第6章 - 第1話
「「「「「「訓練ー?」」」」」」
守護者本部のとある一室。
パウル教官の前にずらりと並んだ六人――ドラゴ、サシャ、カイト、ミーナ、ライラ、ゴウエンの口から、見事に揃った声がこぼれた。
とはいえ、その中身は、めいめい違う。
「えー、アタシ、今日は市場に、美味しいもの食べに行くつもりだったのにー」
ミーナが、猫耳をぺたんと寝かせる。
「おいらは、一日中、日向で寝てる予定だったんすけど」
カイトが、ふあぁと欠伸をこぼす。
「訓練なんかより、もっと実戦に連れてってくれよ。オレは、強くなりてえんだ」
ドラゴが、大剣の柄を、こつこつと叩いた。
「わざわざ呼び出しておいて。ちゃんと意味のある訓練なんでしょうね?」
サシャが腕を組み、帽子のつばの下から、じろりとパウルを見やる。
「はっはっは! サシャは厳しいな」
豪快に笑ったのは、ゴウエンだ。分厚い肩を揺らして、からりと続ける。
「こうして集められての訓練は、国軍兵のとき以来だな。懐かしいじゃねえか、ライラ」
「うむ。守護者になってからは、基本、個々に任されているからな。私は望むところだ」
ライラだけは背筋をぴんと伸ばしたまま、まっすぐ前を見て言い切った。
「お前らも、ライラとゴウエンを見習え」
パウルが腕を組んだまま、ドラゴたちを、じろりと見回す。
「今日お前たちにやってもらうのは、ただの鍛錬じゃない。『連携』の訓練だ」
「連携ぃ?」
ドラゴが、つまらなそうに眉を寄せた。
「そんなの、普段からさんざんやってるぜ。アクア・ヴィータじゃ、最後はガロウとだってちゃんと息が合ったしよ」
「……その、アクア・ヴィータの話だ」
パウルの声が、ぐっと低くなる。軽口の空気が、すっと引いた。
「あの件で、『ルシアン』と名乗る、得体の知れねえ奴の存在がはっきりした。それだけじゃねえ。ここ最近、あちこちで、きな臭い動きが報告されてやがる」
ミーナの猫耳が、ぴくりと立つ。
「えっと……つまり、悪いやつが、増えてきてるってことかニャ?」
「簡単に言うと、そういうことだ」
パウルが短く頷いた。
「強くなりたいって気持ちは、結構だ。だがな、ドラゴ。一人でがむしゃらに突っ込むだけじゃ、届かねえ相手が、これからどんどん出てくる。……現に、お前はそれを、肌で感じたはずだ」
ドラゴの肩が、びくっと跳ねた。
叩き返す言葉が、出てこない。柄を叩いていた指が、止まっていた。
「今までの連携のレベルじゃ、足りねえ。個々の力の向上はもちろん、その上で、仲間の力を自分の力に変える。それができて初めて、お前らは本物の戦力になる。――これは、生き残るための訓練だ」
それでも、ドラゴは唇を尖らせる。
「……けどよ。それよりも新しい技を――」
「文句を言うな! これも立派な、守護者としての任務だ!」
雷のような一喝に、新人たちが揃って首を縮める。
ただ一人、ライラだけは背筋を伸ばしたまま、眉ひとつ動かさなかった。
まっすぐに、パウルを見据えている。
「それで、パウル殿。我々は具体的に、何をすればよいのだ?」
「お前は本当に、いい返事をするな」
パウルが口元をわずかに緩め、外を顎でしゃくった。
「行けばわかる。ついて来い」
◆◆◆
――それから、数時間後。
一行は、守護者の演習場。その奥に広がる、深い森の中に立っていた。
目の前にそびえるのは、苔むした巨大な石の門。
びっしりと張りついた緑が、くぐってきた年月の長さを思わせる。
門の隙間から、ひやりと冷たい風が、絶え間なく吹き抜けていた。
「へぇ……こんなとこ、あったんすねぇ」
カイトが、めずらしく目を開いて門を見上げる。
「試験のときには、封鎖してた場所だからな」
パウルが、門に手を当てた。
「ここは『双星の試練場』。建物そのものが、でっかい一つの魔具になってる。中に入れば、自然と試練が始まる、って寸法だ」
ドラゴが大剣の柄をぱんと叩き、にやりと笑う。
寄っていた眉間の皺は、もうほどけていた。
「へえ……。ただの訓練場じゃなさそうじゃねえか。中に入って、パパっとクリアすりゃいいんだろ? ……ちょっと、面白くなってきたぜ」
その横で、ゴウエンが分厚い腕を組んだ。
「待て待て、ドラゴ。そんな簡単なもんじゃなさそうだぞ」
「そのとおりだ、ゴウエン」
パウルが、指を二本立てる。
「この中の試練は、全部『二人一組』でクリアしなきゃならねえ」
「二人一組……?」
サシャの眉が、ぴくりと寄った。
その、次の瞬間。
「組み合わせはこうだ。ドラゴとサシャ、カイトとミーナ、ライラとゴウエン。以上、三組だ」
しん、と一拍。
それから、サシャが弾かれたように顔を上げた。
「ちょっと待って! なんで私が、こいつとなのよ!?」
「こっちのセリフだっつーの」
ドラゴが、鼻を鳴らす。
「もちろん、組み合わせは後からも変える。まずは、現時点で能力的に相性のいい二人で組め」
パウルが、腕を組んだまま説明する。
「ちぇ、足だけは引っ張んなよ」
「引っ張るのは、絶対あんたのほうでしょ、単細胞!」
火花を散らす二人を横目に、ミーナが肩をすくめた。
「にゃはは……先が思いやられるニャ」
その隣で、カイトがミーナに話しかける。
「あー……おいら、後ろから援護だけしてるんで。前は、お願いするっす。ミーナさん」
「何言ってるニャ! アタシと一緒に、前線でバリバリ戦うニャ!」
ミーナが、その場でぴょんと跳ねた。その勢いに、カイトの目が、ほんの少し見開く。
「いや、そんな無茶な」
そして――最後の二人だけは、まるで温度が違った。
「よし、ゴウエン。組むのはいつも通りだな」
「おう。背中は任せとけ」
ライラとゴウエンは、言葉を交わすより早く、当たり前のように拳を突き合わせる。
長く肩を並べてきた者だけの、気負いのない手つきだった。
その様子に、パウルがふっと笑った。
「よし、準備はいいな。お前ら全員――健闘を祈るぜ」
教官に見送られながら、三組は、薄暗い遺跡の奥へと、同時に足を踏み入れた。
古い石の門が、ぎぃ……と低く軋んで、ゆっくりと閉じていった。
第6章が始まります。
引き続きよろしくお願いします。




