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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第4章 ──「カイトと、純粋な誓い(前編)」

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第10話 ──「祝祭が、地獄に変わる」


 それから、休暇、という名の護衛が始まった。


 ドラゴたちは、手分けをして、王都のあちこちに散った。


 表向きは、のんきな観光客。


 だが、その目当ては遊びではない。



 カイトがいたのは、王城を囲む、大きな湖のほとりだった。


 そこには、ちょっとした公園がある。


 日中には、水遊びをする子どもたちで賑わう、のどかな場所だ。




 「ほーら、見ててくださいよ」




 浅瀬に腰を下ろしたカイトが、指先を、くいっと動かす。


 すくい上げた水が、ふわりと宙に浮かび、小さな水の魚になって、子どもたちの周りを、すいすいと泳ぎまわった。




 「わあ……っ!」




 「お兄ちゃん、すごい!」




 歓声を上げて、はしゃぐ子どもたち。カイトは、次々と水の生き物を作っては、その小さなてのひらに、ちょこんと乗せてやる。


 傍から見れば、子ども好きの、気のいい旅の兄ちゃん。ただ、それだけの光景だ。



 だが――子どもたちと笑い合いながらも、カイトの眠たげな目は、湖の向こうを、ちらちらと捉えていた。


 湖の中央に、水の上へ浮かぶように建つ、白亜の城。


 陸地とその城とをつなぐ、一本の大きな橋。


 橋のたもとに構える、城の正門。


 見張りの兵の数と、その立ち位置。




 ……城まで渡れるのは、あの橋一本きり。何かあったら、あそこが要になるっすね




 のんびりと水と戯れながら、その実、カイトは、この街でいちばん城に近いこの場所から、ずっと城を観察し続けていた。




 「お兄ちゃんは、明日の式典、見にいくの?」




 「んー、まあ……特等席で、見物させてもらう予定っす」




 子どもの頭を、ぽんと撫でて、カイトは、へらりと笑った。





 同じころ。ドラゴは、式典が行われる、あの広場にいた。


 串焼き片手に、群衆に紛れて歩きながら――その目は、広場の隅々をしっかりと捉えている。



 湖に面した、大きな広場。


 その中央には、湖へ張り出すように、式典用の壇が組まれつつあった。


 明日、あの上に、スイ姫が立つのだろう。




 ……もし、あそこでスイ姫が襲われたら――




 難しいことは考えない。守るべき場所と、そこへの最短ルート。


 もし何か起きたら、迷わずそこを駆け抜ける。


 ドラゴは、それだけをイメージしていった。





 一方、ガロウが歩いていたのは、広場から少し離れた、街の裏手だった。


 賑わう広場に、背を向けるように。ガロウは、たった一人、入り組んだ路地へと足を踏み入れていく。



 人通りのない、細道。荷物の陰。


 閉ざされた空き家。


 物陰から物陰へと、その鋭い眼光がなめるように走る。




 ……この街の死角、抜け道はこのあたりか




 どこに身を隠し、事を起こしたあと、どこへ逃げるか。


 街の“裏側”を読んでいく。


 ガロウは、その一つひとつを、無言のまま、目に焼き付けていった。





 そして、宿の一室。


 サシャは、レンジ、コーリー、ランデルと共に、机に広げた王都の地図を囲んでいた。




 「……正直、相手が何を狙ってくるのか、それが読めません」




 サシャが、眉をひそめる。




 「姫様を人質に取るのか。式典をぶち壊して、王家の面目を潰すのか。それとも――」




 「命を、狙ってくるか。だな」




 レンジが、静かに、言葉を継いだ。




 「スイ姫は言っていた。王族の命を狙う者まで現れた、とな。……相手は、もう、そこまで踏み込んでる連中だ」




 地図の広場を、こつ、と指で示す。




 「そして明日、王族が大勢の国民の前に、その身をさらす。仕掛けるなら、これ以上ない好機だ。だから――最悪の場合も、想定して動く」




 「最悪、というのは」




 「王族の、暗殺だ」




 部屋の空気が、ぴりっと、締まった。




 「起きないなら、それでいい。だが、起きてから慌てるようじゃ、守護者失格だ。何が来ても動けるように、あらゆる筋を、頭に入れておけ」




 サシャは、ごくりと唾を飲み込み、地図の上の城を、じっと見つめた。



 明日。この平和な街が、戦場に変わるかもしれない。その緊張が、部屋の空気を、張りつめさせていた。



◆◆◆


 そして――式典の当日。


 朝から、王都は、すさまじい熱気に包まれていた。



 色とりどりの旗が、青い空にはためく。


 国中から集まった、人、人、人。


 屋台からは甘い匂いと香ばしい匂いが漂い、あちこちで、子どもたちの笑い声が弾ける。


 一年で一番の、晴れの日だった。



 湖に面した広場の、湖へ張り出すように設けられた壇。


 その後方には、国王と、王妃の姿もあった。



 だが、この晴れの日の主役は、あくまで一人。


 中央へ進み出た、スイ姫。その姿に、群衆の視線が、いっせいに集まった。



 ざわめいていた広場が、しん、と静まり返る。



 純白の礼装。その裾には、水の国を象徴する、淡い青の刺繍。


 碧い髪には、花と、透きとおった水色の宝石をあしらった冠。


 陽の光を受けて、その全身が、きらきらと湖の水面のように輝いている。



 そして、彼女の背後には――湖の中央に浮かぶ、白亜の城。


 水面に映る城と姫の姿が、二重になって、静かに揺らめいていた。



 旅の道中で見た、あの気さくな女の子とは、まるで別人だ。


 背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据える横顔には、一国の王女としての、凛とした気品が満ちている。




 「……うわ」




 群衆に紛れていたドラゴが、思わず、間の抜けた声を漏らした。




 「なんつーか、その……あれだな。すげえな……」




 少し離れて立っていたサシャも、小さく息をつく。




 「……きれい」




 その目は、しばし、壇上の姫に見とれていた。



 カイトは、何も言わなかった。いや、言えなかった。


 ただ、いつもの眠たげな目を見開いたまま、まっすぐに、その姿を見つめている。



 だが。




 ……いや。見とれてる場合じゃ、ないっすね




 カイトは、ぱちりと、目を覚ますように瞬きをした。


 美しい式典。晴れやかな群衆。祝福の空気で、満ちた広場。



 ――こういう時こそ、危ない。



 この浮かれた空気の、どこかに。


 もしかしたら、とんでもない“何か”が、紛れ込んでいるかもしれない。


 カイトは、そっと、群衆の顔を、一人ひとり目で追いはじめた。



 ドラゴも、ガロウも、サシャも。それぞれの持ち場で、笑顔や無表情の裏に鋭い視線を隠しながら、周囲へ気を配っている。



 やがて、壇上のスイ姫が、ゆっくりと口を開いた。


 国民に向けた、感謝の言葉。


 その澄んだ声が、静まった広場に、まっすぐ響きわたる。


 誰もが、聞き惚れていた。平和で、あたたかな、幸せな時間。



 ――その、はずだった。



 突然、広場の端で、爆発が起きた。


 焦げ臭い匂い。もうもうと立ち込める、土煙。きん、と耳鳴りがする。



 一瞬で、お祭りが、地獄に変わった。




 「きゃああっ!」




 「逃げろ!」




 悲鳴。怒号。群衆が、波のように、いっせいに逃げ惑う。



 その混乱の、土煙の向こうから――。


 スイ姫の眉間めがけて、鋭く光る一発が、まっすぐに飛んだ。



 スイ姫を狙った一撃。誰もが、気づくのが遅れた。



 だが。


 たった一人、それより速く動いていた男がいた。



 いつのまにか壇上へ飛び込んでいたレンジが、スイ姫の前へ体を割り込ませ、その一撃を、まとめて弾き飛ばしていた。




 「――最悪の想定が、当たったか」




 レンジの目が、ぎらりと光る。


 彼は、襟元につけた小さな魔具に、短く、鋭く告げた。




 「全員、聞け。『プランB』だ」




 その一言が、合図だった。


 逃げ惑う群衆。


 誰もが広場の外へと殺到する中、たった四つの影だけが、その流れに、真っ向から逆らって走り出す。



 ドラゴ。サシャ。カイト。ガロウ。



 迷いは、一切なかった。爆発した、その瞬間に、全員の頭が、ぱちんと切り替わっていた。


 人波をかき分け、まっすぐ城の橋へ。あらかじめ、決めておいた動きの通りに。



 壇の上は、騒然としていた。


 近衛たちが、国王と王妃を素早く囲み、城の奥へと下がらせていく。


 そして別の衛兵たちが、駆け寄って、スイ姫を取り囲んだ。




 「姫様! こちらへ! ここは危険です!」




 衛兵に連れられ、スイ姫が、橋の向こうの城へと運ばれていく。



 その光景を、走りながら、カイトは鋭い目で見ていた。




 ……あの衛兵たち。本当に、味方っすかね




 頭上では、コーリーとランデルが、屋根から屋根へと飛び移り、狙撃のあった方角へ、風のように消えていく。



 そして、ドラゴたちとレンジは、城の門へと迫っていた。


 爆発の混乱は、橋の向こうの城門にまで及んでいた。


 避難してくる要人、駆けつける衛兵、指示を求める兵たちで、門前はごった返している。


 警備はまともに機能していなかった。




 「――レガリスの守護者だ! 姫様の護衛で来ている! 通るぞ!」




 レンジが、隊長の威厳を込めて、鋭く言い放つ。


 護送の任にあたっていた、その顔と声。


 門番の衛兵は、一瞬迷ったものの、この混乱の中、友好国の護衛団を押し留めるまでの判断はできなかった。



 その、わずかな隙。



 ドラゴたちは、レンジに続いて、開いたままの門の内側へと、一気に滑り込んだ。


 門をくぐった、その瞬間。


 ドラゴが、剣の柄を、ぎゅっと握りしめる。




 「待ってろよ、スイ姫。……オレたちが、全部まとめて護ってやる!」



第4章は一旦これで終わりです。

前編ということで、後編となる第5章からさらに盛り上がっていきますので、

引き続きお楽しみください。

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