第6章 - 第6話
ぶつ切りの声が、ふたたび闘技場に響き渡る。
『サイゴノ、シレンヲ、カイシ、シマス。コレヨリ、ペアノ「マリョク」ヲ、ツヨク、ムスビツケマス』
「魔力を結びつける……? どういうこと?」
サシャが眉をひそめた。
手首の腕輪が、これまでより一段と強く光る。
銀色だった表面に、脈打つような赤い筋が走った。
『ドチラカガ、キズツケバ――モウヒトリモ、オナジ、イタミヲ、ウケマス。フタリデ、ヒトツノ、カラダ、デス』
「うわ……痛みまで、分け合うってことっすか」
カイトが、げんなりと顔をしかめた。
「待って。それって……」
サシャの声が、わずかに硬くなる。
「片方が深い傷を負えば、無傷のもう片方も、同じダメージを負うってことよね。二人がかりで戦う意味が、ほとんど消える――」
「……そんなの、ひどすぎるニャ」
ミーナが、ぺたんと耳を伏せた。
『ナオ、コノシレンハ、イママデノ、シレンヲ、スベテ、クリアシタモノ、ダケ、チョウセン、デキマス』
その言葉に、闘技場が、しんと静まった。
すべての試練をクリアしたのは――ライラと、ゴウエンの二人だけ。
ドラゴが、ばっと顔を上げる。
「おい、待てよ。じゃあオレたちは――」
声が、途中で止まった。
自分の手首を見る。
腕輪は、もう光っていない。
試練の資格を失った者の腕輪は、ただの銀の輪っかだった。
見ているしか、ない。
ライラが、すっと立ち上がる。
ゴウエンも、無言で巨大な盾を担ぎ直した。
二人は、迷うことなく中央へと歩み出る。
その瞬間。
ドォン――と、闘技場全体が、激しく揺れた。
地面が割れ、中央から、何かがせり上がってくる。
二体。
今までの土のゴーレムとは、まるで違う。
見上げるほどの巨体。
全身を覆う、黒く光る装甲。
そして、その目には、ぎらりと赤い光が宿っていた。
一体は、丸太のような両腕を持つ。
もう一体は、自分の背丈ほどもある巨大なハンマーを担いでいた。
ただの石像じゃない。
生きている。
そう錯覚させるほどの、ぴりぴりした殺気が、全身から立ちのぼっている。
『フタリノ、バンニンダ。ドウジニ、ハカイ、シナケレバ――ナンドデモ、フッカツ、スル』
外野のドラゴが、ごくりと唾を飲み込んだ。
「おい……あれ、ヤバくねえか? 今までの奴らと、放ってる空気が……まるで違うぞ」
誰も、軽口を叩かなかった。
あれは、ただの訓練の的じゃない。
本物の、化け物だ。
ライラが刀の柄を握り、ゴウエンがその背に寄り添う。
いつも通りの、布陣。
『ソレデハ――ハジメ』
合図と同時。
二体の番人が、地を蹴った。
巨体が、信じられないスピードで突っ込んでくる。
あんな図体で、なぜこんなに速い――そう思う間もない。
「はあっ! ――『紫雷閃』!」
ライラが、紫電をまとって一体に斬りかかる。
今までのゴーレムなら、簡単に両断されていた一撃だ。
だが、番人は――その巨体からは想像もできない身のこなしで、ひらりと刃を躱した。
「なっ……!」
外野で、サシャが息を呑む。
そして、番人の丸太のような腕が、裏拳となって振り抜かれた。
「くっ!」
ライラは間一髪、刀の腹を盾にして受け止める。
だが、防ぎきれない。
凄まじいパワーに、身体ごと後ろへ弾き飛ばされた。
腕に、ビリビリと痺れが走る。
その、瞬間だった。
ずっと後方で、援護の構えを取っていたゴウエン。
彼の腕が、びくんと跳ねた。
「ぐっ……!?」
ライラの腕を襲った痺れが、そのまま、ゴウエンの腕にも流れ込んだのだ。
何もしていないのに、いきなり全身に走った衝撃に、巨体がぐらりとよろめく。
たたらを踏んだ、その一瞬の隙。
もう一体の番人が、ゴウエンの頭上に回り込んでいた。
両手で振りかぶった、巨大なハンマー。
「ゴウエン、上だ!」
ライラの叫びと同時に、ゴウエンは歯を食いしばった。
背丈ほどもある『大地の塔盾』を、頭上へ掲げる。
盾の表面に魔力が走り、分厚い岩の層がみるみる覆っていく。
「――『剛岩の盾』!」
――ズガァァァン!!
凄まじい音とともに、ハンマーが盾に叩きつけられた。
岩の層に、ばきりと深い亀裂が走る。
盾は、なんとか砕けなかった。
だが――殺しきれなかった衝撃が、腕を伝って、ゴウエンの身体を内側から打つ。
「ぐぅっ……!」
腕の骨が、ぎしりと軋む。
内臓が、ぐらりと揺れた。
その瞬間。
離れた場所で、ようやく体勢を立て直し、反撃に移ろうとしていたライラ。
その顔が、ぐにゃりと苦痛に歪んだ。
ゴウエンの痛みが、そっくりそのまま、流れ込んでくる。
踏み込もうとした足から、がくんと力が抜けた。
「しまっ……!」
膝が、折れる。
ライラの動きが、ぴたりと止まった。
「……待ってよ」
外野のサシャが、杖を握りしめたまま、かすれた声を漏らす。
「ライラが攻撃をもらえば、ゴウエンの動きが止まる。ゴウエンが庇えば、その衝撃でライラの足が止まる」
カイトが、ぽつりと続けた。
「……それ、どっちかが動くたびに、もう片方が止まるってことっすよね」
ライラがダメージを受ければ、ゴウエンの足が止まる。
ゴウエンが痛みを負えば、ライラの剣が鈍る。
庇おうとするほどに、二人は、互いの手足を縛り合っていく。
その、致命的な隙を――番人たちは、見逃さなかった。
二体が、同時に動く。
動きの止まったライラめがけて、丸太のような腕とハンマーが、容赦なく振り下ろされた。




