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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第5章 ──「カイトと、純粋な誓い(後編)」

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第3話 ──「次は、お姫様の番」


 その時だった。


 閉ざされていた扉が、ゆっくりと開いた。




 「……ハングラル、団長」



 グランヴェルの声だった。




 「……ちっ。邪魔が入ったか」




 ハングラルが、舌打ちをする。


 次の瞬間、グランヴェルと数人の護衛団の兵士たちが部屋へと入ってきた。




 「姫様、お下がりを!」




 グランヴェルが、剣を抜き、スイ姫を、背にかばう。




 「グランヴェル……。貴様、なぜ、ここにいる」




 ハングラルの、濁った目が、細くなった。




 「貴様の隊は、今日、城の外周の警備に、配置したはずだ。この、城の奥に、いていい道理がない」




 「……ああ、そうだ。あんたの、命令でな」




 グランヴェルが、剣を構えたまま、絞り出すように言う。




 「あんたは、俺の隊だけを、わざわざ外へ回した。……あの時は、何も思わなかった。だが」




 その目が、悲しげに、ハングラルを、射抜く。




 「出発の前、姫様から、こっそり、言付かっていたんだ。『何があっても、わたしの後ろを、離れずについてきて』と。……姫様は、最初から、見抜いておられた。あんたが、俺たちを遠ざけようとすることも、何もかも」




 「……なるほど。姫様の、差し金か」




 ハングラルの、口元が、歪む。




 「忌々しい、その“目”だ。何もかも、見透かしてくる」




 「俺も信じたくなかった……まさか、あんたが……」




 グランヴェルの声が、怒りと悲しみで震えた。




 「ハングラル。俺は、あんたを……あんたを、止める!」




 「――囲め! 姫様だけは、何としても、お護りしろ!」




 グランヴェルの、号令。


 訓練された護衛団が、さっと散開し、四方から、ハングラルを包囲する。


 多対一。連携も、練度も、申し分ない。


 本来なら、騎士団長とはいえ、一人を取り押さえるなど、造作もない、はずだった。




 「かかれっ!」




 左右から、二人の兵士が、同時に、斬りかかる。


 ハングラルは、腰から、あの黒く濁った剣を、無造作に、引き抜いた。


 ガキンッ!


 二人の剣を、たった一振りで、まとめて、弾き返す。


 その凄まじい膂力に、兵士たちが、たたらを踏んだ。




 「……っ、な、なんて力だ……!?」




 「怯むな、続けろ!」




 グランヴェルが、その隙に、背後から、斬り込む。


 だが、ハングラルは、振り向きもせず、黒い剣で、無造作に、それを受け止めた。


 剣と、剣が、噛み合う。




 「……ぐっ! お、重い……っ!」




 押し合う、その、最中。


 ハングラルの黒い剣が、ぶわりと、どす黒い光を、放った。


 次の瞬間、グランヴェルの剣が。みしり、と、嫌な音を、立てる。




 「なっ……剣から、力が……吸われて……っ!?」





 握った剣から、まるで、魔力そのものが、吸い取られていくようだった。


 ぞっとして、グランヴェルは、慌てて、飛び退く。




 なんだ、あの剣は……っ。触れた得物から魔力を喰らうのか……!?




 それでも、護衛団は、諦めなかった。


 一人が斬られて、膝をつけば。すかさず、別の一人が、前へ出る。


 傷を負いながら、血を流しながら。彼らは、必死に、食らいついた。



 ――だが。




 ……駄目だ。この剣、まともにやり合っても、勝てない……っ




 握った剣から力を吸われる、その感触に。グランヴェルは、悟ってしまった。


 相手は、全盛期を過ぎた騎士団長。


 護衛団長である自分と、複数の兵がいれば、討ち取れる。そう、算段していた。



 しかし、あの黒い剣が、それを、覆した。


 斬り結ぶたび、こちらの力ばかりが、削られていく。


 このままでは、ハングラルを、討つことは、できない。




 「……総員、聞け!」




 グランヴェルが、声を、張り上げた。




 「体勢を立て直す。まず、姫様を、お逃がしするぞ! 我らが命に代えても、道を、こじ開けろ……!」




 もはや、勝つためでは、ない。


 その身を、盾にして。姫が逃げる、わずかな隙を、作るために。


 護衛団は、なおも、死力を尽くした。



 だが、スイ姫は。


 動けなかった。



 この作戦を立てたのは、自分だ。


 その自分のために、傷つき、血を流し、倒れていく者たち。


 それを、見捨てて、逃げることなど――彼女には、どうしても、できなかった。




 「……お願い、もう……もう、やめて……!」




 そして――その、わずかな、迷いの間に。


 戦況は、決してしまう。




 「もう、いい。……茶番は、終いだ」




 ハングラルの剣が、ひときわ、大きく。黒い光を、噴き上げた。



 薙ぎ払われた、その、一閃。


 残っていた兵士たちが、まとめて、宙を、舞う。


 壁に叩きつけられ、次々と、崩れ落ちていった。




 「ぐあっ!?」




 「が……っ!」




 最後に、立っていたのは。


 グランヴェル、ただ、一人。



 全身、傷だらけ。肩で、荒く、息をしている。


 それでも、彼は、折れかけた剣を、まっすぐに、構えていた。




 「……まだ、だ。俺は、まだ……姫様を、護るまでは……倒れるわけには、いかない……っ」




 「見上げた、忠義だ。だが――もう、いい加減に、終われ」





 ハングラルが、無造作に、剣を、振り下ろす。



 ガキィンッ!


 受け止めた、グランヴェルの剣が。今度こそ、耐えきれずに――根元から、砕け散った。




 「――が、はっ……!」




 がら空きになった、胴を。黒い刃が、したたかに、打ち据える。


 グランヴェルの体が、宙を舞い、壁へと、激突した。


 ずるずると、崩れ落ちる。




 「ぐ……っ、ぁ……。ひめ、さま……にげ、て……くだ、さ……」




 それだけを、言い残して。彼の意識は、ふつり、と、途切れた。




 「グランヴェル……! そんな……っ」




 スイ姫が、悲鳴のように、叫ぶ。



 もう、この部屋に。立っている者は、いなかった。


 倒れ伏す、兵士たち。傷つき、動かなくなった、グランヴェル。


 そして――スイ姫と、ハングラル、ただ、二人。



 その、姫のほうへ。


 ハングラルが、黒い剣を、ずるり、と、引きずりながら。


 ゆっくりと、歩み寄って、くる。濁った、焦点の、合わない目で。



 スイ姫は、後ずさろうとして――背中が、冷たい壁に、突き当たった。


 もう、逃げ場は、どこにもない。




 「さて」




 ハングラルの口元が、いびつに、歪んだ。黒い刃が、ゆっくりと、持ち上がる。




 「次は――お姫様の、番ですよ」




◆◆◆



 同じ頃。城の、別の一室――国王の間。


 王と王妃のそばを護るのは、四人の護衛だった。


 グランヴェルの指示で、各隊から選ばれた、副隊長たち。


 国王夫妻の身を案じ、特に信頼の置ける精鋭を、と配置した四人である。



 その四人が今、王の間になだれ込んだ味方であるはずの兵士たちを相手に、奮戦していた。




 「陛下……っ。どうか、我らのために、死んでくだされ!」




 「これは、この国のためなのです! 弱い王など、もう、必要ない……っ!」




 兵士たちは、口々に叫ぶ。信じきった目で。まるで、それが、正義であるかのように。


 彼らは、気づいていない。国を護ると言いながら、その王を、手にかけようとしている。


 その、恐ろしい矛盾に。




 「くっ……この者たち、正気ではないぞ! 殺すな、峰で打て……っ!」




 反旗を翻した兵たちは、恐れを知らなかった。


 まるで、何かに、突き動かされるように。


 焦点の合わない目で、次々と、斬りかかってくる。



 だが――さすがは、選び抜かれた副隊長たち。


 無駄のない動きで、その一人ひとりを、峰打ちで、的確に沈めていく。



 一人、また一人。うつ伏せに、崩れ落ちる、正気を失った兵たち。


 十人、いや、それ以上か。



 やがて――王の間に、立っている敵は、いなくなった。




 「……ふう。陛下、もう、大事ございませぬ」




 副隊長の一人が、額の汗を、ぬぐう。


 四人に、安堵の色が、浮かんだ。



 その、一瞬の。油断を。


 ずぶり、と。


 鈍い音が、した。




 「……っ、が」




 副隊長の一人が、目を、見開く。


 その背中から――隣に立っていた、同じ副隊長の剣が、深々と、生えていた。




 「ロ、ロドリグ……貴様っ!? 味方を……なぜ……!」




 「味方? ……ああ、そうとも。おれは、この国の味方だ。この国を護るために、こうして戦うのだ」




 ロドリグと呼ばれた男が、うっそりと、笑う。崩れ落ちる同胞を、見向きもせずに。


 その隣で、もう一人の副隊長もまた、剣を抜き、ぎらついた目を、王へと向けていた。



 ――この二人もまた、そこらに倒れる兵士たちと同じ。


 矛盾を抱えたまま、己の歪んだ“正義”に、取り憑かれている。




 「おのれ、貴様ら……っ! 正気か!」




 残る、一人の副隊長が、血相を変える。


 だが、対する裏切り者は、二人。




 「陛下から離れろっ!」




 正気の副隊長が、裏切り者のロドリグへと、斬りかかる。


 刃が噛み合い、火花が散る。



 だが、それでは――もう一人の裏切り者を、止められない。




 「ぐっ……しまっ……!」




 「……国のためだ。老いた王よ。どうか、退場していただこう」




 最後の裏切り者が、うっそりと、王の前へ、進み出る。


 その目は、狂気に、ぎらついていた。


 己の凶行を、正義だと、信じきった目で。




 「お前まで……っ。長年、仕えてくれた、お前まで……なぜだ!」




 「これが、国のため、国を護るためだ!」




 剣が、高々と、振り上げられる。




 「さあ、陛下。この国の、新しい夜明けのために――!」




 王妃を、背にかばう、国王。その眼前で。


 白刃が、振り、下ろされる。



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