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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第4章 ──「カイトと、純粋な誓い(前編)」

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第5話 ──「誰が、敵か分からない旅」


◆◆◆


 翌朝。


 守護者本部の大きな門の前に、ドラゴたちは集められていた。



 空はよく晴れている。


 昇ったばかりの朝日が、石畳を白く照らしていた。


 ひんやりとした朝の風が、ドラゴの赤い髪を、さらりと撫でていく。



 門の前には、一台の立派な馬車。


 スイ姫を乗せるためのものだ。


 その周りを、アクア・ヴィータ護衛団の兵士たちが、ぐるりと固めている。


 揃いの青い制服が、朝の光を受けて、きりっと引き締まって見えた。



 ドラゴは、ぐっと拳を握る。


 昨夜、パウルに再び集められ、作戦を告げられた時のことを思い出す。




 ――いいか、お前ら。今回の隊長はレンジだ。コーリーとランデルが副隊長。細かい指示は、こいつらに従え。




 厳しい顔のパウルが、低い声で続ける。




 ――それから、表向きはこうだ。「新人に、護衛任務の経験を積ませてやりたい」。先輩三人は、お前らのお守り役。アクア・ヴィータの連中のメンツを潰さねえように、その建前で通せ。




 ――けどな。本当の狙いは、別にある。




 パウルの目が、すっと鋭くなった。




 ――何でもいいから理由をつけて、最低でも一人は、必ずスイ姫のそばにいろ。そんで、残りはこう思って動け。『この護衛団の中に、裏切り者がいるかもしれねえ』――ってな。




 その言葉を思い出すだけで、ドラゴの背中に、ぴりっと緊張が走る。


 目の前で笑っている兵士たち。この中の誰かが、姫の命を狙っているかもしれない。


 そう考えると、爽やかなはずの朝の空気さえ、どこか張りつめて感じられた。



 ちらりと、隣を見る。


 レンジたち先輩三人は、護衛団の兵士と、にこやかに言葉を交わしていた。


 だが――その目は、笑っていない。



 愛想笑いを浮かべながらも、レンジの視線は、ちらちらと動いている。


 兵士の立ち位置。腰に差した剣の数。馬車の周りの、わずかな隙間。


 そのすべてを、鋭く、見逃さずに数えていた。




 ……さすがっすね




 少し離れたところで、カイトもそれに気づいていた。


 いつもの眠たげな目を、ほんの少しだけ細める。あくびはもう、出てこなかった。



 しばらくして、馬車のほうから、人影が近づいてきた。


 先頭を歩くのは、スイ姫。その隣には、レンジ隊長。


 そして――いかにも歴戦の騎士、といった風格の、大柄な男が一人。




 「みなさん、おはようございます」




 スイ姫が、柔らかく微笑んで頭を下げた。




 「少し長い旅になりますが……どうぞ、よろしくお願いしますね」




 その隣で、大柄な男が、よく通る声を上げる。




 「よし! では、今からスイ姫様の護衛を開始する!」




 それから、男はドラゴたちのほうへ、まっすぐ向き直った。




 「聞いているぞ。今回は、レガリスで先日、守護者になったばかりの若者たちが、一緒に来てくれるそうだな」




 大きな手を、自分の胸に当てる。




 「私は、アクア・ヴィータ護衛団長のグランヴェルだ」




 その顔に、にっと、温かい笑みが浮かんだ。


 裏も表もない、真っ直ぐな笑顔だった。




 「友好国の未来を担う、大事な若者たちだ。この旅で、ぜひいろいろと経験してくれ。困ったことがあれば、いつでも何でも言ってくれていい」




 そう言って、深々と頭まで下げてくる。他国の、しかも新人相手に、だ。


 ドラゴたちも、慌てて敬礼を返す。




 「……なかなか、誠実そうな男ね」




 サシャが、ぼそりと小声でつぶやいた。少し感心したような声だった。




 「そうかぁ?」




 だが、ドラゴは腕を組んで、首をかしげる。




 「ああいう、いかにも『俺はいいヤツです』って面したヤツに限ってよ……裏切り者かもしんねえぞ?」




 「ちょっ……声が大きいわよ、馬鹿!」




 サシャが、慌ててドラゴの脇腹を、ぐりっと小突いた。




 「失礼にもほどがあるでしょ! まだ何も分かってないのに!」




 「いてっ。だ、だってよぉ……」




 ひそひそと言い合う二人。


 それを少し離れて見ていたカイトが、「平和っすねえ……あの二人だけは」と、半ば呆れたようにつぶやいた。



 そんな中、スイ姫が、馬車へ乗り込もうとしていた。


 ステップに足をかけたところで、ふと、その動きが止まる。



 碧い瞳が、ドラゴたちのほうへ、ちらりと向けられた。


 そして、カイトと目が合った。


 スイ姫の口元が、ほんの少し、ほころぶ。




 「……」




 カイトは、何も言わない。


 ただ、腰の水筒を、ぽんと一つ、てのひらで叩いてみせた。


 任せとけ、とでも言うように。


 その仕草に、スイ姫は、くすりと笑う。


 それから、こくりと小さく頷き返して、馬車の中へと、その姿を消した。



 たったそれだけの、言葉のないやりとり。


 けれど、張りつめていたカイトの肩から、ほんの少しだけ、力が抜けた気がした。



 やがて、全員の準備が整った。


 馬車を引く馬が、ぶるると鼻を鳴らす。


 兵士たちが、それぞれの持ち場についた。


 グランヴェルが、大きく息を吸い込み、青い空に向かって、号令を放つ。




 「――それでは、出発だ!」




 馬車の車輪が、ごとりと音を立てて回りはじめた。


 馬のひづめが、石畳を叩く。


 風が、一行を追い越すように、さあっと吹き抜けていった。



 ドラゴは、サシャとカイト、そして無言のまま隊列に並ぶガロウと、そっと目配せを交わす。


 誰も、何も言わない。


 けれど、その目の意味は、全員にしっかりと通じていた。



 ――ここからは、任務だ。


 誰が敵かも分からない、長い旅の始まり。


 朝日を背に受けて、護衛の隊列は、ゆっくりと門の外へと進み出した。



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