第6章 - 第3話
二体のゴーレムが、左右から同時に動き出した。
ずしん、ずしんと地面を踏みしめ、丸太のような腕を振り上げる。
右のゴーレムはドラゴへ、左のゴーレムはサシャへ。
二人を狙って、拳が同時に振り下ろされた。
「来るぞ!」
「言われなくてもわかってる!」
ドラゴは、迫る拳を真っ正面から大剣で受け止めた。
一歩も退かない、力ずくの真っ向勝負。
対するサシャは、ふわりと後ろへ跳んで、拳を軽々と躱す。猫のように身軽な後退。
踏みとどまるドラゴと、跳びのいて下がるサシャ。
二人の距離が、ぐん、と開いた。
腕輪から、鋭い光がほとばしる。
全身の骨という骨が、内側からビリビリと震えた。息が、一瞬で詰まる。
「「っ、ぐあぁぁっ……!?」」
たまらず、二人の膝が揺れた。
「いってぇな! おい、サシャ! なんでお前、避けてんだよ!」
「はぁ!? あんたこそ、なんであんな直線的な攻撃を、わざわざ受け止めてんのよ! 避ければいいでしょ、避ければ!」
「下がったら、剣の間合いから外れるだろ!」
「魔法使いは下がって撃つものなの!」
ぎゃあぎゃあと言い争いながらも、二人はなんとか距離を保ち、二体を叩き落とした。
が――それで終わるはずもない。
ずず、ずずずっ。地響きとともに、今度は三体。それも叩き落とせば、さらに四体。
土を割って這い出してくる。
敵の数が増えるにつれ、余裕がなくなる二人。
ドラゴは前へ、サシャは後ろへ。
考えるより先に、お互いに思うがままに動いた。
そのたびに、腕輪が光る。
骨の芯まで震わせる痛みが、繰り返し二人を貫いた。
「くっ……」
「もう……やってられないっ……!」
防ぐより先に間合いが崩れ、痛みに体力を奪われて。
四体目を倒す前に、ドラゴとサシャは、とうとう闘技場の真ん中にへたり込んだ。
肩で大きく息をして、もう立ち上がる力も残っていない。
『……リタイア、デス』
無機質な声が、無情に響く。
外野で見ていたカイトが、ぽりぽりと頬を掻いた。
「うわぁ……完全に、やられてるっすねぇ」
「やれやれだニャ。あんなにケンカしてたら、合うものも合わないニャ」
ミーナがやれやれと肩をすくめ、それから、ぴょんと胸を張った。
「でも大丈夫! アタシとカイトなら、もっとうまくやれるニャ! ね、カイト!」
「まあ……あの二人ほど、不器用じゃないっすからね。ほどほどに、サクッと行きましょうや」
のんびりと、カイトが腰を上げた。
ミーナも、ぴょんと跳ねて、その隣に並ぶ。
入れ替わりに、ドラゴとサシャが、よろよろと闘技場の端まで引き上げてくる。
「おーい、気をつけろよ。あの腕輪、マジで容赦ねえからな」
ドラゴが、肩で息をしながら、ひらひらと手を振った。
「私、もうやりたくないわ……」
サシャが、疲れた顔で愚痴をこぼす。
「お疲れっす。おいらは、無理せず、ほどほどにするっす」
カイトは気の抜けた声で応じる。
その足元が、ぐん、とせり上がった。
ミーナごと、二人はそのまま闘技場の中央へと運ばれていく。
中央に立たされると、待ちかねたように、目の前の地面がずん、と盛り上がった。
土の塊がむくむくと形を変え、一体のゴーレムがせり上がる。
「よーし、来たニャ! カイト、いくニャ!」
「了解っす……合わせるっす」
――が、その余裕も、長くは続かなかった。
最初こそ、息は合っていた。
カイトが圧縮した水弾を撃ち込んで足を止め、ミーナがその隙に双短剣で斬りかかる。
なかなかの連携だ。
「いいぞいいぞ、その調子っす」
「にゃはは、楽勝だニャ!」
ところが、三体目が現れたあたりから、雲行きが怪しくなる。
ミーナの目が、きらりと光った。
戦いに、火がついたのだ。
「『跳び猫』っ!」
とん、と地を蹴る。
一段、二段、三段。
空中を蹴り上げ、ミーナは縦横無尽に跳ね回りはじめた。
宙でくるりと身をひるがえし、ゴーレムの拳を避ける。
猫そのものの、自由気ままな空中殺法。
カイトは、地上に取り残された。
さっきまで、すぐ横にいたはずだった。
なのに、ふと顔を上げれば――ミーナは、もう頭上の、ずっと高いところにいる。
「あ、あれ……ミーナさん? ちょ、ちょっと上に行き過ぎっす!」
「ニャに?」
ミーナの返事が、やけに遠くから聞こえる。
その、次の瞬間。
腕輪から光がほとばしり、骨を震わす痛みが、カイトとミーナの全身を貫いた。
「「いたぁぁぁっ!?」」
「ちょっと! おいら、空は飛べないんすけどー!」
「ご、ごめんカイトー!」
慌てて舞い戻るミーナ。
けれど、戦いの熱がぶり返すたび、その身体は、前に、上に、跳びはねる。
そのたびに間合いが開いて、あの痛みが走る。
六体目のゴーレムが現れる頃には――二人とも、肩で息をして、その場に座り込んでいた。
「……おいら、もう、無理っす……」
「痛いニャ……」
『……リタイア、デス』
闘技場の端に、力尽きた四人が、ぐったりと腰を下ろしている。
その光景を、少し離れたところから眺めていた二人がいた。
ライラとゴウエンだ。
ライラが、ふっと小さく息を吐く。
「むぅ……皆、ずいぶんと苦戦しているな。距離を保つというのは、案外に難しいものらしい」
「……まあな。だが、見ていて、なんとなくコツは掴めた」
ゴウエンが、静かに巨大な盾を担ぎ直した。
ちょうどそのとき、闘技場の中央に、新たなゴーレムがせり上がる。
次の挑戦者を待つように、ずん、とそびえ立った。
『デハ、ツギ。ソコノ、フタリ』
遺跡の声が、二人を呼ぶ。
ライラとゴウエンの足元の石畳がせり上がり、闘技場のど真ん中へと押し出される。
二人の足音だけが、しん、と静まった闘技場に響く。
ライラが腰の刀に手を添え、まっすぐ前を見据えた。
「頼むぞ、ゴウエン」
ゴウエンが、その背にぴたりと寄り添う。
「ああ――任せろ」




