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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第5章 ──「カイトと、純粋な誓い(後編)」

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第13話 ──「約束、っす」


 こうして、アクア・ヴィータの内乱は、幕を閉じた。


 あれから、カイトもスイ姫も、無事に目を覚ました。



 ハングラルが残した言葉から、スイ姫の『浄化の力』によって、おかしな思考に染まった者を、元に戻せることが分かった。


 拘束されていた兵士たちも、一人残らず、目を覚まし、元の自分を、取り戻した。



 理由があったとはいえ、王族に剣を向けた罪は、消えない。


 本来ならば、その罪は、命をもって償うもの。


 けれど――兵士たちに下されたのは、国を追われる、という処分だけだった。



 レガリスをはじめ、ほかの国々で、もう一度、一からやり直す。


 その道が、残されたのだ。



 誰一人として、命を奪われはしなかった。


 それは、最後まで「これ以上、血を流したくない」と願った、この国の――スイ姫の、優しさの、かたちだった。



 命がけで姫を護ろうとした、護衛団長のグランヴェルも。


 深い傷を負いながら、どうにか、一命を取り留めた。



 水の国に、ふたたび、穏やかな日々が戻ってきた。



◆◆◆


 それから、数日後。


 傷も癒えたドラゴたちは、レガリスへ帰るため、城門の前に集まっていた。



 空は、よく晴れている。


 雲ひとつない、澄み切った青空。


 湖の水面が、朝の光を受けて、キラキラと、まぶしく輝いていた。




 「世話になったな、お姫様!」




 ドラゴが、にっと笑って、手を振る。




 「あんたの国、メチャクチャきれいだったぜ。また絶対、遊びに来るからな!」




 「ふふ。ええ、いつでも、お待ちしています」




 スイ姫も、やわらかく、笑い返す。


 その隣で、サシャが「ちょっとドラゴ、王女様になんて口の利き方よ」と小突き、ガロウは相変わらず、無言で、馬車に寄りかかっていた。



 いつもの、賑やかな空気。


 そんな中、一人の男が、杖をつきながら、ゆっくりと、カイトのほうへ歩いてきた。


 まだ傷の癒えきらない、護衛団長のグランヴェルだった。




 「……カイト殿」




 グランヴェルは、足を少し引きずりながら、カイトの前に立つ。


 そして、深く、頭を下げた。




 「あのハングラルを、倒すとは。……正直、まだ、信じられない気持ちだ」




 顔を上げた彼の目には、感謝と――それから、ほんの少しの、影があった。




 「どうだろう、カイト殿。よければ、このまま、うちの国に来ないか」




 カイトが、眠たげな目を、ぱちくりと、させる。




 「全く役に立たなかった、私なんかより。よほど、君のほうが、優秀だ」




 グランヴェルの声が、少しずつ、沈んでいく。




 「君なら……すぐに、団長にだって、なれるだろう」




 自嘲するように笑う。


 握った杖の先が、わずかに震えていた。



 カイトは、しばらく、その顔を、見ていた。


 それから、いつものように、ぽりぽりと、鼻の頭を掻いて。




 「……いやいや。あの人に勝てたのなんて、偶然っすよ」




 へらり、と気の抜けた声で言う。




 「何日も前から、念入りに準備して。死ぬ、ぎりぎりで。……最後は、スイ姫の力まで、借りて。やっと、っす」




 カイトは、肩をすくめた。




 「それに――あの人、途中から、ちょっと、動きがおかしかったっすからね」




 「……動きが?」




 グランヴェルが、眉を寄せる。


 カイトは、その顔を、まっすぐに、見た。




 「なんだか、片足を気にしてる感じがしてたっす。多分、グランヴェルさんたちと戦ったときに――足、痛めてたんっすかね」




 グランヴェルの、目が、見開かれる。




 「そうでもなきゃ、おいらなんて。……最初から最後まで、相手にも、なってなかったっすよ。あの人の、本気には」




 カイトの言葉は、ただ、淡々としていた。


 慰めでも、世辞でもない。


 ほんとうに、そう思っている、という口ぶりだった。



 グランヴェルは、何も言えなかった。


 ずっと、思っていた。


 姫を護れず、ただ、倒れただけ。


 自分は、何もできなかったのだと。



 だが――命を捨てる覚悟で、最後に斬り込んだ、ハングラルの足への、あの一太刀。


 あれが、姫を護る力に、なっていた。





 「……そう、か」




 やがて、絞り出すように、呟く。




 「私の、戦いにも。……意味が、あったのか」




 杖を握る手に、ぎゅっと、力がこもる。



 うつむいた、横顔。


 その目尻に、光るものが滲んでいた。



 カイトは、それには気づかないふりをして。


 「っす」とだけ、短く答えて、空を見上げた。



 その、少し後ろで。


 スイ姫が、ふと、二人のやりとりを見守っていた。



 それから、小さく息を吸って――カイトのほうへ、歩み寄る。




 「……カイトさん」




 「ん。なんすか、お姫様」




 水筒を肩にかけたカイトが、いつもの眠たげな目で振り返る。


 スイ姫は、少しだけ、言いにくそうに。


 それでも、まっすぐに、カイトを見上げて、言った。




 「あの……もし、よかったら。このまま、わたしの国に……残ってくれませんか?」




 その頬が、ほんのり、赤く、染まっている。




 「あなたみたいに、強くて、優しい人が、いてくれたら……わたし、すごく、心強いんです。あなたさえ、よければ……ずっと」




 精一杯の勇気を、振り絞った言葉だった。


 周りのドラゴたちが、おっ、という顔で、そっと二人を見守る。



 カイトは、少しのあいだ、黙っていた。


 それから――ぽりぽりと、いつものように、鼻の頭を掻いて。


 へらり、と、笑った。




 「いやー、それはちょっと、無理っすね」




 「……っ」




 「おいら、これでも一応、レガリスの守護者っすからね。それに――」




 カイトは、肩をすくめて、冗談みたいに続けた。




 「おいらは、事件もない、魔獣も来ない、そんなところで、のんびりスローライフをしたいっす。さすがに、王女様の護衛なんて、ハードすぎるっす」




 「そう、ですか……」




 スイ姫の顔が、ふっと、曇る。


 そんな姫を見て、カイトは、やわらかく、笑った。




 「――だから、いつか、この国を、争いなんか起きない、姫様に護衛なんて要らないくらい、平和で豊かな国にしてほしいっす」




 スイ姫が、顔を上げる。




 「その時は、ぜひ、おいらを、この国の警備軍として、雇ってほしいっす」




 その、少しおどけた、あまりに、いつも通りの、ゆるい返事に。


 スイ姫は、一瞬、きょとんとして――それから、ふっと、肩の力を、抜いて、笑った。


 少しだけ、寂しそうな。


 けれど、どこか、嬉しそうな、笑顔だった。




 「……ふふ、分かりました。約束、ですよ、カイトさん。わたし、この国を、もっともっと、平和にしてみせますから」




 「約束っす!」




 二人は、それきり、多くを、語らなかった。



◆◆◆


 馬車の車輪が、回りはじめる。


 ドラゴたちを乗せた馬車が、ゆっくりと、城門を後にしていく。


 スイ姫が、いつまでも、小さく手を振っているのが見えた。



 馬車の中。


 ドラゴは、膝の上で、拳を握りしめていた。


 その目は、まだ、どこか遠くを睨んでいる。




 「……あの商人」




 ぽつり、とこぼす。




 「次に会ったときは、絶対に、ぶっ飛ばす。あの剣ごと、まとめてな」




 腕を組んだガロウが、ふん、と鼻を鳴らした。




 「それは、無理だな。……あいつは、俺が斬る」




 「あぁん? なんだと!?」




 その様子を、ちらりと見て、サシャが、小さくため息をつく。




 「……あんたたち、せっかく二人で力を合わせたって、聞いたのに、またいがみ合ってるの?」




 「「うるせえ!」」




 声が、見事に、重なった。


 ドラゴとガロウは、気まずそうに、ぷい、と、顔を背ける。


 車内に、小さな笑いが、こぼれた。



 その、少し離れた席で。


 カイトは、窓の外の景色を、じっと見つめていた。



 白い城が。


 白い街並みが。


 きらめく湖が――少しずつ、後ろへと遠ざかっていく。



 いつもの、気だるげな顔のまま。


 半分閉じたような、眠たげな目で。


 けれど――その胸の奥には、彼自身にしか分からない、静かな熱が灯っていた。




 ……強く、なろう




 遠ざかる城を見つめながら、カイトは、心の中で、そっとつぶやく。



 この世界には、まだ、おいらの知らない、とんでもない化け物が、いる。


 そして、あの優しい姫は、これからも、その渦の中で、国を背負って生きていくのだ。



 次に、会うときまでに。


 もっと、もっと、強くなる。



 あの子の隣に立っても、恥ずかしくないくらいに。



第5章、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

想定よりも長くなってしまいましたが、無事、書ききることができました。

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