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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第4章 ──「カイトと、純粋な誓い(前編)」

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第9話 ──「観光の、名目で」


 背を向けて歩き出したガロウの肩を、ぽん、と誰かが掴んだ。


 コーリーだった。



 「まあ、待て。そう急ぐな」



 穏やかな声に、ガロウが、じろりと振り返る。




 「離せ。俺は――」




 「いいから聞け。レンジ、伝えてやれよ」




 コーリーが、ちらりとレンジを見た。


 ドラゴたちも、何事かと足を止める。


 レンジは、ふう、と一つ息を吐いて、ゆっくりと口を開いた。




 「……出発する前に、パウルさんから、伝言を預かってる」




 「パウル教官から? しかも出発する前って……」




 「ああ。せっかくだ、そのまま読み上げてやる。よく聞いとけ」




 レンジは、軽く咳払いをして、言葉を続けた。




 「『任務は、無事に完了した。よくやった。――そこでお前たちには、今日から一週間、休暇をやる』」




 「……は? 休暇?」




 ドラゴが、きょとんとする。




 「『せっかくの友好国だ。この美しい国を、たっぷり観光してこい』」




 「観光って……こんな状況で、何のんきなこと――」




 言いかけたサシャを、レンジが、すっと手で制した。


 まだ、続きがある。




 「『ただし――もし、その観光の最中に。お前たち自身に、何か火の粉が降りかかるようなことがあれば』」




 レンジの声が、少しだけ低くなる。




 「『その時は。各々の判断で、好きに対処していい』」




 しん、と、静かになった。


 ドラゴたちは、ぽかんと、その言葉の意味を考える。


 休暇。観光。火の粉。各々の判断で、対処していい――。




 「……あ」




 最初に気づいたのは、カイトだった。


 いつもの眠たげな目が、ゆっくりと、大きく見開かれていく。



 じわじわと、その意味が、全員の頭に染み込んでいく。


 つまり――こういうことだ。




 「任務が完了した俺たちは、もう、ただの観光客だ」




 レンジが、にやりと笑った。


 その隣で、コーリーとランデルも、口の端を持ち上げる。




 「観光客が、たまたま街を歩いてたら。たまたま、悪いことを企む奴らに出くわして。たまたま、そいつらが俺たちに襲いかかってきたら……」




 「そりゃあ、仕方ねえ」




 「身を護るために、対処するしかねえな!」




 三人が、悪そうに――けれど、どこか温かく、ニヤリと笑った。



 ドラゴの、ぎゅっと握りしめていた拳から、ふっと力が抜けていく。




 「……そっか」




 ぽつりと、こぼれた。




 「そっか……! なんだよ、それ!」




 ぱあっと、ドラゴの顔が輝いた。




 「最初っから、誰も、見捨てる気なんてなかったんじゃねえか! オレが本気で怒ったの、バカみてえじゃねえかよ!」




 照れ隠しみたいに、わっはっはと大笑いする。



 サシャの目には、いつのまにか、涙が浮かんでいた。


 けれど、それはもう、さっきまでの絶望の涙じゃない。




 「……ほんと、もう。最初から、そう言いなさいよ」




 ぐいっと涙を拭って、彼女は笑った。




 「けっ」




 立ち去ろうとしていたガロウも、足を止めた。


 肩越しに、じろりと振り返る。




 「観光に興味はない。だが……この国で強い奴を探すのも、悪くないだろう」




 ふん、と鼻を鳴らして、踵を返す。戻ってきた。



 その背中に、レンジが、ふっと口元をゆるめた。


 それから、すっと真顔に戻って、頭を下げる。




 「……だますような真似をして、悪かったな」




 申し訳なさそうな、低い声だった。




 「本当はな。もしお前たちが、『任務なんだから仕方ない』って、あの人を見捨てるような奴らだったら――この伝言は、伝えないつもりだった。その時は、俺たち三人だけで、勝手にやらせてもらうってな」




 レンジ、コーリー、ランデルの三人が、ふっと顔を見合わせる。


 それから、レンジは、まっすぐにドラゴたちを見た。




 「だが、お前たちは――レガリスの守護者としての“正解”を、自分の力で手繰り寄せた。胸を張っていい。さすが、パウルさんが今回の任務に選んだだけのことはある」




 ドラゴが、サシャが、ガロウが。どちらからともなく、フッと笑みをこぼす。



 そして――。


 ずっと黙っていたカイトが、ゆっくりと、顔を上げた。


 いつもの眠たげな目に、今は、はっきりとした光が宿っている。




 「……決めたっす」




 腰の水筒を、ぽんと叩く。




 「おいら、サボるの大好きっす。休暇も、世界で一番大好きっす。だから――」




 にっと、口の端を上げた。




 「せっかくもらった、大事な休暇っす。この国も、式典も……そんで、スイ姫も。ぜーんぶ、おいらが最前列で、観光させてもらうっすよ!」




 それは、いつものぼやきとは、まるで違う声だった。


 誰よりも面倒くさがりだった男が、誰よりも熱く、そう宣言したのだ。




 「……ふっ。そうだな! やってやろうぜ!」




 ドラゴが、にっと笑って、拳を突き出す。


 ばらばらになりかけていたチームが、もう一度、一つにまとまっていく。


 白い城を見上げる、四人の目に、同じ炎が燃えていた。




 「さあ――」




 カイトが、ぐっと伸びをして、明るく言った。




 「明日から、ずいぶん忙しい観光になりそうっすよ!」



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