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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第4章 ──「カイトと、純粋な誓い(前編)」

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第3話 ──「いちばん白いのは、新人だ」


 カイトの小声は、思いのほか部屋に響いてしまったらしい。


 隊長に任じられたばかりのレンジが、それを拾うように口を開いた。




 「……パウルさん。事情は分かりました。ですが、人選については教えてもらえますか?」




 その視線が、ちらりとドラゴたちのほうへ流れる。




 「俺たちの代から、コーリーとランデルが選ばれてるのはいい。経験もあるし、連携も取りやすい。けど――それ以外が、新人四人ってのは。さすがに、どういう理由なんです?」




 その言葉に、コーリー、ランデルと呼ばれた二人の守護者も、一斉にドラゴたちを見た。


 値踏みするような、鋭い視線。


 ドラゴたちは、思わず背筋を伸ばす。




 「もっともな疑問だ」




 パウルは、腕を組んだまま静かに答えた。




 「理由は、二つある」




 一本目の指を立てる。




 「一つは、大人の事情だ。アクア・ヴィータには、向こうの護衛団がついてる。それなのに、こっちから腕利きを大勢送り込んでみろ。どうなる?」




 「……向こうの護衛団の、顔を潰すことになる」




 レンジが、低く言った。




 「そういうことだ」




 パウルがうなずく。




 「ただでさえ国が揺れてるときに、自分の国の護衛じゃなく、よその国の護衛をぞろぞろ引き連れて帰る。そんなのを見たら、国民はどう思う? 味方のはずの人間まで、『あの姫は、自分の国を信じてないのか』って、不安になっちまう」




 「あー……なるほど。強すぎる助っ人は、かえって良くないってことっすね」




 カイトが、ぽんと手を打った。




 「飲み込みが早いじゃねえか」




 パウルがにやりと笑い、二本目の指を立てた。だが、その目つきが、すっと鋭くなる。




 「そして、もう一つ。こっちが本題だ」




 部屋の空気が、ぴんと張りつめた。




 「裏切り者の情報網が、どこまで伸びてるか分からねえ。アクア・ヴィータは友好国だ。合同の任務や訓練も多く、こっちとの行き来も頻繁にある」




 「……まさか」




 サシャの顔色が、さっと変わった。




 「最悪の場合――この、レガリスの守護者の中にも」




 パウルは、はっきりと言い切った。




 「裏切り者の手が伸びてる奴が、いてもおかしくねえ」




 「おい!? なんだよ、それ!?」




 ドラゴが、椅子から身を乗り出した。




 「あくまで、最悪を想定すればの話だ。だがな」




 パウルは、ぐるりと部屋を見回した。




 「こいつらは違う。守護者になりたてで、まだどこの誰とも繋がりがねえ。裏切り者と接触する機会すら、なかった連中だ。つまり――今この本部で、いちばん『白い』のは、こいつら新人ってわけだ」




 パウルの視線が、ちらりと壁際へ流れた。




 「まあ……一匹だけ、仲間とすら群れたがらねえ奴もいるがな」




 全員の目が、つられてそちらを向く。


 腕を組んで壁にもたれた、ガロウ。


 視線が集まっても、眉ひとつ動かさない。




 「……ちっ」




 小さな舌打ちひとつ。


 それだけ残して、ガロウは興味なさげに顔をそむけた。



 しん、と静まった部屋に、レンジたち先輩守護者の、低い唸り声が漏れた。


 大げさに驚くでもない。ただ、その目つきだけが、ぐっと鋭くなる。




 「……なるほど。そこまで考えての、人選でしたか」




 レンジが、覚悟を決めたように頷いた。




 「分かりました。その信頼、必ず応えてみせます」




 コーリーとランデルも、無言で深くうなずく。


 歴戦の守護者たちが、静かに腹を括る。その姿は、見ているだけで頼もしかった。




 「それから――」




 パウルの視線が、ふいにカイトで止まった。




 「今回の任務、重要になるのはお前だ。カイト」




 「……は?」




 カイトの間延びした声が、ぴたりと止まる。




 「え、ええっ!? おいらっすか!?」




 「お前は水使いだろう。水の国に入りゃ、中は水辺だらけだ。お前の力は、かなりの戦力になる。いざってときは、お前が主力になれ」




 「いやいやいやいや!」




 カイトが、ぶんぶんと両手を振った。




 「水辺とか、全っ然関係ないっすよ! おいらの力はね、自分の魔力を流し込んだ水しか操れないんす! そこらの川とか湖の水は、いくらあっても、ぴくりとも動かせないんすよ!」




 腰の水筒を、ばしばしと叩いてみせる。




 「だから普段から、こうやって自分の水筒を持ち歩いてるんす! 主力とか言われても、こまるっす!」




 「お前の能力は、ちゃんと分かってる」




 パウルは、平然と言ってのけた。




 「だがな。武器にできる水が、近くに大量にあるのと、ないのとじゃ大違いだ。せいぜい頑張れよ」




 「い、言いくるめられたっす……」




 カイトは、がっくりと椅子に沈み込んだ。そのまま、両手で頭を抱える。




 「休みは潰れるわ、変な責任まで背負わされるわ……今日はとことん、ついてないっす……」




 その情けない姿に、スイ姫が口元を押さえて、くすりと笑った。




 「よし。じゃあ、俺とレンジ、コーリー、ランデルは、これから作戦会議だ」




 パウルが、ぱんと手を叩く。




 「お前ら新人四人には、後で内容を共有する。明日の出発に向けて、しっかり準備しとけ。スイ姫も、どうか今夜はゆっくりお休みください」




 そう言うと、パウルは先輩守護者たちを引き連れ、会議室のほうへと歩いていった。



 扉が、ぱたんと閉まる。


 残されたのは、新人四人――ドラゴ、サシャ、カイト、そして壁際で腕を組んだままのガロウ。それと、スイ姫だけだった。



 さっきまでの賑やかさが嘘のように、部屋はしんと静まり返っている。


 味方の中に、裏切り者がいるかもしれない。


 その重たい一言だけが、まだ誰の胸の中にも、ずしりと残っていた。



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