盾は、まだそれを護り切れていない。


 その未熟さを、直接、痛感した。



 けれど。


 ライラは、一度も振り向かなかった。


 ただ、まっすぐ前の番人を見据えたまま――ふっと、笑った。




 「ならば、簡単な話だ」




 その横顔には、追い詰められた者の色が、ひとつもなかった。




 「衝撃すら、ただの一つも通さない――『完璧な盾』を、作ればいい。それだけのことだろう?」




 ゴウエンが、息を呑む。




 「私の『最強の剣』と、お前の『最強の盾』。組み合わされば、敵などいない」




 ライラは、静かに、けれど確かな声で、問いかけた。




 「……私の背中、護りきれないか?」




 その瞬間。


 ゴウエンの震えが、ぴたりと止まった。



 ライラは、自分を信じている。


 一切の防御を捨ててなお、ゴウエンの盾なら、自分を護り切れると。


 命をまるごと、預けてくれている。



 その、揺るぎない信頼の前で。


 迷うことなど、できるはずがなかった。


 ゴウエンは、ぐっと顔を上げた。




 「……護りきれないわけ、ねえだろ」




 地の底から響くような、太く、低い声。



 ゴウエンは、巨大な盾を両手で握りしめ、ぐっと前へ構えた。


 全身の魔力が、限界を超えて、ごうごうと燃え上がっていく。


 足元の地面が、ずず、と震えはじめた。




 「お前は――前だけ、見てろ!!」



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