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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第5章 ──「カイトと、純粋な誓い(後編)」

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第12話 ──「今度は、ぶつからねえ」


 城の奥の一室では、まだ、激しい戦いが続いていた。


 ドラゴと、ガロウ。最悪に相性の悪い二人が、ルシアン一人を相手に、刃を振るい続けている。



 最初は、ひどいものだった。




 「おい、オレの前に飛び出してくんなよ!」




 「黙れ。そこで、ちんたらしているほうが悪い!」




 ともに戦うことを決めた二人。


 しかし、踏み込めば、肩がぶつかり、剣を振るえば、刃が、交差しかける。


 息を合わせるどころか、互いの動きが、ことごとく、邪魔をし合っていた。




 「っ、だから、オレの動きも見ろよ!」




 「知るか。お前が合わせろ!」




 だが。


 何度も、何度も、ぶつかり合ううちに。


 いつしか――。


 ドラゴが、右を攻めれば。ガロウは、左を攻める。


 ガロウが体勢を崩すと、ドラゴが敵を引き付ける。



 文句を、言い合いながら。舌打ちを、こぼしながら。


 それでも、二人の動きは、少しずつ、少しずつ、噛み合いはじめていた。



 口では、全く噛み合っていない。


 けれど――体のほうが先に動いてしまう。


 互いの呼吸を、言葉より先に、体が覚えはじめていた。



 戦いの嗅覚。獲物を狩る、本能。


 相性は最悪でも、その一点だけは。二人とも、誰より、鋭かった。




 「……なるほど。言葉や経験ではなく、本能のみで息を合わせる。これは、また、人を操る方法として使えそうですね」




 ルシアンが、薄く、笑う。




 「黙れ。お前に次はない」




 ガロウが、攻め立てる。




 「やれやれ、ちょっとうまくいっているからといって。こちらは、まだ、本気を出していないというのに」




 すると、ルシアンの指先から伸びた無数の見えない糸が、束になる。


 それは、見上げるほど巨大な、鋭い槍の形へと変わっていった。


 一本一本が、刃のように尖った、糸の塊。




 「そのご自慢の連携で、これが防げますかね」




 逃げ場のない極大の一撃が、二人めがけて放たれた。



 ドラゴとガロウは、互いに、目すら合わせなかった。


 だが――お互いの頭に、ふと、よぎるものがあった。



 この国に来る道中の、魔獣戦。


 あの時、二人は、同時に斬りかかった。


 そして――味方同士の刃が、ぶつかり、弾かれた。



 あの時の二人なら、きっと今回も、ぶつかって終わっていただろう。


 でも――。




 「今度は……ぶつからねえ!」




 ともに戦うと決め、互いに感じ取ってきた呼吸。


 そして、何より、この国を、スイ姫を、護りたいという想い。


 ――あの時とは違う。




 「「うおぉぉぉぉぉ!」」



 まったく同じタイミングで。まったく同じ、一点を狙って。


 二人は、それぞれの必殺技を解き放った。



 ドラゴの右腕が、びきり、と音を立てる。


 肘から先が、燃えるような赤い鱗に覆われ、魔力が膨れ上がっていく。




 「『竜の鱗(りゅうのうろこ)』――ッ!」




 鱗に包まれた腕が、大剣をぐっと握り直す。


 刃に、赤い熱が集まった。



 ドラゴは、大剣を渾身の力で振り抜く。




 「喰らえ――『竜の爪(りゅうのつめ)』ッ!!」




 竜が、獲物を切り裂くような、鋭い、赤の斬撃が、まっすぐに走った。



 同時に。



 ガロウの漆黒の刀から、ぞっとするような黒い闘気が、唸りを上げて噴き出す。




 「『鬼哭啾啾(きこくしゅうしゅう)』!」




 赤い光の斬撃と、黒い殺気の斬撃。


 あの日、ぶつかって、弾かれ合った、二つの刃が。


 今――空中で、ぴたり、と、重なった。



 赤と黒が、らせんを描き、一つの、凄まじい一撃へと姿を変えていく。


 鬼のような殺気をまとった、赤黒い、竜の爪――。




 「――『鬼竜の爪(きりゅうのつめ)』!!」




 その一撃が、ルシアンの、極大の糸の槍と、真正面から激突した。



 部屋全体が、地震みたいに、激しく揺れる。


 拮抗は、ほんの一瞬だった。


 次の瞬間。赤と黒の渦が、ルシアンの巨大な槍を切り裂いていく。



 無数の糸が、ばらばらに引き千切れ、宙へと散っていった。


 あの日、弾かれ合った二人の刃が。今、たしかに、一つになったのだ。




 「……ほう。これは、これは」




 ルシアンが、わずかに、眉を上げる。


 だが、それでも――その薄い笑みは、欠片も崩れなかった。


 冷や汗の、一つすら浮かんではいない。




 「おやおや。やりますねえ。まさか、この私の技を押し返すとは」




 むしろ、心の底から、面白がっているようだった。


 興味深いものを見るかのように。



 その時だった。



 部屋の壁を破壊して、禍々しく光る、一振りの剣が飛び込んできた。


 それは、まっすぐ、ルシアンの手の中へと、すうっと収まる。




 「……おや」




 ルシアンが、掌に収まったその剣を見つめた。




 「この子が、独りで戻ってくるということは……」




 すこし意外そうな声で呟く。




 「……まさか。騎士団長が、やられたのですか?」




 ルシアンの視線が、宙をさまよう。


 「この子を持った、あの男を倒す者が、いたのですか。……いやはや。これは、驚きました」




 ふう、と、肩をすくめる。




 「では――この国のクーデターも、失敗、というわけですね。……ああ、残念です」




 だが。


 手の中の魔剣に目をやり、口元を、にやり、と歪ませた。




 「……まあ、でも。この子も、ずいぶんと育ったようだ」




 愛おしそうに、赤黒い刃を指で撫でる。


 その指先の傷口から、血が垂れた。


 ルシアンは、その自らの血を、剣へと吸わせる。




 「これだけ育てば――あのお方(・・・・)への、お土産には、十分でしょう」




 国を壊すことを、なんとも思っていない。


 まるで、おもちゃで遊んでいるかのような感覚。


 その、あまりに狂った言葉に、ドラゴの全身が、かっと、熱くなった。




 「……ふざけ、んな」




 よろめきながら、立ち上がる。




 「詳しいことはわかんねえが、やっぱり、おまえが今回の親玉だな!」




 「ちっ、舐めやがって」




 ガロウも、刀を握り直す。




 「ああ、そういえば、あなたたちのことを忘れてました」




 あきらかに、興味を失ったような声色だった。



 すると、ルシアンは、手にした魔剣を、ひょい、と軽く一振りした。


 ただ、それだけ。



 目に見えない、凄まじい衝撃の波が、二人を、まとめて襲う。




 「ぐあっ!?」




 「……っ、ぐ!」




 ドラゴも、ガロウも、紙くずみたいに吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられた。



 死力を尽くして放った、あの合体技。それと、同じだけの威力を。


 ルシアンは、たった一振りで、軽々と上回ってみせた。





 「早く、あのお方(・・・・)にお渡しせねば」




 ルシアンが、魔剣を、天井へとかざす。


 凄まじい轟音とともに、城の天井が大きくぶち抜かれた。



 ぽっかりと、丸い穴が開き、茜色に暮れかけた空が、覗いた。




 「では。……いつか、また、お会いしましょう」




 その体が、ふわり、と宙へ浮かび上がる。




 「その時は、どうか。もう少し、強くなっていてくださいね。――この子の、いい餌になれるくらいに」




 開いた穴を、くぐって。


 ルシアンは、悠然と、空の彼方へと消えていった。



 追うことなど、できなかった。


 指一本、動かすことすら。




 「ドラゴ! ガロウ!」




 崩れた壁の、向こうから。背に翼を広げた、レンジが飛び込んでくる。


 屋上から、あの魔剣を追って、飛んできたのだ。



 だが――。


 部屋に、残っていたのは。立ち込める、土煙。瓦礫。天井に、ぽっかりと空いた大きな穴。


 そして、壁際で、ぼろぼろになって座り込む、二人だけだった。




 「無事か? あの、魔剣は……っ!?」




 レンジが、鋭く、問う。


 ドラゴが、悔しそうに、天井の穴を、顎で示した。




 「……今、そこから、逃げられた。いや、あいつは、逃げたわけじゃねえ。用が済んだから、帰っていった」




 拳で、床を、思い切り殴りつける。




 「くそ……っ。今の俺たちじゃ、全く届かなかった! くそっ……くそぉっ!」




 ガロウも、何も言わなかった。


 ただ、握りしめたその拳が、ぶるぶると震えている。


 屈辱に。そして、どうしようもない、自分たちの力不足に。



 レンジもまた、ばっと、天井の穴を見上げた。


 だが、そこに広がっているのは、夕焼けに、赤く染まりゆく、静かな空ばかり。


 魔剣も、あの男も。もう、どこにも見えはしなかった。




 「……間に、合わなかったか」




 レンジの、絞り出すような声が、瓦礫の部屋に、静かに落ちる。


 三人は、ただ、歯を食いしばって、悔しさに、耐えることしかできなかった。



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