↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第5章 ──「カイトと、純粋な誓い(後編)」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/66

第6話 ──「水のあるところじゃ、負けない」


 黒い剣を構えたハングラルと、水筒を提げたカイトが、屋上で向かい合う。




 「ふん。……お前のような雑魚に、何ができる」




 ハングラルが、口の端を歪めた。




 「ま、確かにっすね」




 カイトが、へらり、と笑う。




 「おいらみたいな、か弱い新人守護者が、こんな化け物の相手とか。……ほんと、ついてないっす」




 だが、その足は、すっと、低く沈んでいた。




 「――でも。やるしか、ないっすよね」




 まず、仕掛けたのはカイトだった。




 「――『水弾(すいだん)』ッ!」



 水筒から、鋭い水の弾丸が立て続けに飛び出す。


 キラキラと光を弾きながら、ハングラルめがけて、まっすぐに突き進んだ。



 ハングラルは、避けようともしない。


 黒い剣を、無造作にひと振り。



 その、瞬間だった。


 あれほど鋭く輝いていた水の弾丸が、剣に触れた途端、ぴたりと勢いを失った。


 光が、すうっと消える。


 そして――ただの重たい水の塊になって、ぼたぼたと、無力に床へ落ちた。




 「……は?」




 カイトの目が、見開かれる。




 「無駄だ」




 ハングラルが、にやりと笑った。




 「この剣に、触れたものは。ことごとく、力を失う。……お前の魔法など、ただの水遊びだ」



 ――力を、吸う剣。


 グランヴェルが言っていたことを、目の当たりにする。




 「……なるほどねえ。魔力を吸い取る感じっすか。厄介な剣、持ってるっすね」




 軽口を叩きながら、カイトは、素早く頭を回転させる。


 あの剣に、触れさせないようにしないといけない。


 ならば――物量で、押す。




 「――だったら、これは、どうっすか」




 カイトが、両手を広げた。


 水筒の水が、いっせいに噴き出す。



 さきほどよりも、さらに大量の水の弾丸。


 それを、四方八方から、ハングラルに放つ。


 剣一本では、捌けない数。




 「無駄だと、言っている」




 だが、ハングラルは、動じない。


 黒い剣を、旋回させる。剣圧が、渦を巻く。


 触れた水は、片端から光を失い、無力なただの水と化していく。



 相手は騎士団長、厄介なのは黒い剣だけでなく、その戦士としての実力もだ。




 「く……っ、さすがっすね……!」




 ハングラルが一気に距離を詰める。


 カイトは、水の壁を、張った。


 迫る黒い剣を、防ごうとする。




 「――『水壁(すいへき)』!」




 だが。


 ずぶり、と黒い刃が水の壁をいとも簡単に貫いた。


 触れた水が、力を失い崩れ落ちる。



 そのまま、刃がカイトの頬をかすめた。




 「っ、あぶな……!」




 紙一重で、身を、よじる。


 頬に、つう、と赤い線が走った。




 攻撃は、通じない。防御も、貫かれる。


 カイトは、じり、じりと、後ろへ下がるしかなかった。


 斬りかかってくるハングラルを、いなし、かわし、しのぎながら。




 「ぐ……っ。これは、さすがに、まずいっすね……!」




 ちらり、と腰の水筒を見る。


 あれだけ、たっぷり入っていた水が。


 もう、ほとんど、残っていない。


 攻撃に、防御に、使うたび、ただの水に変えられていく。


 カイトの、たった一つの武器が、底を突きかけていた。




 「どうした、新人。……もう、終わりか?」




 ハングラルが、ゆっくりと間合いを詰めてくる。


 気づけば、カイトは、屋上のいちばん端まで、追い詰められていた。


 背後は、もう何もない。


 ただ、はるか下に、湖が広がっているだけ。




 「……はぁ。ほんと、面倒くさい相手っすね。あんた」




 カイトが、ため息をついた。


 そして――空になった水筒に蓋をして、閉じ、片手を、すっと上へ突き出した。




 「正直、これ、使うのは。最後にしたかったんすけどね」




 「……?」




 ハングラルが、足を、止めた。


 何かを、警戒するように目を細める。



 だが――何も起きない。


 カイトのてのひらの、その先には。


 ただ、青い空が、広がっているだけ、だった。




 「……ふん。ハッタリか!」




 ハングラルが、黒い剣を振り上げ、とどめとばかりに、一気に踏み込もうとした。



 その、瞬間だった。


 城全体が、地鳴りとともに、地震みたいに、激しく揺れはじめた。




 「な、なんだ……っ!?」




 ハングラルが、思わず足を止める。


 屋上から見下ろした、城の周り。


 白亜の城を、ぐるりと取り囲む、巨大な湖。


 そこから。大量の水が、ぶわり、といっせいに、空中へと浮かび上がっていく。




 「なっ……湖の水だと……!?」




 とんでもない量だった。


 見上げるほどの、水の壁。


 それが、もりもりと、盛り上がり、うねり、渦を巻いて、空を覆い尽くしていく。


 太陽の光が遮られ、屋上に巨大な影が落ちた。



 そして、その膨大な水が、ゆっくりと、ひとつの形をとっていく。


 長く、太く、うねる、胴体。


 鋭い、爪。ぎらりと光る、双眼。


 大きく、裂けた――顎。



 龍だ。


 水でできた、天を衝くほどの巨大な龍が、今、その姿を、空に現した。



 ずしん、と空気が震える。


 見上げるハングラルの顔に、龍の落とす影が覆いかぶさった。




 「な、なんだ、それは……! バカな……ありえん……っ!」




 あれほど、余裕を崩さなかったハングラルが、初めてその声を引きつらせた。




 「カ、カイトさん……!」




 スイ姫も、屋上の隅で目を丸くしている。




 「でも、なんで……!? カイトさんは、ご自身の魔力を流した水しか操れないはずじゃ……!」




 「あー。……それ、なんすけどね」




 カイトが、突き出した手を、くいっと動かす。


 その動きに合わせて、空を覆う水龍が、ぐねり、と巨大な身をくねらせた。




 「スイ姫と、別れてから、今日まで、ずっと。……おいら、毎日、こっそり。ちょーっとずつ。あの湖の水に、自分の魔力を流し込んでたんすよ」




 ぱちん、と。片目を、つぶってみせる。




 「もしものときの、保険に、ってね。……この国に着いた、初日から、子どもに水芸を見せるふりして。ずーっと、仕込んでたんす」




 いつもの、気だるげな顔が。ほんの少しだけ、得意げに、笑った。




 「毎日、魔力切れでしんどかったっすけど……準備しといて、よかったっす」




 「た、たかが、水ごときで――!」




 ハングラルが、黒い剣を天へとかざす。


 あの、力を吸う剣で、この水の龍すら無力化しようと。



 だが。




 「いくらなんでも、この量は簡単には、無力化できないっすよね」




 カイトの、突き出した手が、ぐっ、と握りしめられた。




 「――喰らえ。『水龍(すいりゅう)』ッ!」




 天を覆う、巨大な水龍が、凄まじい地響きと、水しぶきを上げて、まっすぐにハングラルめがけて落ちてくる。


 黒い剣が、狂ったように振るわれた。


 触れた水が力を失い、飛び散る。


 だが――消せるのは、ほんの一部。


 次から次へと、無尽蔵の水が、津波のように押し寄せる。


 剣、一本で、抗えるような量ではなかった。




 「ぐ、おおおおっ……!?」




 巨大な水の奔流が、ハングラルをまるごと飲み込んだ。


 そのまま、ものすごい勢いで、屋上の壁へと叩きつける。



 轟音。水柱。飛び散るしぶきが、屋上を白く染めていく。


 しかし、その荒れ狂う水流は、まるで意思を持つように、スイ姫のいる一角だけを避けて、渦を巻いていた。



 やがて――水が引いていく。


 壁際に、ずぶ濡れのハングラルが、ぐったりと沈んでいた。




 「……ふぅ」




 その光景を眺めて、カイトが、軽く息を吐く。



 ふと、出発前にパウル教官に言われたことを思い出した。




 『お前は水使いだろう。水の国に入りゃ、中は水辺だらけだ。お前の力は、かなりの戦力になる。いざってときは、お前が主力になれ』




 「……いったい、どんだけ見越してたんっすかね」




 ぼそっ、と誰にも聞こえない声で呟く。



 そして、濡れた前髪を、かき上げて、いつもの気だるげな声で言った。




 「……水のあるところじゃ。おいらは、負けないっすよ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。