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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第4章 ──「カイトと、純粋な誓い(前編)」

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第8話 ──「任務は、完了した」


 城門の前に、馬車が停まった。


 間近で見上げる白い城は、想像していた以上に大きかった。


 長い旅もこれで終わり。スイ姫を、無事に送り届けたのだ。




 「護衛団、そしてレガリスの守護者諸君。ご苦労だった」




 門の奥から、一人の男が歩み出てきた。


 立派な甲冑をまとった、大柄な騎士。


 鋭い目つきと、引き結んだ口元。


 全身から、ぴりっとした厳しさがにじみ出ている。




 「私は、この国の騎士団長を務める、ハングラルだ」




 低く、よく通る声だった。




 「遠路はるばる、姫をお守りいただき感謝する。ここから先は、我ら本国の騎士団が引き継ごう。あとのことは、何も心配いらん」




 堂々とした、頼もしい騎士だった。



 馬車から降りたスイ姫が、くるりと振り返る。


 その顔には、いつもの、やわらかな笑みが浮かんでいた。




 「皆さん。ここまで、本当にありがとうございました。おかげで、無事に帰ってくることができました」




 深々と、頭を下げる。非の打ちどころのない、王女の礼だった。




 「これにて、護衛の任務は――完了です。どうか、お気をつけてお帰りくださいね」




 完璧な、笑顔だった。


 完璧すぎて――どこか、作りものめいて見えた。




 「え……完了? ちょ、姫さ――」




 カイトが、思わず声をあげる。


 だが、スイ姫は、もう背を向けていた。



 その一瞬。振り返りざまに伏せられた目が、ほんの少し、寂しげに揺れたのを。


 カイトだけが、見た気がした。



 引き止める間もなく、スイ姫は、まっすぐ城の奥へと歩いていく。


 二度と、こちらを振り返ることは、なかった。




 「では、城内は、騎士団に任せて、護衛団もゆっくり休んでくれ」




 ハングラルの号令で、アクア・ヴィータの護衛団が、いっせいに姫のあとへ続く。


 長い旅の護衛を終えた兵士たちが、次々と城門をくぐっていった。



 ハングラルもまた、レンジたちへ深く一礼すると、姫を追って、城の奥へと消えていく。


 あとに残されたのは、七人のレガリスの守護者たちだけ。



 開いていた城門が、重い音を立てて、ゆっくりと閉じていった。


 その、閉ざされた門を前に。




 「……え?」




 カイトが、ぽかんと立ち尽くす。




 「ちょ、ちょっと待つっす。どういうことっすか? 裏切り者のことも、式典のことも、まだ何にも……」




 「――ここまでだ」




 レンジの声が、静かに、割って入った。




 「任務は、完了した」




 その一言に、ドラゴが、ぱっと振り向く。




 「は? 何言ってんだよ、隊長! 完了って……まだ裏切り者も捕まえてねえし、式典だってこれからだろ!? オレたちは、スイ姫を最後まで護って、その裏切り者をぶっ倒すために来たんだろうが!」




 「それは、お前たちが勝手にそう思っていただけだ」




 レンジは、目を伏せた。




 「今回の任務は、最初から一つだけ。――『スイ姫を、アクア・ヴィータの城まで、無事に送り届けること』。それだけだ」




 「……なっ」




 ドラゴの言葉が、詰まる。




 「姫は、たった今、城の中へ入った。騎士団に、無事に引き渡した。……つまり、俺たちの仕事は、もう終わってる」




 「そんな……っ」




 サシャの顔が、こわばった。言われてみれば、その通りだった。


 パウルの指示も、契約の内容も「送り届ける」まで。


 その先のことなど、一言も、頼まれてはいない。



 だが。




 「ふざけんな!」




 ドラゴが、吼えた。




 「じゃあ何だよ!? この国に裏切り者がいて、式典で姫が狙われるかもしれねえって、分かってるのに! それを、『はい任務終わりです』って、見捨てて帰れってのか!?」




 「……ここから先は、この国の問題だ」




 レンジの声は、どこまでも淡々としていた。




 「他国の人間が、勝手に首を突っ込んでいい話じゃない。それが、国と国との、決まりだ」




 「決まりって……っ」




 「カイト。お前だって、分かってるはずだ」




 レンジが、静かにカイトを見る。




 「俺たちがここで剣を抜けば、それは“他国の軍が、アクア・ヴィータに手を出した”ってことになる。姫を助けるどころか……あの人の立場を、もっと危うくしかねない」




 カイトは、ぐっと、唇を噛んだ。


 何も、言い返せなかった。


 理屈は、正しい。正しすぎて、腹が立つほどに。




 「それに――スイ姫が、あえてそっけなく背を向けた理由も。お前たちを、この国のごたごたに巻き込まないためだろう」




 あのそっけなさには、そんな意味があったのか。


 ……何ひとつ気づけなかった自分が、カイトはたまらなく情けなかった。




 しん、と、重い沈黙が落ちる。



 その静けさを、ドラゴの声が、引き裂いた。




 「……納得できるかよ、そんなの」




 拳が、震えている。




 「目の前で、助けを求めてる奴がいる。命を狙われてる奴がいる。それを、『決まりだから』『任務じゃないから』って、見て見ぬふりして帰る……そんなのが、守護者かよ!?」




 「ドラゴ――」




 「オレは、そんな守護者になるために、ここまで来たんじゃねえ!」




 ドラゴの叫びが、城門の前に、びりびりと響き渡った。




 「もし、それが守護者だってんなら――」




 大剣を握る手に、ぎりっと力がこもる。




 「だったらオレは、守護者なんて、やめてやる!」




 しん、と、その場が静まり返った。


 レンジも、コーリーも、ランデルも。先輩三人は、何も言わなかった。


 反論もしない。ただ、静かに――不気味なくらい静かに、ドラゴたちを見つめているだけだった。




 「……どうにか、ならないの!?」




 サシャが、たまらず声を上げた。すがるように、レンジを見る。


 だが、答えは、返ってこない。




 「ちっ」




 ガロウが、ふいと背を向けた。




 「……俺は、勝手にさせてもらう」




 肩越しに、そう吐き捨てる。



 チームが、ばらばらに、壊れかけていた。


 誰も、どうすればいいのか分からない。


 最悪の空気だけが、白い城門の前に、重く立ち込めていた。



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